味噌を作る

実家では毎年、翌年に食べる分の味噌を作る。
大豆を煮て、ミンチにして、麹を入れて、一年寝かせる。
ごくごくシンプルな田舎味噌だ。

かつての手動のミンサーは集落での共同購入品で昭和の初期の年号が書かれていたから、伝統的に味噌を作っていたのは間違いない。

味噌煮は足掛け二日かかる大仕事で前の晩に大豆をひやかし、翌朝早朝から大きな釜でぐらぐらと煮立てる。
やわらかくなったら比較的新しい臼に大豆をひたすらミンチしていく。手順に関しては一般的な味噌作りとなんら変わらないだろう。

数年前、手動のミンサーが壊れたから電動になったが、手動だった頃はとにかく疲れる作業だった。
中高生の時分、全部一人で回したら小遣いやるぞ、と祖母だったか、父だったかに言われて全部回したことがある。現金なものだ。

餅突きと味噌煮の時だけ、年期の入った竈で火を起こし、釜で煮炊きをする。
その竈、実家が建て替え前には屋内にあり、煮炊きに使われていたもので、相当の骨董品だった。一度は畑に半分埋まっていたが、いつだったか掘り起こされてリバイバルした。
けれど、その竈、壊れてしまい、私の知らぬ間に撤去されていた。黒いタイル張りの竈が好きだったのだが、仕方のないことだ。

実家は旧家の本家であるが故に古いものが多い。それらが損じて失われて当然の年月を経ている。

江戸時代の曼陀羅なんかは表具屋さんや住職の勧めがあって表装し直したが、すべてがそうではない。

ただ、そうした古い道具が壊れて失われるたび、確かに繋がっていた過去との繋がりが切れたような気がして寂しくなる。

どんなに大事に使っても道具は損なわれるものだ。仕方がないのはわかっているのだが…

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