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事業機会の探索と認識|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業⑤

はい。今回もやって参りました壱岐商業高校とのコラボ授業。先週は中間考査のためにおやすみ。2週間ぶりの授業となりました。

これまで4回の授業の模様はこちらのマガジンで。

前回(第4回)の授業内容は経営理念を作ることでしたが、そこで高校生たちが自分たちの島をどう見ているか、何が課題なのかを俯瞰的に語る姿が素晴らしいと感じました。そこで少しレベルを上げてもいいのではないかと話が出て、第5回の今回は、今年から学生に対して意図的に言っている「事業機会の探索と認識」、そして経営戦略を実行に移すための管理システムであるマネジメント・コントロール・システム(Management Control System:MCS)についての授業を行うことに。

私が授業をするのであれば先に戦略や計画設定の話をするのですが、学生には学生なりの目線があるのだろうと考え、ここはあえてこのままGOとして今日の授業に臨みました。

果たしてどんな授業になったのでしょうか?その様子を今回もレポートします。

事業機会の探索???|既成概念をどう打ち破るか?

1コマ目は「事業機会の探索と認識」がテーマ。そもそも「事業機会の探索」が非常に難しい。事業はわかるにしても「機会?」「探索?」となるのが普通だろう。そこで学生がまず説明したのが下の図。

細かい言葉の選択が課題かな。

今の時点で課題になっていることを解決するにはいくらでも方法がある。事業はその課題を解決する、あるいは解決方法を提供するモノやサービスを提供する方法であり、手段と言えるだろう。では、事業機会とは?機会ってなんだ?

これを説明するために私が学生に提示し、学生が高校生に使った図が下の写真だ。

ふざけてるが真剣です(笑)

恐らく多くの学生が陥るのは、新規事業の立案をするためにすぐにアイデアを出そうとすること。そしてそのアイデアがすぐに商品化に至ると考えがち。今ある事業を別の場所でやる、勝ち筋が見えている事業ならそれでいいのかもしれない。

しかし、実際はそんな簡単ではない。「事業機会の探索と認識」ってこういうことだろう。

ネコのアントレプレニャーが既存の餌に不満を持っている。今までとは違うアプローチが必要。そこでインタビューや観察を繰り返して課題を発見する。顧客は食感が硬いし、味も単調、簡単に食べられておいしいものが欲しいと考えているようだ。そういうモノにどれだけニーズがあるのか。どうすれば勝ち筋が見えるのか。その試行錯誤の先に見えた勝ち筋が「事業機会の探索と認識」だと。

要するに「なぜ?」「どうやって?」「何を?」がストーリーとして構成できた時、そこに事業機会が見えたことになるのだろう。センスメイキングと言うべきか。

表現に間違えはあるにしても、十分に抽象度の高い概念を扱っているのだから、まずは大きく的に当てる感じで説明してみる。

が、今日のポイントはここから。こういう説明をして、果たして高校生がワークに落とせるか。

いざグループワークを始めてみても,大学生がうまくサポートしきれない。大学生も「事業機会の探索と認識」が十分に言語化できるほどに理解が進んでいるわけでもなさそうだ。ここは私の責任。

高校生が議論した模造紙をもとに何をどう考えたかをプレゼンしてもらった。

前回高校生からはゲストハウスと洋服店というアイデアが出てきた。なぜかという理由も示してくれた。自分たちが好きな壱岐の島を守っていくためには壱岐に関わる人を増やしていきたい。少子高齢化,空き家問題がクローズアップされて,自分たちの身の回りでも当たり前にそうした現象が見える。だから、それが課題で解決したいと。

確かに人口を調べると,2006年から2018年の12年間に17%の減少,生産年齢人口に至っては25%の減少。12年間で働き手の4人に1人がいなくなっている計算。そうした急激な減少に向き合いながら,島の未来をどう考えていけば良いのか,その問いの大きさも見えてくる。

画面に模造紙を写して丁寧に自分たちの議論のプロセスを話してくれる高校生。

が、そこからもう一段深掘りしていくと、話がだんだん噛み合わなくなっていく。「人が集まれば良い」から深堀りをすると,定住人口を増やすという話になり,どうやって定住人口を増やすかと言えば「壱岐に来てもらう観光が重要」という話になる。観光で訪れる人を増やすには「何か施設を作れば良い」という話になり,あとはグルグルと話が回りだす。同じところをぐーるぐる。

自分たちの身近な事象と壱岐全体をどうしていくかという話は,実は彼らの中では何となく見えているようなんだけれども,細かく1つ1つを検証していくという作業までには至っていない。そこをもう少し粒度を上げて,彼らが壱岐で心の底からチャレンジしたいと思える機会をどう創出していくか

彼らの芯を大事にしながら,見方を変えて解像度を高めるだけできっと爆発的に面白い何かが生まれるような気がする。学生とともにトライするべきことが何かを確認できたという意味で非常に重要な時間になった。

腑に落ちた概念は理解が早い

2コマ目はMCSについて。

大学生は春休みに提示される課題テキストに従って,新ゼミ生(2年生)を迎えるためのオープンゼミや他の学校でも話をしてきているので理解が進んでいる。しかも,自分自身が過去に対象となって,あるいは自分自身が2年生を対象にワークを行ったように,高校生をリードしていくのだから,1コマ目のそれに比べれば難しくはない。

もちろん,高校生にどんなケースでMCSの理解を促すのか,自分たちの日頃の生活に落とし込むのかという問題はあるが,高校生も大学生も難なくこなしたような印象。

今日の授業の様子

誰でもそうなんだが,大学で学ぶような知識・理論でも(換骨奪胎しないようにするさじ加減が難しいのだが),ある程度概念的に理解が進んでいれば高校生にも伝わる。そして,高校生がその学んだ概念を用いて自分自身の身の回りのことを説明できるようになる。

