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三十五帖「若菜下」その1。角田訳源氏(昼ドラみたい)


 垣間見した女三の宮が忘れられない柏木は、せめてそのきっかけを作った唐猫を、と夕霧に言って手に入れ、たいそう可愛がる。
 祖父式部卿宮に引き取られた真木柱の姫は、なかなか縁付かない。父の髭黒も東宮の伯父で身分があるので、だれでもいい訳でもない。連戦連敗の蛍兵部卿宮が、失恋ばかりで格好がつかぬと、姫にちょっとそうしたそぶりを見せると、式部卿は喜んでこれ幸いと話を進める。しかし、蛍宮は元よりそれほどに本気というわけでもない。で、あまり通ってこなくなる。
 酷いではないかと式部卿は思い、それみたことがと髭黒は思い、期待外れだったと母君は落ち込む。式部卿の妻に至っては、ひとりの妻も大事にできぬとは、と手厳しい。蛍宮はすっかり嫌になって、ますます自宅に引き篭もる。歪な夫婦関係が二年も続く。
 十八年在位の冷泉帝が譲位する。太政大臣が職を辞す。髭黒が右大臣になり、東宮には明石の女御が産んだ皇子が就く。夕霧は大納言となり、紫の上は出家を望む。勿論源氏は出家には大反対である。関白宣言にあったなあ。
🎵俺より先に死んではいけない〜。
 源氏は一族栄達の礼に、住吉大社に向かう。紫の上も同道する。春宮の母となった明石の女御、実母の明石の御方、祖母の尼君も。一家総出。で、「明石の尼君」は「幸福な人」の意味になったとか。
 普段邸から出ない紫の上はこの参詣をとても楽しく思う。しかし、帰って出家の思いは益々募る。何くれと院は女三の宮をご心配だ。位も二品へ上がり威勢も増した。何より若く美しい。翻って自分は源氏以外に頼るものとてなく、三十七と、歳もとった。近頃源氏は姫君のところによく渡る。女三の宮は皇女であるから仕方はないが。でも、このまま忘れられてゆく身ならば、その前に出家したい、と紫の上は願う。その思いと寂しさを、明石の女御の姫君を慈しみ育てることで紛らわす。
 花散里も夕霧と藤典侍との間にできた女の子を引き取り育てている。藤典侍と夕霧は、雲居雁との結婚のまえに関係があった。藤典侍は惟光(源氏の従臣)の娘である。
 して、来年の朱雀院五十の祝いの話が上がる。院はことのほか娘の女三の宮の琴の上達ぶりが気になっている。源氏は名だたる楽器の上手を集め、院の前で舞と共に披露することとする。また女三の宮には源氏が琴の手ほどきを手ずからにする。必然、源氏は姫宮のところに行くことがまた増える。
 年が明け、正月二十日ごろ、祝賀の準備に入る前に、一度合わせてみましょうと、六条院で合奏が始まる。紫の上の和琴、明石の御方の琵琶、明石の女御の筝の琴、女三の宮の七弦の琴、そこに髭黒の三男や夕霧の息子たちが笛を合わせる。夕霧は調子をとって唱和する。言い尽くせぬほどの優雅な管弦の遊びとなる。
 一行が帰って、源氏は紫の上と話す。
 あなたが小さかった頃、私は時間もなくきちんと琴を教えることもできなかったのに、今回は素晴らしい出来栄えで、私も面目がたった。いやあ、あなたは素晴らしい。
ーーどうやら、女三の宮ばかりに琴を教えてたことを負目に感じてるらしい。
 幼い頃、連れてきてしまったことは悪かったが、それ以外は不自由ない暮らしをさせたろう。女三の宮が来て面白くないだろうが、一番はお前だよ。
ーー暮らしの恩を売ってきた。源氏は紫の上の出家を思いとどまらせたいのだ。
 他の、他の女性と比べても、お前がダントツなのだよ。
 葵は、ぜんぜん打ち解けてくれなかったよ。頭良すぎてね。賢すぎる女性も考えもんだよね。
ーーとうとう他の女の悪口まで言い出す。
 六条の御息所は、なんか優雅のお手本みたいな人で、気が抜けない。息苦しかったよ。それで足が向かなくなって気の毒なことをした。だから罪滅ぼしに娘さんは中宮にあげた。言っとくけど、中宮とは何にもなかったよ。
 明石の御方はね、最初身分がないから軽く見てはいた。最初はね、でもどこか油断ならないところもあって、表面上は従順だけど、心が読めなくてね。気が許せないんだよ。お前だけだよ。リラックスできるのは。
 紫の上は、先の二人の方は存じませんが、明石の御方は確かにそんなところもございますが、それを言えば、私こそどう見られておりますか、気が引けます。でも、お育て申し上げた女御様はきっと私を大目に見てくださるでしょう、と言う。
ーーあ。ああ、やっぱり。やっぱり嫌だったんだ。て、当たり前のことをたぶん源氏は思う。
 いや、さすが紫の上、うまく振る舞ってくれたよ。いや、さすがだわ。
ーーと、源氏は言い繕い微笑むが、たぶん笑顔は張り付いているに違いない。
 あ、時間だ。姫君んとこ行って、琴の練習しなきゃ、といきなり源氏は退散する。
 紫の上は思う。
 世間の女と比べたら、あたしはマシか。まだマシか。幸せな方か。
 と、自ら自分を慰めてみる。したら、キリキリ胸に痛みが。
 紫の上は病に倒れ、二条院に移る。お仕えする方々も。源氏も。みんな心配。彼女は今年厄年だし。

 六条院に残るは女君ばかりとなってしまった。

 今回も、途中ですまない。





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