【短編小説】正直な骨董屋
「ん?なんだこの皿。」
男は、とある骨董屋の前で立ち止まった。骨董屋のショーケースの中にあった皿に、目を惹かれたのだ。しかも……。
「一、十、百、千、万……100万!?」
ここの骨董屋の店主、デイビットは、町一番の正直者として有名だ。そんなデイビットが、値段に嘘などつくはずがない。
「デイビットさんよ!ちょいとお邪魔するよ!」
「おや、クラウドさん。なにか買われますか?」
「あの、ショーケースにある、皿なんだけど。」
「ああ、あの皿ですか。ありがとうございます。」
「あ、いや、買うというよりかは……。」
クラウドは、何故あの皿に、100万の値打ちがついたのか、あの皿は何なのか。デイビットに尋ねた。
「ああ、あの皿ね。実はアレ、本当は100万円じゃないんだよ。」
「え?まさか、嘘ってことかい?君らしくもない。」
クラウドが目を丸くすると、デイビットは、吐息混じりにその経緯を語った。
「友人に言われたのさ、“そんな値段じゃ、誰も買いやしないよ”ってね。」
「じゃ、じゃあ……。」
「ああ、本来は、0の数が違うね。」
デイビットの言葉に、クラウドは唾を飲んだ。ふと脳裏に浮かんだのが、長いこと付き合いのある、ジャックという鑑定士で、かなり腕利きと評判なのだ。
「そうかい……じゃあコレ、貰えるかな。」
「相分かった!まいど!あと、うち返品は受け付けてないからな!」
(返品なんざするものか。ジャックに原価で買い取ってもらうとしよう。0の数が違ぇんだ。少なくとも1000万円。900万の利益はでるはずだ。)
クラウドは、急いで銀行から100万をおろし、一括で、その皿を購入した。
そして後日。クラウドは、ジャックとカフェで待ち合わせた。もちろん、あの皿を持って。
「やぁ、待たせて悪いね。これが、例の皿?」
「ああ、そうさ。好きなだけ見てってくれ。」
ジャックは、それらしい白の手袋と、眼鏡をつけ、体制に入った。しばらく、蛇のようなギラギラとした目つきで皿を何周かさせた後、ジャックは言った。
「ふ〜、クラウド。実はな……。」
「ふむふむ……な、なにぃ!?」
ジャックからの言葉を聞くや否や、クラウドは鬼の形相を作って、デイビットの骨董屋へ向かった。
「やい!デイビット!一体どう言うことだ!」
「うわわわ!」
昼食中だったか、デイビットは勢いのあまり、お茶を溢していた。だが、クラウドにとって、そんなことはどうでもいい。
「ちょっとクラウドさん、驚かさないでくださいよ。」
「ふん、人に嘘吐いといて、よくもまぁそんな呑気でいられるもんだ!」
「え、え?値段については、もう訂正しましたが。」
「そっちじゃないよ!さっき、信頼できる腕利きの鑑定士にこの皿を見せたんだ!そしたら、“これ、頑張ってつけても1000円が限界”だとよ。なにが桁違いだ!」
クラウドが鬱憤を吐くと、予想外にも、デイビットは関心と疑問が入り混じったような表情だった。
「はぁ〜、その鑑定士さん、相当な腕利きですなぁ。しかし、私にはアナタが怒っている理由がよく分からないのです。」
「は、はぁ?デイビットさん、あんた言ったよな。友人から、高い値段だと売れやしないから、ちょっと安く売ってるだけで、本当は0の数が違うって。それなのに、実際は100万の1000分の1だ!それに怒ってるんだ!」
すると、デイビットは何かが腑に落ちたと言わんばかりに、笑みを浮かべた。
「ああ、そう言うことですか。あの、クラウドさん。私ね。この皿が元々高かっただなんて、一言も言ってないですよ。」
「え?」
「友人に言われたのは、“お前の店は物好きな奴の客足が多いから、そういう安もんは売れねぇ。だから、100万くらいで高めに売っときゃ、売れるんだよ”です。私はあの日、“本来は100万よりも安いからごめんね”という意味で謝ったんですよ。
100万と1000とじゃ、0の数が違いますから。」