[ためし読み]『世界の中のラテンアメリカ政治』「この本について」「第1章」より
植民地、独立、国家形成、ポピュリズム、軍事政権、米国の介入、新自由主義、左傾化、民主制の後退、専制の台頭——
ラテンアメリカ諸国は非常に類似した経験を共有しており、しかし同時に、これまで各国が示してきた政治的特徴は極めて多様である。
複雑に絡み合う国際社会との関係、歴史の変遷を丁寧に読み解き、先植民地期から現代まで日本や欧米諸国などと対比しつつ、ラテンアメリカ政治史の全体像を俯瞰する、新しい概説書。
本書から、著者による「この本について」の一部と、「第1章 ラテンアメリカ政治の全体像」から冒頭部分を公開します。
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この本について
この本はラテンアメリカの政治に関する概説書です。ラテンアメリカはアメリカ大陸とその周辺の島々の中でも、アメリカ合衆国(米国)より南に位置しています。多くのラテンアメリカ諸国が独立した一八〇〇年前後からさらに昔にさかのぼり、二〇一〇年代までの政治の歩みを見ていきます。
この本はラテンアメリカの政治に見られる共通点や多様性を扱います。ラテンアメリカ諸国は非常に類似した経験を共有していることに着目します。同時に、その経験に関連して、各国が異なる政治的特徴を示したことを指摘します。
私たち筆者は、世界史の流れの中にラテンアメリカを位置づけることを意識して、この本を作りました。ラテンアメリカ諸国に共通する経験は、ラテンアメリカを取り巻く世界の動向に深く関連しています。このつながりを意識することで、そうした世界とラテンアメリカ諸国の変化を連動させて理解することができます。さらに同時期の日本の状況にも適宜触れることで、ラテンアメリカの状況を日本と対比して理解する機会も設けています。
この本は政治を扱う上で基本となる学術的な概念を用いて、ラテンアメリカの政治を記述しています。ラテンアメリカ諸国の経験をそれ以外の国と関連づけるには、一般的な広がりを持つ概念を用いる必要があります。その概念をなるべく平易に定義し、ラテンアメリカ内外の政治の説明に生かしています。(後略)
第1章 ラテンアメリカ政治の全体像
日本にとって、ラテンアメリカは文字通り遠くにある地域である。日本とラテンアメリカは太平洋をはさんだ対岸にある。東京から見た地球の裏側は、南北アメリカ大陸とアフリカ大陸の間に横たわる大西洋の洋上にあり、アフリカ大陸よりも南米大陸に近い。
ラテンアメリカを知る機会が乏しいという意味でも、ラテンアメリカには遠さが感じられる。日本を取り巻く世界について学ぶ主な機会として、高校で地理歴史を学ぶことがある。
NHK教育の番組「NHK高校講座」で年四〇回放送される「世界史」で「ラテンアメリカ」がタイトルに登場するのはわずかに一回(第三八回「ラテンアメリカとアメリカ合衆国」 )である。
しかし、注意して見れば、ラテンアメリカと日本のつながりは色々なところにある。鶏肉や塩、アボカド、バナナなどラテンアメリカ産の食料品がスーパーマーケットに並び、レゲトンやサルサ、タンゴなどラテンアメリカ発の音楽ジャンルを聞いたことがある人もいるだろう。野球やサッカーなど日本のプロスポーツの世界でもラテンアメリカ出身の選手が活躍している。
人的交流の面でも、日本とラテンアメリカの関わりは深い。二〇二一年時点で、ラテンアメリカ諸国の国籍を所有し、日本に在留している者は約二七万人に達した。これには含まれない、すでに日本国籍を得たラテンアメリカの人々も数多く存在する。また、ラテンアメリカに在住する日本人も約九万人を数える。過去に遡れば、一九世紀後半から二〇世紀前半までに、推定二五万人が日本からラテンアメリカに移住した。その子孫が大規模な日系人コミュニティを形成している国もある。
では、ラテンアメリカとはいったいどのような場所なのか。この章ではラテンアメリカを構成する国々を、本書のテーマである政治に着目しながら紹介する。日本を含むラテンアメリカでない国々との対比を通じ、世界の中でのラテンアメリカ諸国の位置づけが示されることになる。(後略)
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