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【短編小説】罠


   1

 ええ、ずうっと先まで蜜柑畑でした。よく覚えています。私は二、三個失敬してモグモグやっていました。そうして自動車が一台、やっと通れるくらいの道を歩いていたんです。朝から、なにも食べていませんでした。しかし、だからといってそんなに腹が減っていたわけでもないんです。
 ただ蜜柑が生ってっていたから食べていた。

   2

 女の子はびっこを引いていました。
 華奢なその体は、背中のランドセルさえも苦痛のようにヒョコヒョコ揺れて、伏し目がちの瞳に、長い睫がいつも瞬いている。病的に白い、透き通るような肌をして、肩まで伸ばした髪は、時折風に吹かれてなびいている。
 女の子の美しさは異常なほどだった。それは性的な美しさと言ってよかったと思います。

   3

「ここにイタチがおったんじゃ」
 どうだというように、従兄の和秀が私を見た。
「スゲエじゃろうが」
 私はこくりと頷く。私たちは錆びて赤茶けた罠を見ていた。罠には鋭い牙がついている。過ってその上を踏もうものなら、その鋭い牙が両側からここぞとばかりに噛みつくのである。

   4

 確か私は、胸のポケットから手書きの地図を取り出して、ウンウンと頷くようにして再び歩き出したと思います。太陽はもうだいぶ高くなっていて、時刻はきっと十二時かそこらだったでしょう。病院は、まだ先でした。

   5

 私は先ほどの女の子のことを思っていた。同じようなびっこの女の子を私は知っているが、それは強い拘泥をもってしか思い出すことのできない古い印象だった。

   6

 いくら時間がたっても、バスは来なかったようです。でなければ、あんなに長く歩くはずはなかった。何しろ病院に着いたときには、私の足はマメだらけだったんですから。後から聞いた話によると、駅から病院に行くバスは日に二本しかなかったのです。いや三本だったかもしれません。そこら辺の細かい箇所になりますと、今ひとつ記憶がはっきりしません。マア乗ったにしても、それはずっと後のほうだったでしょう。少なくとも蜜柑畑を歩いている間は、バスには乗りませんでした。

   7

 女の子は赤いスカートをはいていた。
「どっから来たの」女の子が訊く。
「くだまつ」
 私は緊張して答えた。そして、女の子にあのことを聞いてみようかと思った。
「遠いの?」女の子がまた訊く。
「うん」
「電車に乗るの?」
「うん。バスにも乗らあ」
「バスにも」
「うん」
「飛行機は?」
「飛行機は乗らん」
「あたし、飛行機に乗ってきたの」
 しかし、やっぱりよすことにする。何しろ女の子は飛行機に乗ってやってきたのだから。

   8

 そう、だいぶ歩いていると、左側の蜜柑畑が切れて海が見えました。それはきっと突然でした。私は歓喜の声をあげたはずです。そうして、走ったでしょう。勿論、海をもっとよく見るために。そこは岩場になっていました。私はガードレールを乗り越えて下を見ました。それはちょっとしたスリルだったようです。

   9

「ええか、見ちょれ」
 和秀は手にした棒きれで、罠の中央部を押した。途端、重い金属音とともに罠が棒きれに食い込む。私は驚き、目をつぶった。
「へへ、シュンちゃんは、恐ろしがりじゃのう」
 途方もない失態でもしでかしたかのように、私は赤くなった。

   10

 岩壁の上に座って足をぶらぶらさせながら、ふと煙草を吸うことを思いつきました。これはなかなかの名案で、そのとき私の肩にかかっていた袋には、伯父からくすねた煙草が、まだ封も切らずにあったのです。

   11

 坊主のお経は退屈だった。
 私は、お経はナンマイダアだと思っていたのに、坊主の読むお経は違っていた。
「にいちゃん」
「なんか」
「ナンマイダアじゃないね」
「よう聞きよれ。ナンマイダア言いよる」
 坊主のお経はやはり違っていた。

