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地域経済の未来をどう見通すか:枕崎・小林訪問記①

これまでも述べてきたと思うが,ここ最近,地方都市を闇雲に回っているわけではなく,それなりに狙いを持って回っている。

人口5万人程度で,地域に基幹産業があるものの,高等教育機関(大学,短大,専門学校)がなく,経済の担い手が減少している地方都市をターゲットにしている。こうした都市には18-22歳がほとんどいない。しかも,彼らの大半は戻って来ない。

そこで大学生がなにか事業を行うことで,(1)進路に直面する高校生に対してロールモデルとなること,(2)社会人に対して「雇われる働き方」だけでなく自ら何かを生み出す働き方を提案すること,の2点を働きかけようという狙いを持っている。これは単に地方を盛り上げようとかいう話ではなく,1人あたり付加価値を最大化する装置をいかに構築するかが重要だからである。

某市のようにIT企業を誘致することで出身者だけでなく,IJターンを希望する人に働く場所を提供することができれば良いが,どこでもそれはできるモデルではない。小さな創業で良い。戻る場所を作る。

そのためには障害になる仕事を創る必要がある。いや,自分で創れる環境を創る。さまざまな仕事をしながら,生活を維持できるようにするだけで,「働く」ことへの意識が変わるはずだ。実際にそういう働き方をしている人は各地に多くいる。それを形にして,目に見えるようにしようということだ。そのため,企業家教育を基軸に地域との関わりを持つ。これが今の自分にとっての重要な仕事と言える。

前回の長崎県島原市を訪問した弾丸ツアーの記事でも同じことを冒頭に書いた。

が,このときと比較するとCOVID-19の状況が宜しく無くなってしまった。この8月も福岡に緊急事態宣言が発令されただけでなく、新型コロナウィルスの感染状況が悪化し、この夏も合宿を諦めざるを得なくなった。

それでも創業体験プログラムやその後の私自身のスケジュールを勘案した時、このタイミングでしか訪問することができないため、(ワクチンも2回接種済みで感染や移してしまうリスクが低いと判断して先方の同意を得て)訪問することにした。

今回のツアーは次のようなスケジュールであった。

8月25日 福岡→枕崎→鹿児島
8月26日 鹿児島→小林
8月27日 終日小林
8月28日 小林→宮崎(青島)
8月29日 宮崎(青島)→日南→福岡

ここでは初日の枕崎と鹿児島での経営者との語らいを中心にふりかえることにしよう。

地域経済に貢献するということ:新規創業からまもなく20年を経過して

今回のツアーでの最初の訪問地は鹿児島県枕崎市。スケジュールを見ると3月10日以来の訪問。訪れたのはD.C.T.という企業。ホームページによればDreams Come Trueの略だそうだ。

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前回訪問時はまだ建屋だけだったが,完成して営業を開始。

経営者は下竹重則さん。枕崎で生まれ育った下竹さんは,創業から来年で20周年を迎えられる同社を1から立ち上げられた。下竹さんの枕崎に賭ける想いはこちらに述べられているので,ぜひお読みください。

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残念ながら合宿はできなかったけれども,会社の玄関にはこのような看板を掲げて頂いた。素晴らしい。

下竹さんとのご縁は昨年から今年にかけて私も参加していた九州移住ドラフト会議2020-2021によるもの。以前も書いたように,私自身は下関市に1位指名を頂きましたが,下竹さんは相当悔しかったようで(私を2位で指名したかったそうで),その話を聞いたこともあって3月に訪問した。

移住ドラフト会議に指名された当時の私の心境についての記事は下記のリンクをどうぞ。

オフィスが入っている2階はこんな感じ。建物内なのにテントが設置されていたりする。

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下竹さんはキャンプ好きということもあり,かねてからスノーピークのファンだったそう。熊本県人吉市に同社のキャンプ用品を使ったコワーキングスペースであるosoto人吉ができたことを聞きつけた下竹さんは同社に突撃電話。あれよあれよと話が進んで枕崎にもosotoができたとのこと。

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「枕崎にコワーキングスペースなんて流行らない」と周りからも言われたそうだが,いざ作ってみれば青年会議所のメンバーが集ってミーティングをしたり,地域の皆さんに利用してもらったりと人が集まる場所になったとのこと。このホワイトボードはosoto内に設置されたものですが,まさにそのような状況になっている。

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ランチは近くの居酒屋でカツオのたたきを頂いた。食事をしながら会社創業から現在に至るまでのビジネスについて伺った。

そもそも枕崎の農家の出身だった下竹さん。少子高齢化が進む地元の枕崎をビジネスでなんとかしたいと創業。当初は当時ようやく家庭にも定着し始めたインターネット回線の設置サポートから始め,その後大手携帯電話会社の販売代理店,遠隔地で資格試験が不便なこともあるのでオンラインで受験可能な資格試験会場の設置(いわゆるCBT),そしてふるさと納税の代行業務と,少しずつ時間をかけて事業を育ててきたとのこと。

