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三十五帖「若菜下」その2。角田訳源氏(口は災いの元)

 柏木は先に女二の宮を妻としている。女三の宮の姉である。帝の子であるが、更衣腹なので身分は低い。器量もそれなりではあるが女三の宮ほどではない。なので、歌に読めば、「姥捨」だの「落ち葉」だの酷い言われようである。女三の宮の代わりだったのがみえみえで、そんな扱いすんなら、結婚すんなと単純に思ってまう。
 垣間見してから、柏木は女三の宮への想いが募るばかりである。どうかして会いたい、一言言葉を頂けたなら諦めもつく。その思いで、乳母つながりのある小侍従に繋ぎを頼む。最初、とんでもないことと断られていたが、あまりに柏木がしつこくて、一言頂ければそれでいい、とか言うので、とうとう小侍従が折れて機会を用意した。
 当然、女三の宮は吃驚仰天で声もでない。お言葉もいただけぬとは余りに酷い仕打ち、それならばと、柏木は強引に関係を持つ。どう考えても、端からその気だったとしか思えんが。
 その夜があって、えらいことしたと柏木はふさぎ込む。
 したんだよ!
女三の宮もふさぎ込む。久々に六条院に帰った源氏が、その訳を聞こうとした時、突如紫の上死去の知らせが入る。
 二条院に駆けつけた源氏は紫の上の亡骸を見、諦めきれず、祈祷僧に命じて、取り憑いた物の怪を憑座の女童に乗り移させる。すると、かろうじて紫の上は息を吹き返す。すぐさま別室へと移される。
さて、物の怪である。
 正体は六条の御息所の死霊であった。
 物の怪は言う。

 私をひねくれた付き合いにくい女とおっしゃいました。

 ああ確かに。紫の上の機嫌を取ろうと、言った。言ってしまった。言ったけど。
 愕然とする源氏。折しも、賀茂の大祭の翌日のことであった。

 柏木・女三の宮の姦通ショックはある程度匂わされてたので、さほどではない。紫が死んじゃう(まだ死んでないけど)のも、知識としては知っていた。死ぬことにショックはない。それにまだ死なないことも知っている。
 衝撃なのは、ここでまたしても六条の御息所が絡んでくること。これは知らなんだ。これは衝撃であった。
 どんだけひつこいんねん!
その昔、NHKで新八犬伝いう人形劇があった。そこで八犬士を危機に陥れるのが、玉梓が怨霊。必ず「われぃこそわぁ〜たまずさがおーんりょ〜う〜!」と自己紹介しながら現れる。こいつも実にひつこかった。こういう類の霊は総じてひつこいのだろうか。
 話を戻す。六条の御息所の生霊は夕顔、葵をとり殺し、死して今度は紫の上を取り殺そうとする。(まだ死んでないし、まだまだ生きるけど)。
で、今回の直接の原因が、紫の上の御機嫌取りに、源氏がちょこっとディスっただけのこと。なのに、これで、取り殺そうとするって! 私、納得いきません。不寛容が過ぎます。娘さん、ちゃんと中宮にまでしたったじゃないですか。手もだしてませんよ。あの源氏が我慢したんですよ。わかりなさいよ! て、嫉妬の怨霊となった御息所に言うても無理なのか。

 言葉を発せぬ故に、柏木に関係を強いられた女三の宮。
 要らぬ言葉を発した故に、紫の上を危うく死なせるところであった光源氏。
 こういう対比が効くくらいに、当時は言霊の力がまだ信じられていたのでしょうな。

 疲れました。以下、次回。



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