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三十四帖「若菜上」その1。角田訳源氏(もー、怖いんですって!)

 源氏は政務から半引退して余生を送っている。40くらいかな。太政大臣(元内大臣)ともども、年をとったとよく口にでる。二人は初老コンビとなったのだ。太政大臣はまだ政務に就いてるが、源氏は半引退で気楽なもんである。そう言えば、あの弘徽殿の大后も崩御したそうだ。悪役として、もうひと暴れして欲しかったが。
 朱雀院の述懐が最初にある。院は、自分はもう病気だし出家して仏の道に入りたい、と言う。だが、出家するのに心配ごとがある。子の女三の宮である。いい婿が欲しい。でないと出家しても出家しきれん、と。
 朱雀院は女三の宮のことが可愛くて仕方ないのである。世間知らずの純粋培養の十三歳の姫に、このままでは変な虫がつくかもしれん、と心配でしょうがない。
で、出た案が、

案1、中納言夕霧
 →やっと思いが実った雲居雁に今夢中、たぶん女三の宮が嫁に入ると、雁さんが悲しむことになる。

案2、蛍兵部卿宮
 →身分は申し分ないが、ナヨナヨしてる。玉鬘にも逃げられたし。ナヨナヨしてる。

案3、衛門督柏木
 →こっちも玉鬘に逃げられた。その反動で、皇女でないと嫁にせんとか放言いうてるらしいが、まだ年若。親父の太政大臣と朧月夜とで、よろしく言うて、運動しとる。

4、藤大納言
 →姫の家司になりたいとか言うてるらし。しかし身分が。今、院の別当やっとるが、院が出家すると失業するんで、なんか必死。

で、院は息子の東宮に相談する。したところ、
「まあ、親代わりとしてお預けするってことで、源氏のおじちゃんがええんじゃないですか」
との答え。

案5、光源氏
 →縁のあった女性は皆面倒みてる(見捨てられることはない)
 →奥さんたちの身分は総じて低い(女三の宮は准上皇に釣り合う身分)
 →実質、奥さんは紫の上だけと言える(入り込める余地はある)
 →自分の人生、身分も得たし、政務も頑張れたが、女性の方はイマイチだった、とか源氏自身が言うている(どの口が、とか思いはするが)

 で結論。源氏さんお願いしまーす。て、歳の差は考えんのかい!
 でも源氏の方は考えてました。
「院はもう自分が長うないっておっしゃいますが、私だって長うない。何しろ平安ですからね。抗生物質もないし盲腸で死ぬ時代ですんで、太ってんで糖尿かもしれません。そうだ! 冷泉帝に入内なさいませ。たしかに秋好中宮はおりますが、そんなん、どう転ぶかわかりません。そうだ、そうなさい。姫のお母上は亡き入道(藤壺中宮)の妹さんでしょ。桐壺帝のご寵愛を弘徽殿女御から奪った藤壺さんの妹でしょ。こりゃ、いけますって」
と断るが、女三の宮の裳着の儀がすんで、朱雀院が髪を下ろし、源氏に直接頼むと、流石に断りきれず、承諾する。
 しょうがないので、紫の上に、スマンことだが、と事情を話す。紫の上は、ご事情がご事情だけにやむを得ぬことです、と怒ってない風だが、実は内心ヒジョーニ面白くない。ま、そうですよね。

 源氏の四十の祝いに、玉鬘が子供二人を連れてやってきて、若菜を献上する。夜は宴になる。

 二月、女三の宮が六条院に入る。新婚三夜は婿が通う慣わしである。その後、餅を食って結婚成立とか。
 当然、源氏は女三の宮の元へ通う。わかっちゃいるけど、源氏の衣に香を焚き染める紫の上は物悲しい。
「今夜だけだ。すまぬ」
と源氏は言う。
「先のことはわかりません」
と紫。
ーー末長くと頼りに思うあなたでしたのに
 と紫が歌えば
ーー人の命は絶えるとも、私たちの中は変わらない
 と源氏。
 ぐずぐず紫の上のところにいるわけにもいかず女三の宮の元に渡る源氏。
 どうなることかと、女房たちが口にする。噂大好き。揉めるの大好き。六条院の他の女君たちも様子を伺う。
 紫の上の心情は、なかなかに厳しい。この院で、ひとり源氏の愛情を受けていたはずなのに、突如女三の宮が現れた。皇女故、表では立てねばならず、しかし内心は……。
それを悟られないように振る舞わねばならず……。
 源氏もつい心配になり、明け方、紫の上の元に戻ってくる。それはそれで嬉しいが、皇女を放っておくわけにもいかず、お行きなさいまし、と言うしかない紫の上。
 ひりひりするよな雰囲気に耐えかねたか、源氏は、こともあろうに朱雀院の寵愛した朧月夜を訪ね、無理矢理関係を持ってしまう。げ、現実逃避ですか。
で、当然、益々状況は悪くなる。全部、紫の上にはバレてまい、二人の間にうっすら隙間風がふく。ふくふく。
 紫の上は、明石の女御の宿下りに顔を見せるついでに、なな、なんと、女三の宮の部屋にも顔をだし、ご機嫌伺いする。仲睦まじく話したりする。底意は分からぬが、ともかく二人の姫が仲良することに源氏は胸を撫で下ろす。て、んな訳ないやろ! バカもん! こんなオドロな景色があるかい! アテが源氏やったらチビってまいます。

 なんか若菜になって、急に文章量が増えた。式部はどうやら文学に目覚めたらしい。内面がやたら語られる。いや、今までも語られはしたけど、「若菜」は非常に複雑怪奇オドロな内面となる。嫉妬してんのにしてないふり。行きたくないけど行かねばならん。でも、その実、行きたい気持ちも少しある。家の中の冷え冷え感に耐えきれず、もう会いません言うてる外の女んとこ行く。んで、無理矢理関係持って、バレて洗いざらい全部奥さんに話して、したら奥さん、怒りもせず、愛人と妙に仲ようしはじめる。これ、恐怖でしょ。腹ん中がわからな過ぎてーー。
 な、なんか怖いです、式部さん。もうこれ以上、怖うて、ワシよう読みません。

ということで、若菜上は次回に続く。







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