見出し画像

宇宙の階層構造とフラクタル性

宇宙には、流れ星の元になる塵(ダスト)の粒から惑星、星団、銀河、銀河団などいろいろなスケールの構造があります。そして小さな構造は大きな構造の構成要素になっている、つまり入れ子になっていることが多いです。これを、宇宙は階層構造をなしていると表現します。Wikipediaの「宇宙」の項目から図を借りてきましょう。この図は地球から始まっていますが、より小さいダスト粒子や微惑星と呼ばれるものも天体とみなせます。

地球(半径6400km程度)。
太陽系(半径60億km程度)。
太陽近傍の星(半径50光年程度の範囲)。星座を形作っている星の多くはこのあたりに存在する。
銀河系(半径5万光年程度)。1光年は約9兆6500億km。
局所銀河群(Local Group: 差渡し400万光年程度)。
おとめ座超銀河団(Virgo Supercluster: 差渡し1000万光年)。目立つ銀河の集団がおとめ座銀河団(Virgo Cluster)。
近傍宇宙の銀河分布。宇宙の大規模構造と呼ばれる。
観測可能な宇宙の典型的な範囲(460億光年程度)。

次々と大きなスケールに構造が現れることが見て取れますね。まさに、様々な階層構造が現れています。

ここで、ひとつ頭に入れておきたいことがあります。宇宙にある「天体」とよばれるものは、何らかのメカニズムでひと塊になっている構造を指します。ダスト粒子の場合は大きさが1ミクロンより小さい固体なので、石のように原子同士がしっかり結合していることでまとまっています。微惑星より大きいスケールでは、自分自身の重さで生じる重力で自分のサイズを維持しています。こういうものを「自己重力系」と呼び、宇宙のスケールではよく出てきます。地球や太陽、星、惑星系、星団、そして銀河や銀河群(数十から数百の銀河の集団)、銀河団(数千の銀河とプラズマからなる大集団)はすべて自己重力系です。Wikipediaの図だと5つ目までがこれに当てはまります。

では、6つ目以降はどうでしょう? 6つ目の図はおとめ座銀河団(Virgo Cluster)が見えていますが、全体としてはより大きなおとめ座超銀河団(Virgo Supercluster)と呼ばれる細長く伸びた構造をなしています。超銀河団という名前はフランス生まれでアメリカで活躍した天文学者ジェラール・ド・ヴォークルールが命名しましたが、銀河団の集団と誤解されがちであまり適切ではありません。実は、この構造はもはや自己重力でまとまってはいないのです。

ややこしい話になりますが、宇宙は誕生からずっと膨張していることが確かめられています。ということは、ほっておくと銀河同士の距離は広がっていく一方です。しかし、重力は常に引き合う力なので、銀河同士は本当は近づきたいのです。その結果、重力のほうが勝つスケールでは自己重力系になって天体としてまとまり、それ以上では宇宙膨張が勝ちますが、離れていく速さが遅くなって、ゆるくまとまった構造を形作るのです。このスケールが超銀河団くらいです。ちなみに宇宙の膨張は加速していることが観測されていて、超銀河団を大きく超えるスケールで重力が勝つことはなさそうです。

惑星や星など小さなスケールでは天体はくっきりまとまっていますが、太陽系はそれが太陽の周りを回る(公転する)構造になっていて、さらに銀河は星間物質や星が渦巻きになって回転しています。銀河群はまばらな銀河の集団に見えますし、銀河団もそのスケールアップのように見えますね。実は銀河群や銀河団は銀河と銀河の間に高温のプラズマが満ちていて、私達の知っている物質の大半はこのプラズマの状態で存在しています。このように、スケールが変わると見た目も物理状態も結構違うわけです。

話が変わりますが、1980年代に新しい物理学の方法論として「複雑系」という概念が華々しく登場しました(これはこれで大きな話題なので別記事にしようと思っています)。複雑系の中で流行った概念が「フラクタル」です。フラクタルとは、スケールを大きくしたり小さくしたりしても同じようなパターンが出現する構造を表す造語です。数学的に厳密なフラクタルとは、拡大すると完全に同じパターンになっているものを指しますが、自然界にはそんなものは当然存在しないので、「近似的に」フラクタルになっていると表現します。

フラクタルっぽい野菜であるロマネスコの画像(https://i.gzn.jp/img/2007/02/19/romanesco/Lcr2.jpg)。

例としてはリアス海岸(昔はリアス式と呼んでいましたね)や野菜のロマネスコなどが挙げられます。

宇宙に話を戻すと、重力はあるスケールで特別に働くという力ではないので、特徴的なスケールを持ちません(スケールフリーといいます)。このため、宇宙の銀河の分布はあるスケールの範囲でフラクタル的な構造になっています。しかし、宇宙は全体としては一様等方なので、完全なフラクタルではありえません。このあたりは旧ソ連の超天才物理学者ゼルドビッチなどが議論していますが、これも面白い話題なのでまた稿を改めます。

現実の宇宙では、小さいスケールと大きなスケールで天体の構造も何もかも違うので、数学的なフラクタルにはなっていないのです。これは残念に思う人もいるかもしれませんね。

(2022年9月2日)
(2022年9月5日改訂)

いいなと思ったら応援しよう!