現在では廃校を活用したドローン・パイロットの養成学校も営まれているそうで,他地域からもふるさと納税の代行やCBT試験の受託などを依頼されているそう。都心にいては気づかない地域の需要というものを汲み取りながらの経営が行われてきたと言えるのだろうか。

事業展開の歴史はこちらから。

食事を終えてオフィスに戻る道すがら,ある1つの店舗が目に入った。

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すでに閉まっている自転車屋だが,なんとここがDCTの創業の地。奥様のご実家の倉庫を借りての創業。まさにガレージでの創業。そこから20年近い時間をかけての今がある。短い時間であったが,起業家とはいかなるものかを学ぶことができた時間になった。

まさにDreams Come Trueである。

なお,この日の宿泊地である鹿児島に着いてから嬉しい便りが。

本社の向かいにある古民家を改修してカフェやゲストハウスにする計画については伺っていたのだけれども,借り受ける契約が無事決まったとのこと。次に枕崎に訪れた際にはまた一歩事業が進んでそうで楽しみ。

枕崎は薩摩半島の南端に位置するので非常に遠く感じます。私達が福岡から車で向かって5時間,鹿児島市内からでも90分はかかります。ですが,南薩縦貫道が整備されたことで,感覚よりも近く感じます。

ぜひ皆さんも訪れてみてください。osoto枕崎で仕事をしながら,美味しい鰹に舌鼓を打つなんて最高。

鰹節という事業ドメインを外さずに、いかに価値を足していくか:中原水産に見た付加価値創造のヒント

今回の枕崎訪問のもう1つの目的は中原水産の中原晋司さんにお会いすること。

中原さんの存在は以前から知っていたのだけれども,移住ドラフト会議つながり,かつ日南市役所に就職したゼミOGが関わっている中高生向けの起業体験プログラムで投資家をされていたのを拝見して,無理からお繋ぎ頂いた。

中原さんもこの状況下での訪問を快く受け入れて頂き,感謝。なお,中原さんについてはこちらの記事にも紹介されているのでぜひご一読ください。

枕崎と言えば鰹,鰹と言えば枕崎。言わばその本丸的な場所に伺うことができて,実は少し緊張していた。でも,訪問するとさっそくこんな感じに。

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会社に伺ったら早速出汁講座が始まりました

挨拶もそこそこに,中原さん自ら出汁講座を行って頂いた。中原さんはご自身を「出汁男」と名乗って,呼ばれれば各地へ向かい,来客があれば自ら実演し,鉄道好きが講じて閑散路線の指宿枕崎線でイベントを仕掛けたりと,さまざまな取り組みを行われているそう。

鰹節には枯節と荒節と呼ばれる2種類があって,前者はカビ付きの一般的に想起される鰹節のこと,後者はカビをつけない鰹節。下記のリンクから見て頂くとわかるように,とても手がかかる食品。鰹節も出汁も奥が深い。

そんなこともあってか、すぐに鰹節と削り器をふるさと納税でゲット。中原さんのダシパックも購入。

また,腹側と背側で味わいも異なるので,同じ鰹節でも料理の用途に応じて使い分けが必要だというお話。私が無知なだけだけれども,実演を聴きながらずっと「へぇー」「ほー」を連発。

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削りたての鰹節を試食する私

こうした取り組みを行っているのも,鹿児島では家庭に鰹節削り器があるのが当たり前だったけれども,近年はそういうわけにもいかない一方で,「食事」や「食文化」に対する興味を持つ人は世界中にいる=近年ではフランス料理でも出汁が使われたりするケースもあることから,知っている人は知っているということで,時代に合わせた販売戦略を考えているそう。

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中原水産のパンフレット

聞けば,そもそも中原水産は魚の卸売業を祖業とし,祖父の代から続く中小企業。2代目は売買だけでは十分に利得を取れないので鰹節製造や加工業を始め,一時期は従業員60名程度まで拡大したそう。しかし,中原さんが会社を引き継いだ頃になると,食文化の西洋化等に伴う鰹節の需要減少の中で製造を続けていくわけには行かず,壮絶なリストラを経て従業員数を10名程度まで減らし,商品の企画と販売で付加価値をつけて利益を得る戦略に変更した歴史を持つ。

こう書くと,戦略論で言えば「スマイルカーブ」そのもので,最も付加価値が大きく生まれるのは価値連鎖で言うところの企画開発と販売という,まさに外資系大手コンサルティング会社が提案しそうな事業変化のように見える。

先に紹介したインタビュー記事において,中原さんは地域産業を担う中小企業経営者が持つべき視点として2つを挙げている。それは,第1に「時代の潮流も合わせて見ながら、会社としてどういうスタンスを貫くのかを考える」ということであり,第2に「地域の産業をたった一社で再興するのには無理がある。そういう時、どうやって仲間や共感者を見つけていくか。それには地域のいろんな人と会って、本音を聞いて、今みんなが何を考えているのか、発言の真意を“見る”必要があります」ということである。