   12

「イタチ、死んだの?」
 私は怖ず怖ず問うてみた。
「へへ、死ぬるもんかいや。こんぐらいで、なあんが死ぬるもんかいや。もがいちょったでよ。こねえして、もがいちょった」
 和秀はイタチをまねてジタバタしてみせた。真剣な面もちで私はそれを見た。

   13

 煙草の煙が肺に降りていき私は少しクラクラしました。まだ煙草を吸い始めて間もない頃でしたから。
 沖の方から白い三角が、私の岩壁めがけてやってきました。遊覧船です。あの日は天気がよくて波が穏やかでしたから、いつもは危険なこの辺りまで足を延ばしたのでしょう。遊覧船の客は私に向かって手を振りました。土地の若者とでも思ったのでしょうか。私も手を振りました。
 海がキラキラ光って、美しかったことを覚えています。

   14

 右足のソックスの中には、女の子の秘密があった。青い静脈が透けそうな白い肌の、そこにだけ赤い痕がある。
 女の子は、それがなぜついたのか知らない。

   15

 女の子は男の子達に虐められることはなかった。彼らは遠くから女の子を見守った。それは神聖なあるものを見る目だった。性的に未発達な彼らでさえ、女の子の美しさを感じていた。
 女の子の両親は、この現象を感謝した。
 他の女の子達は気味悪がって近寄らなかった。彼女たちには、女の子の美しさが嫌悪の対象としてうつった。しかしそれは、積極性を持つものではなかった。

   16

 私はひとつ背伸びをして立ち上がりました。煙草は岩壁の上から落として、それが海まで届かず、途中の岩のでっぱりで止まったのが少し残念でした。

   17

「よう聞いちょれ」
 私は和秀の顔を見る。和秀は変にニヤついた顔をしていた。
「この棒があろうが、これがチンコじゃ」
 和秀は、棒きれと罠を何かに喩えて、それを私に教えようとしているのだとわかった。
「この罠があろうが、……」
「……」
「これが、おなごのあそこじゃ」
「あそこって?」
「馬鹿たれ。そねえなこと、言えるか」
 和秀の頬が心持ち赤くなった。私は大変なことを聞いたと思った。
「ええか。このこたあ、絶対に秘密にしちょけ。お父ちゃんやらお母ちゃんに、ゆうたらいけんど。ええか」
 脅すように、和秀は言う。
「言わん」
 私は重大な秘密を聞かされたスパイのように、胸がドキドキした。

   18

 また、私は歩き出しました。さすがにそろそろ腹も減りだして、しかし辺りに店屋どころか人家さえないので、仕方なくまた蜜柑に手を出しました。実は、朝から蜜柑の食べ過ぎで、舌に小さなできものができていました。食べたくないのに、食べられるものは蜜柑だけしかなかったのです。 

   19

「こんにちは、祐子ちゃん」
 大人の女達がそう女の子に呼びかけると、女の子は優しく憂いを含んだ微笑をつくって、
「こんにちは」
と言う。
 大人の女達は、その美しさに息を飲む。

   20

「何だい、この古い傷は」
「わからない」
「いつ怪我したの」
「わからない」
「何で怪我したの」
「わからない」
「僕は、君のこの傷を見るといちばん興奮するんだ」
「そう」

   21

 電気の消えた部屋の中で、私は天井を見つめていた。闇の中から昼間見た罠が出てきて、ガチャリガチャリとその口を開けたり閉めたりしている。私は、そっと自分の性器にふれてみた。隣で母の寝息が聞こえる。柱時計が十二時を打った。私は自分の性器が何者かにくわえられ、そこに鮮血がほとばしる幻影を見て、思わず身を固くし目を閉じた。キィンキィンという耳鳴りがした。

   22

 そうです。諦めて私はバスを待つことにしたのでした。あのとき、私の足は疲れ切り、もうこれ以上一歩も進めないほどでした。それでその場に座り込んだのです。思い出しました。座り込んだ拍子に、ポケットの小銭がジャラジャラ音を立てたのです。私は恨めしそうに蜜柑畑を見たはずです。

