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グランドブダペストホテル 鑑賞記録

「正直、彼の世界は彼が来るずっと前に消えていた。とはいえ、彼は見事に幻を維持して見せたよ。」

現在はさびれかけた、一人旅の客しかいないグランドブダペストホテル。そのオーナーが語る過去のホテルの栄光と栄光の中に生きたある男の物語…

映画のタイトルは何回か聞いたことがあり、非常に有名な映画だということはわかっていたものの、見始めた最初は現実感のないコメディータッチの内容にどうしてこれが名作と言われるのか正直ピンと来なかった。しかし、冒頭のセリフが含まれる最後の15分を見てその理由がわかった。むしろこの映画は最後の15分のためにあったのかと思うほどにそのシーンだけで映画全体の印象が変化した。

主人公?のグスタヴが作り上げたホテルとその世界観は、出自もわからない虚構の本人のキャラクターの上で成り立っており、戦争の足音が聞こえていたはずの作中でその気配は微塵も感じられない。ゼロの口から語られる形式をとっていることもあるのか、映画の世界はあくまで現実感は乏しくまるでおとぎ話のようである。これらもホテルの日々がいかに幸せで幻のようであったかを示しているのだと感じた。
そして、ホテルを守り続けるゼロとグスタヴの師弟愛、その愛や作り上げた理想の環境を戦争がいかに容易く壊してしまうのか、がこの映画の主題なのだろうと感じた。

映画の最後、ホテルが現在も残っているかは明示されないままに終わが、鑑賞する人がまたこのホテルを訪れたいと思えばグスタヴは本望なのだろう。結末を知った上でまた最初から見返したいと思う私もまんまとグスタヴに魅せられた一人なのかもしれない。

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