4.紫陽花の枯葉〜色彩の暴力を散らして〜
青海は泣いていた
青「どうして…」
溶け残った紫陽花を見つめながら、私に軽蔑の眼差しを向けながら。
赤「青海」
青「どうして?どうしてこんなことができるの?こんなに綺麗な紫なのに、どうして…」
赤「元はと言えば私の紫陽花よ。私の手で溶けるのが運命だったのだから、その通りになっただけでしょう?」
青「え?」
青海は目を見開いている
赤「気づいてないと思ってたのかしら。バレないように下の方から取ったのよね?」
青「見て、たの?」
赤「いいえ。手入れの際に気づいたわ。」
青「ごめん、ごめんなさい…勝手に盗んだのは本当に悪かったと思ってる。でも、どうせ全部溶かしてしまうなら、一朶くらい…」
赤「それも、私が決めることよ。でも溶かして正解だったわね。」
青「え?」
私は床に座る青海に目線を合わせる
赤「私は、美しければ美しいものほど、私の手で溶ける姿が見たいの。この紫陽花だってそう。
青海だって、そのうちの一人だった」
そっと頬を撫でると青海はひっと短い悲鳴をあげて後ずさる。
逃がさないように、青海の手首を掴む
赤「でも、汚れてしまった。もう私の好きな青海はどこにもいないの。溶かしたいとも、思わない。標本を溶かした時に全部溶けてしまったみたいね。紫陽花も、2人の思い出も、青海に対する気持ちも。」
青「赤琳、」
赤「紫陽花はもう枯れ始めてしまったわ。溶かしたいと思えないくらい無惨にね。青海とも、ここでお別れよ。」
私は掴んでた青海の腕を振り捨てる
そのまま、理科準備室を後にした
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あんなに怒った赤琳を見るのは初めてだった。
全部私が悪い。
だから赤琳の望む通り
私たちは紫陽花が枯れゆくのと同時に
お互いを知らなかった頃に戻った。
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8月某日
一ヶ月ぶりに準備室に来た。
初めてきた日みたいに誰もいない、少し埃臭くて仄暗い部屋。
古くて1回じゃ点かない蛍光灯の電源を2、3回押して、私のイスだったところに座る。
紫陽花の季節は終わり、
誄歌のようなひぐらしの声を聴きながら
全て溶けたこの部屋で
2人が確かにいた痕跡を探していた
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次回 7/9 Epilogue.調合
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MoonCalmと申します.
ハッピーエンドを書くのは苦手です.
青春ものは特に、バッドエンドで終わらせたくなってしまいます.
今回のお話も、一朶の紫陽花によって狂ってしまった2人の儚い青春を描いたつもりです.
最後に理科準備室にきた少女、
これは赤琳でも、青海でもいいと思います.
読み手によって解釈が変わるお話が好きなので
敢えて名前や特徴を書きませんでした.
⚠️一部、おいしくるメロンパン様のdry flowerから歌詞を抜粋させていただいております.ご了承ください.
さて、次回のEpilogueで"梅雨、紫陽花を食して"
は終わりです.
最後までお楽しみいただきありがとうございました.
また、新しい作品もゆっくりのんびり執筆していけたらと思っています.
次回作が上がった時もぜひ遊びに来てください。
どうぞよしなに.
では、またどこかで.