   23

 いや、違いました。それからだいぶ待ってもバスは来なかったのです。私は再びヨロヨロ歩き出したのでした。時計をしてくればよかった。そう思いました。あの時わき出る感情は、後悔の念ばかりだったように思います。おまけに、海が人を馬鹿にしているように青い。もう蜜柑を食う気にはなれない。二、三百メートル歩いては後ろを振り返り、振り返っては歩く。確かそんな状態だったと思います。

   24

 ある日、女の子は犯された。二十歳くらいの三人組だった。女の子はそのことを両親に黙っていた。
 初潮があったのは、それから三日後だった。

   25

 女の子の美しさは、ますます度を加えた。
 女の子はびっこを引いていた。

   26

「猫の鳴き声、知ってる?」
「ああ、ニャオって鳴くんだろ」
「そう。ニャオニャオニャオ」
「それがどうしたの?」
「ニャオニャオ。ね、犬の鳴き声知ってる?」
「あ、ああ。ワンだろ」
「そう。ワンワン。でもね、私には逆に聞こえるの。猫がワンワン、犬がニャオニャオ。そう聞こえるの」

   27

 もう駄目でした。私はヘナヘナとその場にへたりこむと、バスが来るまで動かないぞ、と悲愴な決意をしました。従兄からもらった地図によれば、蜜柑畑を抜ければスグのようなことが書いてあるのですが、その蜜柑畑がなかなかのものだったのです。
「畜生。いい加減にしやがれ」
 私は地図を四つにちぎると、頭の上に放り投げました。地図の切れ端は、頭に当たってヒラヒラと四方に散りました。暫くそのままにしていましたが、やがて私は、のろのろとその切れ端を集めてポケットに入れたようです。なんだか、怒るのも馬鹿らしくなったんだと思います。
 小一時間くらいそうしていました。先ほどが十二時なら、今はもう二時か三時だろうと薄ボンヤリ考えていました。空腹も極に達した感があって、ひっきりなしにグーグー鳴るのが気障りでした。

   28

「早いもんじゃねえ。もう七回忌じゃけえね」
「そうそう。爺ちゃんが死んだときには、この子はまだ陰も形も……」
 そう言うと、母は私の頭を撫でた。
 私は大人の女達の間でその強いニオイを嗅いでいた。
 向こうの牛小屋の隅に女の子がいた。私が見つめると隠れてしまった。

   29

「ええもん見しちゃろうかあ」
 私は女の子にそう言った。
「ええもん?」
「うん。ええもんじゃ。見るか?」
「見る」
「なら、ついてこい」
 私は女の子に罠を見せようと思った。
「ええもんって何?」
「ついたらわかる」
「どこまで行くの?」
「山」
 私は女の子にあのことを訊こうと思った。

   30

 従兄が怪我をしたのを知ったのは、K大の発表日の二日前でした。私は矢も楯もたまらず病院に向かうことにしました。発表の方も相当気になっていたのですが、マアマアの出来でしたし、やっぱり病院に行くことにしたのです。
 従兄が怪我をしたのは、丁度一週間前で、私が東京に出発した次の日でした。従兄は私の試験のことを気にかけてくれて、知らせるのを遅らせたのです。
 そしてなにより、私はそのとき一刻も早く伯父の家から辞去したかった。 

   31

 女の子はじっと虚空に目を漂わせて、夢を見るような按配になることが増えてきた。そしてそれがますます女の子の美しさを魅惑的なものにし、思春期を迎えた男子生徒達の注目の的となった。彼らはしきりに彼女の注意を引こうと、あれこれ彼女に話しかけたり、彼女の気を引くようなことをやったりした。けれど、彼女は彼らに対して冷淡だった。
 女の子の美しさはすでに少女の域にあった。

