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ネット公開時点で売り込んだコンテンツ作品『魔王学院の不適合者』

『魔王学院の不適合者』(著者:秋)、自分はこの作品は漫画アプリのバナー広告で知って、コミカライズ版から触れた作品でした。
そもそも、バナー広告だけでは気になるけど、つまらないだろうと軽い気持ちで試し読み分の漫画を読んだら話はそこそこ面白い。ただ、よくある『なろう系』といった感じではあったが、先も気になる展開に原作であるweb版に触れたのであった。

ひとまず、コミカライズ版が試し読みができるリンクを張っておきます。

■さて、この『魔王学院の不適合者』の内容は魔王が2000年後に転生する話ではあるが、この設定だけで単なる『なろう系』と位置づけることが出来る。
他にもこの魔王の規格外な力差を周りに見せつけたり、2000年後だけに知識差の披露したりと性格と実力もあって傍若無人ではある。『俺Tueee』や『なろう系』そのモノの物語作りである。
ただ、この作品を読んでいると、そんな感じはなかった。

それには物語上で理由付けがされており、また主人公である魔王もきちんとした性格付けもされている。圧倒的な力差の披露が単なる『俺Tueee』ではなく、性格の印象、物語の展開もあって、むしろ『俺様』である。
また、設定部分でも、練り込んだ設定が前面に押し出されてはいるが、嫌味がなく少し設定の込んでいるラノベ程度にしか感じない。

これらの点は分析もしなくとも読み進めると感じる要素である。
この作品の全体の印象は普通のラノベで、『なろう系』テイストをやっている印象である。一応、念押ししておくが書籍化、コミカライズはされているが、この作品はweb発である。

■少し、本編のエピソードに触れれば、冒頭で奇しくも主人公の力を披露の場となって、明らかな噛ませ犬である敵役ゼペスとの戦いの場面だが(漫画アプリのバナー広告でも使われており、有名なシーンであろう)、当然の如く瞬殺される。しかも、繰り返しである。この後もゼペスの兄も出てきても無残にも力差に圧倒される。
ここでも、ただ強さアピールだけでなく、小ネタを挟みつつ戦いは展開するため読んでいても飽きはない。そして、この戦いの末には兄弟愛について語ったりと、主人公の行動理念が見えてくる。
また、この兄弟愛の部分は実はヒロインにもいえている部分であり、第一章の結末にも大きく関わってくる。

物語としても、この場面は単に戦いで『俺Tueee』を披露したのではなく、主人公の実力、性格の説明、そして、物語の伏線も同時に行っている。
第一章だけ見ても、これほどの実力を持っている作者と気が付くことが出来る。

『魔王学院の不適合者』は書籍化、今ではアニメ化も決定している。この内容なら何も不思議なことではない。
ただ、他の思いつきの設定で書かれた突発的な『なろう系』と違い、ネット公開時点で普通のラノベと肩を並べられるほどのコンテンツとして作品を完成させている。

その完成度の高さからも『魔王学院の不適合者』はどちらかといえば、『ソードアート・オンライン』、『魔法科高校の劣等生』に近い。
これらもweb発の作品。広義的にはこれら含めても『なろう系』と位置づけられるが、この2作品が『なろう系』と呼ばれることは少ない。

余談ではあるが、『魔王学院の不適合者』と『魔法科高校の劣等生』ではタイトルが似ているだけで無く、ほぼ同じ意味である。やはり、リスペクトしているのだろうか。

■『なろう系』と、ここまで特に説明なしに単語を使ってきたが、まだ認知してない方や広い意味でも使われる単語だけに、補足した上で『なろう系』と使うべきであった。
しかし、その説明だけでも多くの情報を提示する必要がある為、ここでは詳しい説明は省かせてもらう。基本的には「主に『小説家になろう』に投稿された作品」とされる。
web発は総じて『なろう系』と呼ばれることがある。だが、そういった位置づけでは今日ではあまり使われていない。
『なろう系』を簡単に説明すれば、「メアリー・スー」みたいな作品が書籍化されたモノと、基本ここでもそういった意味で使っている。

■さて、先に述べた通り『魔王学院の不適合者』は小説投稿サイト『小説家になろう』に投稿してありながら、ラノベに近いといった印象である。そして、この作品には負の側面である『なろう系』の印象は薄い。

それほどにこの作者の実力は高い。作品の質も高い。
しかし、そうなってくると別の問題というかデメリットが出てくる。

先にも近い作品として『ソードアート・オンライン』、『魔法科高校の劣等生』を上げたが、これらはすでにアニメ化され、一般人気を獲得している。

『魔王学院の不適合者』には一般人気はまだない。
確かに『小説家になろう』で一定のファンを獲得しているが、他のアニメ化された作品ほどの人気ではない。
また、『小説家になろう』ではユーザー数が限られており、そこで人気を得ても、良作としても『なろう系』と馬鹿にされることも少なくない。

だから、他の『なろう系』が相手ではなく、一般のラノベ、またアニメ化された作品がライバルとなると『魔王学院の不適合者』の人気では劣ってしまう。

■もう一点、自分が気になるのは、筆の早さを維持するためだろうが、物語のテンプレを多用している印象はある。『なろう系』フォーマットではないにしろ、王道展開で描かれている。
だから、王道展開のテンプレである以上、先が読めてしまう。

自分もweb版の第一章を一気に読み上げたが、第二章冒頭だけでそのラストが見えてしまい、そこで読むのを止めてしまった。
その後も先の展開をポイントで読んでみたが、都度同じ展開をキャラや小道具、舞台だけが変わっているだけな印象がある。

