四帖「夕顔」角田光代訳源氏物語(年増女の深情け、恐怖でしかない)
「俺、新しい彼女できちゃってさ。今度紹介するよ」
「前の彼女とは?」
「別れた」
「えー、長かったやん」
「5、6年かなあ」
「前の彼女、歳いくつよ」
「んと、34、かな」
「殺されるよ、お前」
刺されても文句は言えまい。30女と付き合うには覚悟がいる。いや、付き合うのに覚悟はいらないが、別れる時に覚悟がいる。
「夕顔」の巻の時、
光源氏17歳、六条御息所24歳。平安時代スから、今でいう34歳と考えていいかしら。ダメかしら。
ちなみに源氏は12歳で元服して、左大臣の娘葵上と結婚している。
ある日、源氏は病の乳母を見舞う。ここで登場するのが、乳母の息子惟光である。源氏とは乳兄弟になる。同じおっぱいで育った二人の絆は強いのである。
で、源氏は隣の家がなんだか気になる。おお、かわいい姫さんがおるではないか。誰じゃ?と探らせてもよく分からん。分からんが、好奇心も手伝って、惟光を手先にして、女の元に通いだす。女は身元を明かさない。で、家の板塀に咲く花に因んで「夕顔」とする。
夕顔の家は、狭いし、外の声が丸聞こえなんで、
「ねえ、このまま二人でどっかいっちゃおう」
とばかり、源氏は夕顔を連れ出し隠れ家に籠る。したところ、物の気に取り憑かれて夕顔は死んでまう。物の気は、どう考えても六条の御息所の生霊で、それに取り殺される。六条さんから見たら、
何さ、あたしの方が身分は高い。
何さ、あたしの方が教養も高い。
何さ、あたしの方が綺麗度高い。
なのに、何さ、こんな小娘んとこ行っちゃって。何さ何さ。てとこでしょうか。
でもさ、御息所の方が年齢、高い!
で、生霊んなって女を取り殺すんです。怖わ!
源氏は後始末をみーんな惟光に押し付けて、勝手に病気になって二十日ぐらい寝てまう。もう、僕ちゃん死にそうやわ、とか言う。死ね!馬鹿もん、とか思いながら読んでくと、女はやっぱり、頭中将が昔通ってた女で、二人の間には子もあった。源氏は、夕顔に仕えた右近を引き取る。夕顔の子、玉鬘も引き取る気でいたが、なかなか消息がつかめない。一連のことを頭中将に言わねばならんと思いはするが、怖くて言えない。
夕顔は身元を伏せられたまま荼毘に伏される。したところ、空蝉も旦那の任地へ共に下ることとを知る。流石に歌のやり取りくらいはしたが、そのまま会えずに別れる。
源氏は、
六条の御息所は生霊になっちゃうし、夕顔は死んじゃうし、空蝉は本当は僕に会いたかったのに泣く泣く田舎に下ってゆくし、何が原因?どうしてこうなる?
と自問します。そしてでた答えが、これ。
全ては僕が美し過ぎるからなんだ。
はいはい、言ってなさい言ってなさい。
ちなみに、空蝉と間違えて源氏がいたしちゃったあの女は、蔵人少将を婿に貰ってめでたしめでたし。一応源氏も、一夜の縁があるもんで、別に旦那にバレてもいいや、てなていで歌を送ります。
ーーあの夜のことがなかったならば、恨み言など言いませぬのに。(結婚しちゃうんですか)
すぐに返歌が来ます。
ーーあの夜のことを仄めかしていらっしゃるの。残念だわもう人妻なのよ。うふふふ。
そう言えばこの女、源氏が忍んできた時、大はしゃぎだったなあ。人違いなのに。きっと歌をもらって大喜びしたんだろうなあ。人違いなのに。
でも、まあ、いっちゃん人生幸せなんは、こういうタイプの女性なのかもしれませんな。