   32

 少女が初めて英語教師に会ったのは、高校の入学式の翌日だった。
 英語教師は、その時間中少女の顔を見つめていた。少女は英語教師を意識した。彼と話したいと思った。
 英語教師は、ただ異国の言葉を話すだけだった。

   33

 不意にダダダダダというエンジンの音が聞こえたのです。私は振り返り、音のする方を見やりました。それは、私の歩いてきた方角からだったのです。はい。ハッキリ思い出しました。トラクターです。後ろに蜜柑をたくさん積んでいました。助かった。私はそう思って手を振りました。そうしてトラクターに向かって駆けだしたのです。
 麦わら帽子の上から手ぬぐいをした、五十くらいの男の人が、運転していました。

   34

「すいません。あの、乗せていただけないでしょうか。行かれるところまでで結構ですから」
 男は少し困惑したような表情をみせたが、乗れ、とボソリと言った。
「ありがとうございます」
 私はペコリと頭を下げて、蜜柑箱の山の後ろに廻った。

   35

「ええもんって、これ」
 女の子はちょっと失望したように呟いた。
「うん」
 私は女の子の失望の理由がわからず、突き放すように答えた。
「どこが、ええの?」
 女の子の質問は執拗だった。私は自分の中で急に興ざめしていく自分に気がついた。
「今に、わかる」
「今にって、いつ?」
「今に。もうすぐ。ずうっと見ちょったら分かる」
「ずうっと?」
「うん」
「いや!」
 女の子は叫ぶと同時に駆けだしていた。うそつき、うそつきと大声をあげながら。女の子が告げ口しなければいいのだけれど、その後ろ姿を見ながらそう思った。

   36

 過って猟師の罠にかかって、従兄は怪我をしたのです。それはずうっと以前、まだ私が小学校に入る前に一度、従兄に見せてもらったものと同じ罠でした。イタチやイノシシを捕まえるための物で、この頃では滅多に使われなくなっていました。
 従兄の話によりますと、猟師は九州の人で、最近村の周りに増えたタヌキを退治するために呼ばれたのでした。

   37

「君は足が悪いの」
 英語教師は少女に訊いた。
「はい。右足が悪いんです」
 少女は耳たぶを赤くして答えた。
「そう」
 英語教師は行ってしまった。

   38

 トラクターの男の人は、親切にも病院の前まで送ってくれました。私はお礼にとお金を少々出したのですが、男の人はかえって怒ってしまい、せき立てるように私を玄関に向かわせました。
 男の人は従兄の知り合いで、道々私が彼のことを話すと驚いて、それで送ってくれたという訳なのです。
 私は何度も頭を下げて病院へと入って行きました。

   39

 私が再び女の子、いや少女と出会ったのは、大学受験の時だった。
 東京のいくつかの大学を受けるため、少女の家に十日ほどやっかいになることになったのだ。伯母は私を歓待してくれた。伯父はうさんくさそうに私の顔を一瞥しただけだった。
 少女は誰にでもそうするように、優しく微笑した。
 夫婦の仲は冷えているようだった。

   40

男「だいぶ調子がいいじゃないですか」
私「はい。先生のおかげです」
男「どうです。煙草?」
私「あっ、どうも」
男「内緒ですよ」
私「ありがとうございます」
男「じゃ、続けてください」
私「はい」

   41

 従兄は右足を吊ってベッドで横になっていました。勿論、大部屋です。従兄は私の顔を見るなり、ちょっとテレたような含羞むような笑顔を見せました。私はその笑顔に安心して、ギブスで子供の胴ほどにもなったその右足を軽く小突く真似をしました。従兄は驚いて思いがけず大声を出し、何事かと看護婦がとんできました。

