実践からの学びをふりかえる|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業⑮
この記事を書いているのは9月1日(木)。一昨日(8/30),再び壱岐に戻ってきました。今回はゼミ3年生の合宿のため。本日夕方のフェリーで福岡へ戻ります。
そして,このタイミングで戻ってきた理由はもう1つ。すでに新学期が始まった壱岐商業高校3年生の「課題研究:起業体験プログラム」の授業を行うためです。タイミング的にもマルシェを行った直後ということもあり,高校生の記憶が消えないうちにふりかえり(内省:リフレクション)をしっかりやっておこうと意図も含まれています。
では,さっそく今回の授業の様子を見ていくことにしましょう。
これまでの授業の経緯についてはこちらから。
壱岐エテマルシェの模様はこちらをお読みください。
ふりかえりから高校生はどのような気づきを得たのか
今回の授業を行うにあたり,学生が担当するのか,私が担当するのか,少しばかり思案した。これまでの実績もあり,学生に委ねて淡々とふりかえりを行っても十分に議論が深まるとは思ったけれども,学生にも高校生がどのようなふりかえりをするのかを見て,彼・彼女たちの話を聞くことで大学生のふりかえりになるだろうと考えた。
そこで,今回は私が授業を担当し,大学生にはサポート役に入ってもらうことで,高校生への橋渡し役をお願いすることにした。
今回のふりかえりは,次のような手順で行った。
①高校生を指名して今の時点で感じていることを話してもらう。
②ワークシートに書き込む。
③大学生やパンプラスの大久保さんにグループに入ってワークシートをグループ(カフェチームとアパレルチーム)ごとに共有。
④頂いて他者の話を聞いて感じたこと,論点をまとめる。
⑤授業終わりには次回以降のふりかえり課題について私から。
エテマルシェを終えた高校生の感想
エテマルシェが終わって2日。高校生はどんなことを感じていたのだろうか。まず,授業の入口として高校生に今感じていることを聞いてみた。
ある生徒は「始まる前は売れるかどうか不安だったけど,当日になってたくさんのお客様に来て頂けて楽しかった」と話してくれた。また,別の生徒は「1日目にできなかったことを修正して,2日目にできるようになったことが嬉しかった」ということを。あるいは,この授業で初めて話をすることになった生徒同士が準備段階でもどうコミュニケーションを取ればわからなかったけど,出店する経験を経てやっと話ができたなんてことも語ってくれた。
これまで「働く」経験がなかった高校生にとって,初めて(ホンモノの)お金を使ってお客様に接する機会になったマルシェ。当初は緊張していたけれども,だんだん慣れてきて,出店期間中も「楽しいです!」「この授業に参加してよかった!」とも言ってくれていた。
ある生徒は「なんかまだ不思議な感じです」というコメントをしてくれた。もう何年も使われていなかった店舗に,高校生が息を吹き込んで一時的にでも再生させた。パンを買い求めるおばあさんが列をなし,声をかけていた同級生が楽しそうに服を選び,親子連れが服を買ったあとにコーヒー片手に店を出る光景を自分たちが創り出したこと。一方で,今は制服を着て,いつも通っている学校に来て席についている自分。そのギャップにドギマギしながら,今日を迎えたというのが「不思議な感じ」という言葉に表れたのだろう。
でも,4月に初めて会ったときと顔つきが全然違う。ある男子生徒は「将来は絶対起業したいです」と言っていたし,ある女子生徒ははにかみながら「はい,楽しかったです」と言ってくれた。エテマルシェという小さなイベントかもしれないけれども,高校3年生の夏休みの最後にちょっとした自信と思い出が創れたのだとしたら,それはそれで嬉しい。
ワークシート:起きた事象を時系列でふりかえる
続いて,ワークシートをつかったふりかえり。難しい言葉を使う必要はないし,誰かにシートの内容を見せることもないので,感じたこと,その時に思ったことを書き綴って欲しいと高校生にお願い。最初は怪訝そうな顔をして「難しいよぉ」,「どう書いていいの?」と言いながら,ワークシートに向き合い始めた。
今回使ったワークシートは以下のもの。大学生が行う創業体験プログラムとは基本的に同じ作りにした。
壱岐商業高校でのプログラムは4月からほぼ毎週1回2時限(100分/短縮90分)の授業を行い,企業経営の全般に関して学習するカリキュラムにしてきた。6月頃にエテマルシェの開催が決定,7月はグループを2つに分けてカフェとアパレルの店舗を出店することが決定,夏休みに入った8月に具体的な商品開発やセールスミックスの検討を経て,マルシェ当日を迎えた。
高校生にとっては進路決定の時期とも重なっていたため,相当な負担であったに違いないだろうが,先生方の導きもあって限られた時間の中で準備は滞りなく進められた。そうした1つ1つの心境を今の時点でふりかえって,自分自身の心の変化を目に見えるようにしようというのがこのワークの意図でもある。
約30分,ワークシートに向き合い,自分の心の変化を可視化することで,また高校生の顔つき,話す言葉が変わってきた。マルシェ当日まではおぼろげながら考えていたことが確信に変わる瞬間。そこでハタと自分たちがやってきたことの意味に気づいていく。
ある生徒のふりかえりでは,出店決定の話を聞いてもどこかヒトゴトのような感じだし,そもそもそれまでの授業も理解するので精一杯だった。でも,部活や就職活動が迫ってきて焦りも出てくる。高校生活最後の夏休みで遊びたい気持ちもあるし,なかなかプログラムに向き合うことができなかった。8月に入って商品開発が始まり,コミュニケーションを取るようになり,企画が具体化していくプロセスが見えて楽しくなってきた。そして,当日。最初は不安だったが,実際に売れていく様子見て少し自信に。発生したミスも工夫でリカバリ。2日目も初日に出た課題の解決,来店客数が若干減少した焦りもあった。そして,授業当日には「何か面白いことやったんだなぁ」という余韻に浸っている。そんなことを書いてくれた。
