見出し画像

レーザーで生体のミクロな世界を観察する!?~レーザーの研究を医療に繋げる~

今回は生体医用システム工学科の三沢先生にインタビューしました。

<プロフィール> お名前:三沢 和彦(みさわ かずひこ)先生
所属学科:工学部生体医用システム工学科
研究室:三沢・伊藤研究室
趣味:犬の散歩、料理、お菓子作り、将棋

レーザーを使った3つの研究


─先生はどんな研究をされているのでしょうか

医療の中でも、診断とか予防の技術の開発をしています。

実は自身の学生時代の専門とすごく密接に関係しているんです。

当時は基礎物理学をやっていたんですね。それで研究対象が基礎物理学、応用物理学、化学、生物学、医学というように移っていきました。

でもその経緯の中でレーザーを道具として使っていくというのは変えていないんです。レーザーの光の性質をうまく使うと体内の分子とかミクロな物質を観察することができるんですね。

―具体的には?

レーザーを当てることで観察できることを三つ紹介しますね。

一つ目は、虫に刺されたときに塗る抗炎症剤というかゆみ止めの薬の成分が、皮膚の表面からどこまで届いているかっていうのを確認します。

皮膚はいくつかの層が重なり合っていて上から4層目くらいまでは観察できます。

また局所麻酔剤の成分の体内での居場所を突き止めることもできます。

二つ目は、光を当てて観察すると、自分の細胞とウイルス感染した細胞では細胞内の組成が異なるので、感染したかが早い段階でわかります

今使われている簡易的な抗原検査とかって大体ウイルスが体内に入って72時間ぐらい経たないと感染が分からないんですよね。その時点では熱などの症状が出てしまっているんです。

でももし症状が出る前に、ウイルスに感染してるっていうのがわかったら有用な処置ができる。

そこで豚ウイルスにレーザーを当てるという実験で、いつの時点でウイルスに感染したことが分かるのかを観察しました。するとまだ症状が出ていない6時間後に判別できることが分かったんです。

三つめは細菌を殺菌できることです。

血液は人工的に作れないので、輸血の際には、献血で提供された血液を血液製剤に保存して使うんですけども、もしその中に、雑菌があると輸血した途端に雑菌が体全身を巡ってしまうんですね。

そこでレーザーの光を血液製剤に強く集中的に当てるとその細菌を殺菌できるんです。従来の方法よりも、速やかにしかも非常に高い殺菌率で殺菌できます。

それで、その時に汚染細菌の遺伝子情報だけを選んで殺すようなレーザーっていうのを探してくるんです。

─なるほど。それはどのようなレーザーなのでしょうか

短い時間だけ点滅するレーザーです。

蛍光灯なんかの普通の光はずっと連続的に光が出てますね。対してカメラのストロボのように、ずっと暗いんだけどシャッターを押す瞬間だけパッと明るくなる、そういうのをパルスっていいます。

レーザーの中でも特殊なレーザーは、こういう短い時間だけ点滅する性質を持っています。どれくらい短いかというと、物質を構成する原子が止まって見えるくらいの短い時間です。

それで、なぜそのような状態を作るのかというと、例えば肩が凝った時にずっと抑えているとマイルドだけど気持ちいい、でもドンドンたたくと一回一回効くような気もするけど痛いですね。

その違いで、ガンガンたたいた方が効率よく死滅させられるということです。

物理学科を選択してから今の研究に至るまで


─どうして大学は物理学科に進んだのでしょうか。

これは皆さんにとって衝撃のカミングアウトかもしれないんですが、実は高校のときは文系でした。その後、大学受験のときに理転してるんです。

高校の時は自然原理とか、生命とは何かを考える哲学少年だったんです。それで、私が物理学に興味を持ったのは、科学者が自然について色々考察した書物を読んで物理学がある意味哲学の延長線上にあることを知ったからです。

(三沢先生が読まれていた本: 左から「生命とは何か(エルヴァン・シュレディンガー著 岡小天・鎮目恭夫訳)」「物質と光(ルイ・ドゥ・ブロイ著 河野与一訳)」)

―物理学科から医療に関する研究に進んだきっかけは何ですか

博士課程に進学してそのまま大学教員になったんです。

ところがそこで研究をしているうちに、このまま続けていいのか疑問に思うようになりました。

そのときちょうど農工大が学科改編をして、物理システム工学科の教員採用があったので応募して農工大の教員になりました。

それで、あるとき神経伝達物質を研究している方と一緒に研究することになったんです。

何を研究したのかっていうと、麻酔の物質が小さすぎてどこに機能しているのか分からないという歴史的な謎を、ミクロな世界を得意とする物理の側面から解明したいという内容でした。

その経験からどんどん医療にのめりこんでいったという感じですね。

研究の魅力とは


─研究の面白さは何ですか

研究の面白さは、自分の知識とか経験の範囲外で、新たな発見や偶然の出会いによって、違う学問のように見えていても、そこに繋がりが見出せるということですかね。

農工大でも他の研究室と一緒に共同研究をやっている研究室が飛躍的に増加しています。だから新しい出会いが研究の面白さですかね。

―先生の研究について、思い描く未来は何でしょうか

それは、二つの側面で思い当たるんですけど、一つは自分のやってる研究活動そのものの未来なのか、もう一つは一緒に研究している人の未来なのかですね。

私は自分の研究自体が未来を作るとは全然思っていないんですね。それはなぜかというと、研究室の成果を引き継いでくれる人がいないと未来って描けないんです。

だから、どう未来に向かっていけるかを考えると、新しいことに挑戦してみようという思いのある若い学生さんが増えていくことで未来を作ることができます。

今は新しい出会いを大切にするという環境を作ることが一番大事なのかなと思っています。

 高校生へのメッセージ


─最後に先生から高校生にメッセージをお願いします!

環境破壊とか戦争が起こっているというこの不安定な時代では、将来をイメージしにくく、自分が置かれている範囲内で着実に人生を歩むだけでいいやと思ってしまいがちです。

こんな未来あったらいいなと思うけど自分にはできないとあきらめずに、ちょっと背伸びして、探求してみる気持ち何とかならないかと思う気持ちを大切にしてほしいかな。

生体医用システム工学科に入学する学生って、医療機器の開発に携わりたいなどの理由で入る人が多いと思います。

それでも就職の時に医療機器メーカーに就職するとは限らない。そんな中でも、自分のやるべきことをやっていると、気が付いたら医療関係の事業に携わっているってこともあるんですね。

だから、常に自分のやりたいことを考えて行動してると必ず自分のやりたい方向に人生は向いてくると思うので、それを信じてもらいたいですね。

文章:あお
インタビュー日時: 2023年 11月 29日
インタビュアー:あお

※インタビューは感染症に配慮して行っております。


いいなと思ったら応援しよう!