   42

 少女と英語教師の噂が広まった。根も葉もないイヤガラセだった。少女は英語教師にそのことを謝ろうと思った。それで、英語教師の家を訪れた。
 そこで噂は本当になった。

   43

 行為中、幾度も教師は、少女の足首にキスをした。
 そこには、彼女の秘密があった。

   44

 病院は白ずくめでした。壁も床もベッドも洗面器もそして勿論、包帯も。それらのことごとくに消毒薬の鼻を刺すニオイがついているのです。
「すげえニオイじゃろうが」
 従兄は訴えるようにそう言います。
「こねえ辛気臭いニオイ嗅いじょったら、怪我じゃなあところも参るでよ」
 今年二十二になる従兄は、身動きできなくても口だけは達者なものでした。

   45

「誰か祐子知りませんか」
「どうしたん?」
「いないんです。どこを捜してもいないんです」
「あれ、そら大変じゃ」
「川の方へ行ったんと違うか」
「とにかく捜してみましょ」
「まだ、こまい子なんじゃけえ、あんた目え離したらいけんじゃろうがね」
「そねえなこたあ、あとあと」

   46

 私は、手伝いに来た、隣のもう耳の遠くなった婆さんと二人で、田舎屋にじっとしているように言われた。

   47

 ある日、二人はラブホテルに入るところを目撃された。英語教師は学校を辞め、少女はそのまま学校に残った。
 人はいろいろ陰口をたたいたが、不思議と少女の悪口を言うものはいなかった。
 母親は少女を叱った。
 少女はガラスのような瞳で母親を見つめていた。
 父親はただ黙っていた。

   48

 受験日の前日、私は興奮してなかなか眠れなかった。糊でゴワゴワしたシーツのせいかもしれなかった。私は糊のたっぷり利いたシーツは嫌いなのだ。
 トイレに行こうと部屋を出たとき、誰かが突き当たりの部屋に入るのが見えた。少女の部屋だ。ドアは完全に閉められてはいなくて、わずかな隙間がある。私はそっと目を近づけてみた。

   49

 男は少女の上に乗っていた。少女は無表情にされるがままになっている。父親の手はそれのみがひとつの生き物であるかのように、少女の体を這いまわる。やがて少女は私に気づいて、優しく微笑した。

   50

 病院のベランダの手すりはひどく低かったので、私はそれをさすりながら、疑問に思って従兄に尋ねてみました。
 従兄の話によれば、この病棟は元小児科のものだったので、それで二階でもそんなに手すりが低いんだろうということでした。もっともらしい話ですが真偽のほどはわかりません。

   51

 兄と和秀は川へ釣りに行っていた。女の子は兄になついていた。それで大人達は女の子が二人を追いかけたと思ったのだろう。

   52

 私は女の子の居場所を知っていた。

   53

男「もう大丈夫。あなたの記憶はもどりました。もう心配いりませんよ」
私「ありがとうございました。全て先生のおかげです」
男「いやいや、あなたが頑張ったからですよ。私はただ、あなたの記憶を取り戻す糸口をつくっただけです」
私「本当にどうもありがとうございます」
男「時にーー」
私「はい」
男「あなたが病院のベランダから転落する直前、山岡和秀さんが、あなたに親戚の女の子の話をされたそうですが、それが何かあなたの心情を乱すようなーー」
私「いえ。関係ありません」
男「そうですか。それならいいんです。ただ、山岡さんがちょっと気にしておられたものですから」
私「それは、私が転落したことと何の関係もないと思います」

   54

 私は田舎屋を抜け出して山に入った。女の子はやっぱりそこにいた。やはり罠に片足を食いつかれてそこにいた。女の子は泣いている。私は女の子に見つからないように、木陰からじっとその様子を見た。
 耳鳴りがした。目が熱くなった。再び私は性器に触れてみた。
「これがおなごのあそこじゃ」
 和秀の声だ。女の子の足からは鮮血が溢れている。罠は赤く光っている。足首から流れる血が草地を染めている。花。草地のそこかしこに小さな白い花が咲いている。

   55

女の子はじっとしていた。
イタチのようにジタバタしない。     
                                                        
             了

※この物語の第一稿は作者が19歳の時に書かれた。

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