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『山びこ学校』を読む その6「母の死とその後」の内容と感想

前回の記事の続きです。前回、江口江一の「母の死とその後」を全文掲載しました。以下のリンクから読むことができます。

 この江口江一さんの作文をもとに少し考えてみました。もうすこし詳細な分析は次回の記事で書いて見たいと思います。

貧困が個人や家族に与える影響とコミュニティーの支援


 江口江一さんの「母の死とその後」は、戦後すぐの山間の村において、貧困の中で生きる一つの家族のかかわりと困難を描いた作文(綴方)です。江一さんは、母の死後、家族がばらばらになる現実と直面しています。この作文は、貧困が家族に与える影響と、級友の存在や地域社会の支援がどのようにして個人や個々の家族を支えるかというテーマでみることができます。

 江一さんの家は極端に貧しく、母の死後、家族は経済的な理由から分断されます。江一さんの弟と妹は他の親族に引き取られることになり、彼は祖母と二人きりで生活することになります。母は家族を支えるために一生懸命働きましたが、貧困は彼女の健康を害し、最終的には彼女を死に至らしめました。江一さんの母の死は、級友や地域社会からの援助と同情を引き出し、学校や近隣住民からの支援が家族を何とか支えていきます。

 作文の中で、江一さんは母の死と家族の未来について深く考え、自分の役割と将来の生活の改善について考察します。江一さんは学業を続けたいと願いながらも、家族の生計を支えるためには実際的な労働が必要であったり、わずかばかりの畑では生計がそもそも成り立たないことを理解します。また、江一さんは社会的な援助がどれほど重要であるかを認識し、貧困から抜け出すための方法を考えています。

 この作文は、貧困がどのように家族の関係を形成し、個人の選択に影響を与えるかを示す一方で、困難な状況にもかかわらず、級友や地域社会の支援と連帯がいかに重要であるかを強調しています。江一さんは自身の困難を乗り越え、より良い未来を目指す決意を新たにし、級友とのつながりを大切にすることの重要性を理解します。その一方で、作文の読者は、級友とのつながりや地域社会の支援だけでは江一のような家族の生計を成り立たせることができない、ということにも気付かされます。この江一さんの貧困、この家族の生活、この村の生活というのは、日本の農村の構造的な問題ではないのか、という思いに至ります。

担任教師:無着成恭の役割とは 

 無着先生は、「母の死とその後」のなかで、江一さんに対して非常に重要な支援者の役割を果たしています。無着先生は江一さんが直面している困難を認識し、具体的な助言と実際的な援助を提供する(学級の生徒に仕事を手伝わせる)ことで彼を支えています。

 作文の中では、無着先生は江一さんが効率的に家の仕事と学業を両立できるように手助けするための具体的な計画を立てるよう指示します。これにより、江一さんは自分の日々の仕事を管理し、学業にも参加できる気持ちがわいてきます。

 さらに、無着先生はおそらく学校で江一さんの状況を共有し、他の教師や生徒たちからのさらなる支援を促したことでしょう。無着先生の積極的な関与は、江一が学級や地域社会の一員として受け入れられ、支持される環境を作り出しています。教師としての彼の役割は、教育者としてだけでなく、地域社会の成員の一人としてのサポートを通じて、江一が将来に希望を持てるようにすることにも寄与しています。

 無着先生のこのような行動は、教師が生徒の学業成績を支えるだけでなく、個々の生徒の個人的な課題や困難に対しても献身的に対応すべきであるというモデルを示しているといえます。無着先生の関与は、江一さんに大きな影響を与え、彼が困難を乗り越えて前向きな未来を築くための重要な基盤となったことでしょう。

 ただ、困難の乗り越え前向きな未来を築こうという気持ちがある一方で、重くのしかかる「問い」が厳然とあります。江一さんは、「重く大きな問い」をはっきりと、この綴方を書くことを通して、認識するのでした。それは「貧困の理由と、いかに貧困から抜け出すか」という問いです。江一さんは、それを「しんけんに勉強することを約束したい」と作文の中で述べています。

 彼(江一さん)は、このあと、どんな人生を送るのでしょうか。


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