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師から弟子へ受け継がれた研究室で

農学部共同獣医学科の木賀田先生にインタビューしました。木賀田先生は獣医学だけでなく、人医学にも関わっており、ユニークなアプローチで研究を進めている先生です。ぜひご覧ください!


<プロフィール>
お名前:木賀田哲人先生
所属学科:農学部共同獣医学科
研究室:獣医解剖学研究室

獣医師になるまでの軌跡


―最初に、なぜ獣医師になろうと考えたのか伺いたいです。

 僕が幼稚園とか入る前後から家族がずっとなにかしらの動物を家の中で飼ってたんですよね。加えて動物の番組がずっと家で流れていて。だから僕が意識して動物と接してたっていうよりは、ふれあい動物園みたいな環境で生きてて(笑)。それで「進路決めなきゃ」ってなったときに動物に関連する仕事で、自分が一番向いていそうだと思ったのが獣医師だったんですよ。

―木賀田先生は哺乳類の比較解剖(生物学の1分野で様々な動物種のからだの構造を比較する学問)の研究をされていると思うんですけど、その研究をしようと思ったきっかけはありますか?

 解剖学に興味を持ったきっかけは、農工大に入学して2年生で受講した解剖学実習で柴田先生(柴田秀史名誉教授。東京農工大学大学院農学研究院 動物生命化学部門 獣医解剖学研究室を2024年に退官)と出会ったことです。先生がとても生き生きと学生に教えている姿が刺激になって。いろいろ授業を受けた中で解剖学実習の授業が一番心に残りましたね。その後、解剖学研究室に入って柴田先生に指導教官になっていただきました。
 大学院に進学しようと思った理由としては、自分の興味のある肉眼解剖学という分野に出会えたので、それを突き詰めたいと思ったからです。解剖学をすごく頑張った後に企業に就職するとか、あるいは公務員になるというイメージがあんまりわかなくて、大学に残るという道が頭の中にあったからというのも一つの理由です。


棚に納められた標本の数々

研究の楽しさvs社会的評価


―今やってる研究の面白さ、こだわりをおしえてください。
 動物の身体って、細かいところまで複雑に組み立てられててよくできているんですよね。それを一つ一つ取り出すことによって構造を理解して、写真に収めて、標本を作るっていうのが面白いです。元々綺麗な構造を忠実に、そしてありのまま伝えるため、写真を撮るときには写り具合や見え方にすごく気を使ってて。構造、レイアウトを決めて、写真撮ってってことをずっと繰り返して1日、2日使うことがありますね。ちゃんと見たらここまで綺麗に構造が理解できるんだよっていうのを見せたいです。


研究で用いられている顕微鏡

―これまでに、特に印象に残っている研究エピソードとかってありますか?

 僕が学部生のときにラットの血管の肉眼解剖(体の各器官を肉眼、または顕微鏡を用いて観察する研究)で論文を出したんです。そのときに他大学の解剖の先生が、ラットでまだ論文が出るんですねって言ってくださって。周りがもうあさり尽くして新しい情報なんてないって思ってたところから、新しい知見を自分の手で見つけられたっていうのがとても印象に残りました。解剖の研究って、落穂ひろいの状態だって言われることがあって。ガーッとデータをあらかた取り終えた後の残りかすを拾ってるってイメージですね。まあ実際そうなのかもしれないけれどそれが楽しいんですよね。

―研究していて挫折したとき、どのように乗り越えましたか?
 
 動物の形態や機能に関連してる分野っていうのが解剖学の広い研究対象なんですけど、その中で、肉眼解剖って一番古典的なんですよね。メスとピンセットがあればできる研究だし、最新の研究機器を使った研究と比べると研究内容自体にインパクトがない
 個人的には楽しいけどそれだけじゃやっていけない現実があって。ちょっと耳が痛い話をすると、社会にどう還元できるのかという問題ですよね。この研究は何の役に立つかっていうのが重要視される世の中で解剖学といった基礎の研究をすることは難しい部分があります。
 それでも、こうやって何か半分興味本位でやっているところを、僕が教えた学生さんたちがいい方向に生かしてくれたら、動物を救ってくれれば嬉しいなって思いますね。他力本願ですけど(笑)

医学と獣医学の狭間で


―因みに、先生は大学院の卒業後3年間、防衛医科大学校の医学部で解剖に携わってたと聞いたのですが。

 卒業後ご縁があって、医学部で助教として働く機会をいただいて、人体解剖の教育に携われることになったんですよね。獣医用語は人体解剖の用語から動物に当てはめられるものが用いられているので、解剖学の大元の部分を勉強するにはよいきっかけだと思いました。
 農工大に助教として入ったのは柴田先生が退官されたタイミングと重なったことが理由ですかね。柴田先生の座っていた椅子に座って、研究ができるというのは本当に感慨深いです。

―柴田先生がソウルメイトって感じなんですね。

 そうですね。解剖が面白いって思ったきっかけはもちろん柴田先生ですし、大学院への進学について相談した時も、「将来どうなるかわかんないけど農工大の後輩がそうやって研究室に来てくれるのは嬉しいことだよ」と照れながらも嬉しそうに話してくださったりと本当にお世話になっています。

―今の研究分野で思い描いている目標、夢はありますか?

 人体解剖の教育のレベルがとても高い一方、獣医解剖はいろんな動物を見るので深く1個の種類を掘り下げて見ていくっていうのが難しいんですよね。じゃあ獣医解剖学はそんなに深くやらなくてもいいのかっていうと、そこには疑問を感じていて。僕は人体解剖学と動物解剖学の知識を同じくらい深める必要があるのではないかと思うんですよ。なので最終的な僕の目標は、僕ら獣医師が関わりうるあらゆる動物種の解剖のレベルをもっと上げていくことですね。


主体的に出会いを求めて


─最後に、先生から高校生へのメッセージをお願いします。

 高校の勉強って、何か自分の興味があって積極的に取り組むよりは、最終的に入試に使うからやろうって感じですよね。でも、大学に来ると自分が主体的にやりたいことをやれる。これがやりたいって言ったときにいろいろやらせてくれる先生がいて、何か質問とかしたときにもいろいろ教えてくれるじゃないですか。そういう環境って高校にはあんまりないと思うので楽しみにしていて欲しいですね。
 解剖学は刺さる人には刺さるけど、刺さらない学生には本当に刺さらない。ある意味、運命的な出会いなんですよね。でも、刺さってない学生に「そうなってるんですね!」って言ってもらうのもまた嬉しくて。

 解剖って意外と面白いでしょってね。

文章・インタビュアー:農学部共同獣医学科2年 むぎ
インタビュー日時: 2024年10月22日

※インタビューは感染症に配慮して行っております。


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