グループでの対話
10分休みを挟んで,続いてワークシートをもとに自分がどんなことを感じたのかを言葉として発する=対話へ。ここから大学生や同席してくださっていたパンプラスの大久保さんもグループワークに入って1人1人の話に耳を傾ける。1人1分。話をまとめるのは難しいだろうが,話してみよう。自分の気持ちに素直になって,ポジティブな感情もネガティブなことも話してみることで何かに気づけるかもしれないと伝えつつ。
それぞれの場面でそれぞれがどのように考えていたのか。その時の経験を共有していても,その時に互いに心のなかで何を考えていたのかはわからなかった。同じ景色を見ていても,考えていることは同じかもしれないし,異なるかもしれない。他者の話を聞きながら,自分はどう感じていたのか。自分が発言をしながら,他者はどんな顔をしているのか。短い1分でもそれぞれがそれぞれを語る,聞くという交換がさらなる気づきをもたらしてくれる。
続いて,それぞれのコメントを聞いてどう感じたのかを表明する時間に。それぞれの話を聞いて感じたことに対してディスカッションしていく。互いに同意,あるいは意見が異なるところがありつつも,その時の行動の意図を改めて開陳することで,互いの理解が深まっていく感覚だろうか。
ふりかえりそのものの課題
いよいよ授業も終わり。私から少しだけコメントさせてもらった。
今回のふりかえりはイベント当日のことが中心だった。けど,ワークシートは6月から始まっている。ここには意図があると。
そもそも,このプログラムは4月から授業が始まっていて,アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス,経営理念,経営戦略,マーケティング,損益分岐点分析,マネジメント・コントロールについて学生が授業をしてきた。このことが当日の店舗運営とどうつながっているんだろうか。
特にみんなは窓に自分たちの想いを書いてくれて,なぜこの取り組みを勝本浦で行うのかについてよく理解している。理念を実現するために,今自分はここで活動しているんだと。
確かに当日実際に運営してみて課題はたくさん出たし,その課題は日々経営をしていく中では毎日改善してクリアしていくべきものであることは間違いない。が,プログラムはカリキュラムがあって,それに従ってここまでの活動も行われてきたはず。だから,改めてプログラムに則ってふりかえりを深めていきましょうと。
正直,高校生にとっては厳しい要求だと思う。イベントが終わったばかりでホッとしている中で,さらに考えを深めてみようと言うのだから。それに対して私はこんなことを話した。「社会人になったらこんなに時間をかけて自分をふりかえる時間を持てない。日々の仕事や家事に追われて,気づいたら1日が終わっていた,1ヶ月が終わっていたってことばかり。その時に自分でふりかえりをして,自分の行動をふりかえることができるって大事なことだよ」と。
今回の授業は高校生の様子を見ながら,大学生がここまでの過程をふりかえることも意図していた。高校生が何を思い,どうして行動していたのかを読み取ることで,改めて自分たちの授業が彼・彼女たちにどのような影響を及ぼしていたのかを知ることができる。大学生はいったいどのように感じたのだろうか。それは来週以降の授業できっと見えてくるのだろう。
エテマルシェ後の島の反応
こうして授業を終えた後,今回のマルシェのお礼に再び勝本浦を訪ねた。勝本浦にある公民館に足を運び,まちづくり協議会のSさんにご挨拶をしに。そこは今回のエテマルシェの会場の向かいにある。
2日ぶりに訪れたその場所は,まるで何事もなかったかのように静まり返っていた。初めて訪れた時と変わったことと言えば,掃除をした結果,窓が綺麗になったことくらい(とは言い過ぎだが)。
Sさんからは今回の出店に関する反応を伺った。近所に住むお年寄りがパンを買い求めて朝から行列していたこと,その人たちが洋服が欲しいと思っていたこと,「勝本でもなにかできる」と前向きな意欲を示している人がいること,流行り病の上,地域の皆さんはイベントに飢えていたことなど,いろいろと話してくださった。
その後,宿に戻る道すがら,パンプラスが入ったスーパーに向かってパンを買い求めに。すると,お店がこんなことに(驚)。
スーパーの企画「野菜(831)の日」にかけて,企画販売を行ってくださっている。当日,高校生と共同開発された「半熟卵入りカレーパン」と4種類の「絶品ランチロール」が店頭の最も目立つところに置かれていた。いや,嬉しい。テンション上がってしまった。
こうなると気になって仕方がない私は夕方にも再び店舗を訪問。朝は開店間際ですべての商品が並んでいたわけではなかったが,夕方に行くと品目はすべて並んでいた上に,確実に売れているのがわかる。これまたテンションが上ってしまった…。
こうして高校生や地元企業のご協力を頂いて終わった「壱岐エテマルシェ」は有形無形の何かを残すことができたようだ。こんな未来になったらいいなと思っていたことが,もうここにある。本当にみなさんに感謝である。
こうなるとまた何かできればと思うのだけれども,事業は継続することが難しい。1回はパワーをかければできるけれども,複数回やるにはさらに違う力が必要になる。今は一区切りで終わった余韻に浸っていて感傷的になっている部分もあるが,果たしてまたできるのだろうか。また行ったときにはどんな景色が広がるのだろうか。
高校生に対してふりかえりの授業をやったように,今回の「壱岐エテマルシェ」から得られた学びはなんだったのだろうか。私の中ではまだまだふりかえりが続きそうである。
最後に改めてエテマルシェにご協力頂いた皆様に御礼を申し上げます。本当に,本当にありがとうございました。