悟空の大冒険
日本のテレビアニメの草分けは、虫プロの「鉄腕アトム」である。一説によると、「ヒゲとボイン」も候補に上がっていたそうで、「鉄腕アトム」で本当に良かった。まあ、「ヒゲとボイン」なら、それはそれで面白かったが。
ところで、菊池桃子の映画初主演は「パンツの穴」である。未見であるが、そんな危ない作品ではなく、青春学園ものらしい。その年代特有のちょっとエッチな部分もあろうが、たぶん中学生レベルだろう。それより略歴を語られるたび「パンツの穴」では、菊池桃子も誠にお気の毒である。今やどこぞの短大の先生にまでなった菊池桃子にしてみれば、悔やむべき過去となろう。まあ、事務所サイドの判断で本人の意思などまるで考慮はされなかったのであろうが。
横道にそれた。「悟空の大冒険」である。虫プロ制作である。虫プロは手塚治虫設立のアニメーション制作会社で有名であるが、手塚治虫本人の漫画をアニメ化して、ヒットしたものはなんだろう。「ジャングル大帝」「リボンの騎士」「バンパイヤ」あたりであろうか。S3、40年代の比較的初期に偏っている。後に「不思議なメルモ」とかスマッシュヒットするが、小品感を拭えない。「明日のジョー」とか「国松様のお通りだい」とかあるが、手塚漫画のアニメ化ではない。そのうち、虫プロは倒産する。今は復活してるらしいが、よく知らない。他に手塚プロとかもあって、訳がわからない。何が言いたいかと言うと、虫プロ倒産前で手塚漫画をアニメ化してヒットした後期の代表作はなんだろうか、ということである。
虫プロ初期を除き手塚漫画をアニメ化して成功したものは、実はそう多くないのではないか。何が言いたいかというと、手塚本人が口をだすと、アニメとしてはつまらなくなるのではないか疑惑である。まあ、「ブラックジャック」まで、漫画でも手塚は終わったとか言われてたらしいし。映画でも、「千夜一夜物語」とかやってたが、すこぶる退屈した。大人のアニメとか言って、奴隷の女性が裸にされて売られるシーンがあったが、腰布を解く時の、大層な音楽ともったいぶった演出にはびっくりした。後の24時間テレビの午前中、手塚アニメを2時間くらい毎年やってたが、どれも面白くなかった。おんなじである。あのクラッシックかけてキャラクター踊らせるシーンはなんなのだ。いずれも手塚の思い入れが強すぎて、演出が空回りしていたと思う。「千夜一夜物語」は杉井ギザブローの演出であったが、これで懲りたのではなかろうか。そして、俺もう勝手にやらせてもらう、と思ったのではなかろうか。それほどに悟空はぶっ飛んでいる。
もとより「悟空の大冒険」は手塚治虫原作のアニメではある。漫画の方は「ぼくの孫悟空」という。しかし、この二つはまるで別物だった。主人公の悟空のキャラクターの造形にしてから全く違う。背丈、顔形、性格全く違う。そして違ってまったく正解だった。
悟空は単純おっちょこちょいで乱暴。
猪八戒は食い物のことしか頭にない太っちょ。
沙悟浄は金鉱掘りのガリガリ守銭奴。
三蔵法師はわがまま怖がりすぐ逃げる。
あと、なんか女の子も出てたな。
とにかくこれらの特異なキャラクターたちが、玩具箱をひっくり返したような異様なスピード感で、30分突っ走る。とにかく息つく暇さえない。すごい。
演出の杉井ギザブローが、手塚原作を全く無視して作り上げた傑作でである。
その後、杉井は「どろろ」も作るが、これも傑作であった。たぶん手塚に口出しはさせなかったのではなかろうか。知らんけど。
もしそうならば、杉井ギザブローは誠に誠に偉大な演出家であったと思う。