#SF小説
【6話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】
スラムの片隅に、遊沙の行きつけのコンビニが建っている。小さなバラック小屋がひしめき合うこの地域では珍しく、ある程度大きな建物である。
といっても、他よりよい物件という訳ではない。他の人が住処を建てたがらない堤防の上に建っているから、土地を広めに確保できているだけだ。
店内では棚の代わりに壊れた脚立が並べられ、種類豊富な商品が陳列されている。といっても、商品はどこかから拾ってきたようなガラクタばか
【5話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】
第二章『リング』「こんな大きな仕事だなんて、聞いてなかった!あのクリップだけで、ご、五千五百万の受け渡しだなんて!」
暗い室内に、遊沙の怒鳴り声が響いていた。表情の読めないフクロウはただ座り、静かに呼吸を繰り返す。
ここはクリップ屋の狭苦しい一室。運び屋の仕事を遂行した遊沙は、帰るや否やフクロウに詰め寄り、長い事鬱憤を吐き出していた。
「額の大きさなんて、仕事に関係ありません。やることは簡単
【4話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】
「ぶ、ぶちょーですか!偉そうな感じですね」
「いえいえ。気さくな方ですよ。そう固くならずに」
案内役は扉をノックし、挨拶をする。
部屋の中から返ってきたのは、テンションの高い声だった。
「失礼します」
「し、失礼しま~す」
案内役が部屋の中に入り、遊沙もおずおずと後に続いた。
分厚い扉の奥は、二十畳ほどの部屋になっていた。
赤い絨毯に、木目の綺麗な壁。硝子のテーブルに黒塗りのソファが高級感