体の中に流れている微小な記号を観測し、その「意味」を探る。
今日は、生体信号情報学研究室の田中先生にインタビューしました。思わず数学を学んでみたくなるようなお話から、研究者になる経緯についてまで。ぜひご覧ください!
脳波とは何か
―先生は研究で脳波を扱われていると思うのですが、そもそも脳波とはなんでしょうか?
まず、人間は6割から7割が水だと言われています。それは体内のイオンに電気活動を与えるためなんですよ。
ー電気活動ですか。
そう、高校の化学で電気分解ってやったことあるでしょう?電極に向かってイオンが水の中を動くことで電気が流れますよね。
これと同じことが、人間の体の中でも起きているんです。体内をイオンが移動することで、人は脳から指令を受け取ります。その指令をもとに動いたり喋ったりしているんです。脳とは電気で動いているコンピュータみたいなものとも言えます。
このとき脳が出している指令が電気振動なんです。
―どうして電気振動が伝わると体が動くのでしょうか?
中学校の理科の教科書に、死んだカエルの足に電流を流すとビクッとなるみたいな実験が載っていたんじゃないでしょうか?
まさにあれと同じことです。
―つまり筋肉は、電気が流れるとピクッと動くようにできているんですか?
そうです。腕の動きはその塊みたいなものです。ものすごい量の電気と、いろんな種類の電流がそれぞれの筋細胞に向かって流れているんです。
つまりこの電流を測って見分けることができれば、脳の指令を外から観測することができるかもしれないということです。
―脳からの指令を観測ですか…!その電流はどうはかるのでしょうか?
外からアンテナのようなものを張るんです。アンテナというのも大したものではなくて、+の電極とーの電極を頭に貼れば測ることができます。
頭の中の音を取り出したい
ーそのような脳波を使って、どのような研究をしているのでしょうか?
例えば、音楽を聴いているときの脳の反応を調べています。私自身楽器をやっていて音楽が好きなので、純粋な興味から研究しています。
例えばビックカメラに行ったあと、一日中頭の中で同じ曲が流れることはありませんか?
ーあります。テストの時に限って流れてくることもあります(笑)
あるでしょ(笑)そういうことの仕組みを知りたいんです。今は音楽を聞いているときに何が起こっているのかを知る段階ですが、最終的には頭の中で鳴らしている音を取り出したいと思っています。
ーそれは心が読めるみたいなことですか?
本当はそれをやりたいんです。今は脳内で刻まれるリズムを取り出すことには成功しつつあります。
ーすごいですね...!
(他にも、リハビリをサポートするような研究やAIによってゆるキャラを生み出す研究まで!笑)
数学と日常のつながり
ー上のような研究をするために、数学は基礎として必要だと思うのですが、なかなか勉強するモチベーションが上がりません...どうしたら学びたいと思えるようになるでしょうか?
どこで世の中と繋がっているのかを知ることですね。例えば、大学1年生では行列の計算をやりますよね。
めんどくさい計算を一生懸命やりながら、なんなのこれ?一体何の役に立つの?という疑問を持つのではないでしょうか。
ーそう思っていました。
でも、自分のLINEに写真がポンと送られてきたときを思い出してください。このとき、行列の計算が行われているんですよ。
ーそうなんですか!?どこに行列が使われているのですか?
スマホ上の写真は画素という細かい点の集まりでできています。その細かい点1つ1つの明るさの度合いが、数字で保存されているんです。
例えば、左の点から順に明るさ200,201,255…みたいな感じです。この数字の並びが行列です。つまり写真は行列そのものと言えます。
皆さんが画像を明るく加工するときも、各点の数字に50ずつ足すという行列の計算をしているんですよ。
ーびっくりです(゜゜)
行列の計算がなければ、LINEで写真を送ることもインスタに写真をアップすることもできないですよね。
工学よりもハングル文字を勉強していたあの頃
ー先生はどうして研究者になられたのでしょうか?
大学に入る前は、研究者になるつもりは全然なかったです。大学の授業がおもしろく思えなくて、一時は文系就職を考えていたくらいでした(笑)
それでも大学院に進んだのは、韓国に留学に行きたかったからという動機が大きかったです。院に進めば留学資格がもらえたんです。
―なぜ、そこまで韓国に留学に行きたかったのですか?
文字の勉強が好きで、中学校1年生ぐらいの時から独学でハングル文字を勉強していたんです。あの文字が読めたらいいなあという憧れがありました。
だから大学でも専門の勉強より韓国語を勉強していましたね。
そして、大学3年生のころに実際に1人で韓国に旅行に行ったんです。そこで向こうの人の優しさにすごく助けられたことがありました。ああ、韓国すごくいいところだなって思ったんです。
―そこから韓国に留学に行きたいと思ったのですね。行ってみてどうでしたか?
配属した研究室でとても鍛えられました。研究を一生懸命にやって、だんだん研究が面白いなと思うようになって、博士課程に進むことを決めました。
文章:ノコノコ
インタビュー日時: 2020年11月7日
インタビュアー:ノコノコ
記事再編集日時:2023年7月19日
※インタビューは感染症に配慮して行っております。