正直、この点に関しては現時点の書籍化と比較しても語るべき点だが、基本はweb版時点で売り込んだ作品という点を語っているので、ここらは費用もかかるので割愛させて頂きます。

ただ、書籍化に対してはストックがあっても、時間をかけているので書籍化に対して加筆などで対応している物と考えられる。下手をすれば弊害にもなる要素と理解している印象である。

■大体、売れる作品としての完成度があっても『小説家になろう』内の作品だけでは作者にとっても一円の価値も無いし、商品的価値も生み出さない。そこは作者も分かっているはずと思う。
まず、求められるのは『小説家になろう』での人気の獲得した上での書籍化の道である。

だからこそ、『小説家になろう』としてヒットする『なろう系』設定、テンプレを使い、ラノベとして売り出しても問題もない、設定の使い方と実力を披露している。

ただ、両方のいいどころ取りである以上、どちらつかずで売りがないことになりかねない。この作品に関しては、その点は問題はないが。

これは私の推測ではあるが、このクオリティを見れば、書籍化を売り込んでいるのは明らかである。質が高ければ、当然労力もかかる。
その上、日間ベースの筆の速さ。書き溜めていたにしろ、その速度は2年以上変わっていない。
そこまで、無料で読める小説投稿サイトの場では人気獲得以外のメリットはない。

その人気獲得により、ツイッター上で漫画を上げて、連載を勝ち取る手法と同じに見える。
これは書籍化できなければ、労力の無駄使いとなりデメリットとなる。
だが、何度も言うようだが、この作品は質が高く、公開時点でも書籍化は不思議出ない作品である。

実際、書籍化まで1年とかかっていない。

■これらの点は多分、出版社サイドも理解しているはずだ。
だが、高水準であっても、一般受けするだけの知名度はラノベでもなかなか難しい。

実際、自分もこの作品は漫画アプリのバナー広告で知ったぐらいだ。

だからこそ、早い段階でメディア展開が必要であった。それは一つアニメ化だ。これによって一般人気を得ることが出来る。
この作品はそれだけの価値は既に投稿時点で満たしている。

出版社からもそれだけの作品を見逃すはずもない。

そして、アニメ化に対しても物語がこれだけストックがあれば、人気次第では2期、3期もあり得る。何しろ、類似作品は散々述べている通り『ソードアート・オンライン』、『魔法科高校の劣等生』。これらも同様にストックは確保しており、なおかつアニメも劇場版、2期、3期と続いている。

そもそもこの作品を出したのは出版社も同じというか、その宣伝ノウハウを知っている。

■ただ、『魔王学院の不適合者』でよく分からないコミカライズの扱いである。ほぼ同時の展開であるからだ。

これ自体はコミカライズ版の1巻と書籍化原作の1巻が同時に発売されたケースもあるから、今となっては不思議ではない。ただ、問題は小説とコミカライズは別の出版社である点。

やり取りを考えれば、コミカライズを先に原作者より獲得した後で、小説としての書籍化されたと言われても不思議ではない。

しかし、『魔王学院の不適合者』に関してはコミカライズには小説版の出版社の権利を示す単語が奥付に書かれており、キャラクター原案も小説版の挿絵の人。
この事実でも小説が先でコミカライズ後と考えるべきである。

そうなると、今度は書籍化2年目でアニメ化するほどの力の入れようなのに、他社でコミカライズをやることは、この儲けを他者に渡し様なモノである。

意外にコミカライズの経緯を考えるとよく分からない。単にコミカライズは下請的に別の出版社に出したと考えるとすんなりするが、真相はどうなのだろう。

ただ、それほどのメディア展開をさせるほど『魔王学院の不適合者』は魅力的な状態をネット公開時点で売り込んだコンテンツ作品である。

※2020/7/9 全体的に誤字脱字等を修正。内容自体には変更はありません。


■追記(2020/3/25)
最近、「小説家になろう」では【一週間で書籍化決定!】なんて表題を付ける作品も出ています。しかし、珍しい話でも無く、裏では事前の出版社の仕込みというのも毎度出てくる話です。
ただ、『魔王学院の不適合者』に関しても、その完成度から事前の仕込みも考えられると思うでしょう。

これに関しては出版社に直接聞く以外、真相は不明です。当然、そんな裏事情を正直に答えることもないでしょう。

私の推測となりますが、web版連載事前の仕込みの考えにくいです。理由は幾つかありますが、推測でしかない為ポイントだけ。

まず、この作品が出版までのタイミング。連載から1年という、いわゆるなろう出版ではまずまず普通な期間である事。

『魔王学院の不適合者 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜』
連載期間 2017年4月2日
刊行期間 2018年3月10日

次に事前の仕込みであれば、労力的にも小説1巻分の分量でまずは様子見るだろう。売れない物を延々と作るなど、趣味でないと無理である。
この作品の連載速度を見ても、事前にある程度の書きためしているだろうが恐らく、小説1巻分は間違いなくあって、現状の分量と更新頻度から多分2巻3巻分は用意してのweb版連載スタートと思う。
また現状、web版連載に対して紙の出版が追いついていない。
この点を踏まえても、事前の出版社の仕込みは考えにくい。

ただ、これはあくまで私の推測でしかない。ともあれ、事前の仕込みもなくても出版化の可能性はこの作家は計算して、仕込んでいるというのが私がこの作品を読んで感じた事ではある。

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ツカモト シュン
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