しかし,言うは易し行うは難しである。直接中原さんに話を聞けば,ここまでの道のりがいかに苦渋の選択であったこと,一度決めたらやり切ること,そして今いる従業員とともに会社をより良くしていくという覚悟が見え隠れする。

中原さん曰く,「選択と集中ではなく,探索と集中だ」と。中小企業だからこそ,自らの経営資源を活用してどこに機会があるかを探索し,一点集中で資源を投下する。そうすることで勝ち筋を創ることができるという意味で私は話を聞いていた。

十把一絡げに「地方の中小企業」と聞いてイメージするネガティブなそれではなく,枕崎の基幹産業である鰹とそこから生まれる出汁に対するプライドのようなものを感じ取れる。また多くの学びを得ることができた。

ファミリービジネスの事業承継をどう語るか

この日はもう1つ重要な予定が。鹿児島に戻ってある女性経営者との対話を行うことに。

お誘い頂いたときに「食事でも」との話だったが,このとき鹿児島市にはいわゆる「まん防」が発令されていて,県独自の対応で20時閉店,アルコールの提供なしに。でも,名山町の隠れ家的(でも有名な)おでん店で短い時間で濃いお話をすることになった。

聞けば,その女性経営者曰く,「今度あるところで講演することになった。事業承継について話をして欲しい。けど,オーディエンスは何を聞きたいのだろうか。一体何を話せばよいのだろうか」ということだった。特に気にされていたのは,「オーディエンスは何を聞きたい」という点。

一般的に事業承継はスムーズに進むことはなかなか無いとされている。こちらの本にも示されているように,事業後継者はジレンマを抱えている。

1つは「事業承継者だから楽をしてて良いよな」という羨望の目線。もう1つは「さぁてどれだけやれるのかな」という懐疑的な目線。当の本人たちがどこまで意識しているのかはあるけれども,きっとオーディエンスはこういう話ではないだろうと。

むしろ「お家騒動的」な(私の表現では「文春的な」)スキャンダラスの話でしょうねというお話をさせてもらった。

その女性経営者は膝を叩いて理解を示して「やっぱりそうなんですかね」という反応を。もちろん全員が全員ではないけれども,少なからずそういう人はいるかもしれないから,虚心坦懐にご自身の考えを「つまらない」と思われても伝えるべきというお話をさせてもらった。

雑感:訪問後2週間を経て感じること

これまで曲がりなりにも中小企業経営者の方々からお話を伺ってきて,事業をどう引き継いでいくかに苦悩しつつ,従業員を路頭に迷わすことができないというプレッシャーに向き合い,より良い経営を目指す様子を見てきた。

そのとき,研究でも教育でも私が中小企業やスタートアップを見つめる目線として「企業家精神」が重要なキーワードとしてある。どうもまだ勘違いされているようで,企業家精神とは,無闇矢鱈に挑戦することではなく,リスクを受け入れ、今を超えるために一歩踏み出す、そのために必要な心のあり方である。そのときに,他者の発する雑音に耳を傾けている暇はない。一心不乱なのである。

地方都市では課題が顕在化していて根本的に仕組みを作り変えなければならない状況にある中で,その担い手となり得る人材は創ろうと思って作れるものではない。が,改めてチャレンジしたいと思った次第。別に大学生とは限らないのだけれども。

少なくとも現時点で言えるのは,次の点であろうか。以下,雑記。

(1)地方には何も無いのではなく,明確な課題がある。その課題は,将来日本国中首都圏以外で起きうる問題である。よって,今この時点で地方の課題に向き合うことは先進的である可能性が高い。
(2)「大切なものは目に見えない」のは都市でも地方でも一緒。余白があることが何も見えないのか,モノやサービス,雑音に紛れて何も見えなくなるのかの違いでしかない。
(3)18-22歳が少ない地方都市において大学生が来ただけで大事件。
(4)時間はかかるかもしれないが,少しずつ浸透して輪が広がる。焦らないこと。
(5)人やモノを物理的に動かすだけでなく,異なる視点をオンラインで乗せて伝えることができる。互いが持つ言葉の齟齬を共通理解できる水準に持っていけば,爆発的に変化をもたらす可能性がある。

今回の枕崎ではまだこれらの動きが萌芽的である印象で,さらに仕込みを必要とするけれども,次の訪問地,宮崎県小林市ではそれなりに形になりそうなところまで進みつつある。

また,すでに学生がBESIDE COFFEE STANDとして出店した大分県日田市では,さらに一歩進んだ形になりつつある。その他のいくつかの地域でも種まきが少しずつ進んでいる。

それぞれの地域で活躍している組織,団体,人とつないで人材を供給する。そういう働き方があることを示す。それだけでも十分な教育効果があるように感じている。

が、まだその先に行きたい。これを推し進めるための協力者が欲しい今日このごろ。あとお金。マネタイズ。仲間づくりとお金集め。どちらも苦手分野なんだよな。頑張る。

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