帰らない選択
取調室の壁は白だった・・・
警察に保護され、署の中を「こちらへ」と案内され、
たどり着いたところは、入り口の壁に「取調室」と書かれてあった。
ここか・・・
少しだけ部屋の中をぐるりと見まわす。
窓は高く、壁は白。白のおかげで、部屋の中は暗いイメージはない。
机と向かい合った2つのパイプ椅子。
冷たく寂しさで溢れ、温かみが全くない部屋。
通常、悪いことをして捉えられ、送り込まれる先は
まずこの部屋なんだな。
そう思った。
ここで色々と事情聴取されるんだ。
まさか自分がこんな部屋に来るとは、想像もしていなかった。
私は何も悪いことをしていない。
名前、生年月日、住所、職業、家族構成、家族の職業、子供の学校・・・、
細かく質問を受ける。
それから
「さて、何があったか、まずお聴きしましょう。」
私はずっと泣きながら話していたので、何を話したかは覚えていない。
「パートナーを傷害罪でブタ箱に入れることが出来るが、どうするか?」
の質問に
いくら何でもそこまではと思い、取り下げをお願いしたのは覚えている。
最後の質問が
「家に帰りますか? 帰りませんか? 帰らない場合はシェルターに行きます。」
の2択の選択に迫られた。
私はもう疲れきっていた。
精神も身体もめちゃくちゃだった。
とにかく助けてほしかった。
安心できる場所を求めていた。
「帰りません」
私はそう答えた。
人生は常に選択。
帰る選択もあったのに、もう一方を選択してしまった為に、人生が全く変わってしまった。
我慢さえすれば、自分が頑張りさえすれば、
家族揃って、普通の生活が出来たかもしれないのに、
「帰らない選択」をしてしまった為に、
その後に一生の別れがあることを、その時は知らなかった。