有機化学で新しい分子を作る!
今回は工学部応用化学科の加納先生にインタビューしました。ぜひご覧ください!
分子設計の面白さ
ー有機化学の分野に進もうと決めたきっかけを教えて下さい。
大学入学時点では生物系の学科に所属していました。当時の生物の授業の内容は、ブラックボックスばかりで、生き物の働きは、その仕組みが分からなくても、そういうものと理解したことにするしかなく、腑に落ちなかったのです。しかし、学部3年生の時に受けた講義では、有機化学が専門の先生が、生き物の体の中で起きていることを有機化学の反応を用いて説明されていて、すっきりと納得できました。この講義がきっかけで、有機化学の面白さを知ったことが一つ目の理由です。
もう一つは恥ずかしいですが、3年生の進路選択を考え始める時期に、ぼーっと生活してきたことに焦燥感を感じて、何かを一生懸命頑張りたいと思ったことが理由です。生物系の研究室に比べて厳しく、忙しいと言われていた有機化学の研究室を選びました。そうして、有機化学へと進路が変わりました。
─研究していて、どのようなことに面白さを感じますか。
まだ世界のどこにも存在しない分子を設計して、実際に作ることがとても面白い。作った物質は自分以外の誰も持ってないから、その性質を最初に知ることができるのも自分。そう思うと、早く新しい分子を作りたいなと、モチベーションになっています。教科書で習う知識を駆使して触媒をデザインし、組み立てる。この作業がとても楽しい。ブロック遊びが好きな人は共感できるかな。私も子供の頃から、ブロック遊びが好きで、大人になっても時間があるときは、本当に一日中分子模型をいじっています。
実は、自分が学部4年生のときに作った物質を、未だに持っています。フェノールの一種です。変わった構造で、光学活性のある物質で鏡像異性体があります。作って20年以上経つけど、まだ手元にあって長い付き合いです。
他に研究で好きな瞬間は、作った物質の実際の構造を見るときです。X線を使った測定によって分子の構造を画像として見られるのですが、その画像が画面にパッと出た瞬間に、デザインしたものと同じ構造だと、頭の中のイメージが本当に現実に現れたんだと感動します。物質を自由自在に作れる有機化学はすごいなと思いますね。
柔軟な考え方をすることの大切さ
─研究者として大切にしていることを教えてください。
常識を疑うこと。新発見もそのうち常識になって、疑われることが少なくなっていく。けれど、常識を疑わないと新しい局面は開けてこない。触媒の研究を例にとると、触媒は活性化する力が強く反応が速い方がいいと誰も疑わない。しかし、活性化する力が弱く反応が遅いからといって、駄目な触媒だと切り捨てるのはもったいない。弱い活性化作用を長所として、利用できるかもしれないと考えてみる。活性化作用が強い触媒が勝ちという試合だったら負けるけれど、弱い方が勝ちという新しい競技を自分で作ってしまえば、そこではその触媒は一番になれると考える。こういった発想の転換をするように、絶えず意識しています。
研究室で、研究を始めたばかりのメンバーから斬新なアイディアが出たときは、自分は常識に染まっていてその考え方はできなかったなと気づかされます。
自然を超える
─化学の分野で先生の思い描く未来を教えてください。
有機化学の分野に限らずに、世界中で炭素の循環が重要な課題になっています。炭素といえば、二酸化炭素を思い浮かべると思います。二酸化炭素は、化石燃料や、日常で使う炭素が含まれた物質からエネルギーを取り出した後に残る残骸なのです。残骸になる前の元の化石燃料や炭素含有物質は、植物が光合成によって、二酸化炭素をよりエネルギー的に高い状態にすることで出来ている。そして、人間によって消費されて、また二酸化炭素になる。二酸化炭素を減らさなくてはいけないし、資源の枯渇の問題もある。これらの課題を解決するために、人工光合成が注目されていて、様々な分野の人たちが研究を進めている。そして、二酸化炭素が他の形に変化する過程は、有機化学で説明できるような反応が起こっていて、有機化学者こそ関わっていかなくてはいけない。
二酸化炭素から炭素の入った原料を作るという観点から見ると、そんなに特殊な反応が使われているわけではない。その原理はわかっているけれど、我々が模倣しようとすると、反応過程が多く、必要な溶媒も増えて廃棄物が多くなる。最終的には、炭素と炭素の結合1つを作るために、何万倍もの二酸化炭素を排出することになってしまう。だからこそ、より単純な方法で二酸化炭素をエネルギー的に高い状態に変えることが必要です。たとえば、自然もできていないと思うけれど、二酸化炭素二分子の炭素原子同士を結合させて、炭素と炭素の結合を持つ価値のある物質に変えられたらすごいことです。自然を超えて欲しいです。二酸化炭素をエネルギー的に高い状態に変える技術を見つけて、うまく手なずけることが、人類の夢だと思う。
我々の世代では、解決されてないかもしれない。ぜひ、若い人の常識に染まっていない柔らかい頭で、この課題に取り組んでくれたらいいなと思います。
高校生へのメッセージ
─最後に、高校生へのメッセージをお願いします。
たくさん本を読みましょう。どんな仕事でも、言語化するときや文章を書くときに、国語力が必要とされます。研究者には、特に論理的な文章を書く能力が必要だと感じます。研究費申請や、論文を書くときに、たとえ研究内容が良くても、壊滅的な文章だと審査に通らなかったり、研究内容を的確に伝えられなかったりします。しかし、国語力は急には身につかないものです。今までどれだけお手本となる表現に触れてきたかで決まる。だからこそ、たくさん本を読んで、国語力を身につけて下さい。
勉強以外のこともしてほしいと思います。若い頃は、物事が役立つかどうかで判断して、短絡的に考えてしまうことが多いと思います。でも、俯瞰してみると、意外なところで繋がったり、しょうもないと思っていたことが活きてきたりもします。たとえば、研究で新しい着想を得るときに、アイディアを出す能力が必要になります。しかし、こういった能力は訓練でどうにかできるものではなく、今までの経験から生まれてくるものです。忙しくて余裕がないかもしれませんが、勉強だけでなく、一見無駄に思えるようなことも経験してみて下さい。それを口実に遊びほうけられたら、少し困るんだけれどね(笑)。
─本日はありがとうございました!
文章・インタビュアー:工学部応用化学科2年 らう
インタビュー日時: 2024年7月22日
※インタビューは感染症に配慮して行っております。