後半45分は拍子抜けするくらいに順調に授業が進んだ。こうして第5回授業は終了した。

ふりかえり|再び事業機会の探索

このように,今回の授業は1コマ目と2コマ目では全く難易度も深度も異なる授業になった。授業には①教育者が学習者に理論を説明してその理解を促すというアプローチと,②理論を用いて実践的に活用するアプローチがあり得る。内容によってその使い分けをすることが肝要だが,今日はその長所・短所が如実に出たと言えそう。

今年に入り福岡女子商業高校(女子商)で月1回商業科の先生方の研修講師を務めているが,そこでは技能教育と実践教育をいかに組み合わせることで教育目標を実現するかについてを議論している。技能を習得した証として「資格」というわかりやすい成果を取得しつつ,その技能が使われる場面への理解と正しい用い方を学習するリテラシー教育をどう組み合わせるかは悩ましい。その効果の実証も難しいし,日本国内において会計教育で高校生を対象にした研究成果は(私の勉強不足もあるが)見たことがない。

が,学習指導要領には広く深い学習を行うアプローチとして経験学習=アクティブ・ラーニングの導入が求められており,「課題研究」の授業においてわたしたちが取り組んでいるような実践的授業が行われている。

高校生の話を聞いて大学生に示した木曜日の授業内容

そうした議論とシンクロさせながら、学生とのふりかえりに臨む。そこでは1コマ目の高校生たちの様子を見て,26日(木曜日)の現地での訪問授業で取り組むべき内容について議論が行われた。大学生とは言え、教育者としてどのようにアプローチできるか。今回はあえてモヤモヤを残しつつ、少し寝かせることで木曜日に回収しようという作戦を採ることにした。

参加している学生の誰もが高校生の持つ可能性を信じているし,彼らにどのような機会を提供して,どのような学びを提供すれば良いのかを真剣に考えてくれている。ただ,高校生たちが置かれている現状を鑑みると,まだ表面的な理解に留まっており,自分たちがやりたいと思ったことが現実的に実行可能であるとも思えていないだろうし,当然実行可能なレベルの水準になっていない。無理くりチャレンジさせるというわけではない。どうチャレンジできる機会へ結びつけるかがわたしたちがなすべきことだという確認ができたと言えるのかもしれない。

気づけばふりかえりだけで1時間。次回以降の授業では理論・知識への理解を深める授業内容を進めつつ,高校生が自身の力で壱岐の課題,ギャップ,事業機会を認識できるような授業をいかに構築するかが課題として表れた。

原点に立ち返って|次回授業に向けて

さて,次回授業は木曜日。私の他に学生3名を連れて現地に向かう。50分間の授業で何を伝えるか。私がこのプロジェクトをやっている理由は決まっている。なので,それをまたお話するつもり。

地方都市で高大連携を進める理由。それは,実業高校での授業を行うことで,直接的に将来地域経済の担い手となる人材に対して,企業活動の肝は価値の創造=(会計学的には)付加価値の創造だと伝えることにある。企業活動が継続するには資本が必要。その資本を供給する機関が必要。さらに言えば、自律的にそれを行うには利益があれば良い。自ら利益を生み出し,再投資できるようになれば,少しずつ事業は大きくなり,多くの人に価値を分配できる。

そのための第一歩としてアントレプレナーシップがある。起業をしろと言いたいのではない。いかなる方法を選択するにせよ、自己決定的に自分の未来を築く思考を作る糸口として考えている。起業を目的としない、広いリテラシーとしてのアントレプレナーシップ教育。

価値を生み出す行為は自分だけでない,周りの人を幸せにする可能性がある。それが地域や街の存続可能性を高めるかもしれない。

それを高校生に理解してもらうことで,どこでどのような働き方をしても目的がブレないだろうと考えている。

そこで日田で行ったように,壱岐の域内総生産と生産年齢人口を調べ,どのような推移を示しているのかを改めて調べてみた。すると,日田と全く同じような現象が起きている。つまり,域内総生産は2006年と2018年を比較すると2012年をボトムに回復基調にあるが,2006年水準にはわずかに戻りきれていない。しかし,(上で述べたように)それ以上のスピードで生産年齢人口が急激に減少している。

つまり,分子の域内総生産よりも生産年齢人口の減少スピードがはるかにはやいがために,生産年齢1人あたりの域内総生産(付加価値)は20万円ほど増えているように見える。福岡市が同時期に人口が増えているが,生産年齢人口1人あたりの域内総生産が10万円ほど減少しているのとは違う。壱岐はそういう意味で健闘をしている。

ただ,生み出された価値が彼らの手元に戻らない。流出が止まらない結果,その価値は生産年齢人口以外(主として65歳以上の高齢者)に振り分けられているのだろう。1人の社会人が自分と1人の高齢者や子どもの生活を支えている。これが現状だ。なかなかにして厳しい。

だから,高校生が表面的に見ている,あるいは実体験として感じている感覚をより現実的に見せるために金勘定の話をする。そして,いかにここで価値を創出するか,知恵を振り絞ってみる。結果,それが壱岐から離れるという答えもあるかもしれない。

高校生をここまでたどり着けるように導くことは極めて難しいことは認識している。が,惰性的にそれっぽい理論や知識を教えるのではない。ジブンゴトとして大学生と高校生がともに試行錯誤しながら,答えらしき答えを探る行為が多くの学びをもたらす。その様子は見ていて微笑ましい。今回の1コマ目の授業がとても難易度の高い内容であったからこそ,どうすればさらに高校生に対してこの学びの機会をより良くできるのかを考えることができた。

明るい未来を感じさせる時間になった。我田引水的だけれども。

余談

今日の授業中にこんなリリースが発表されました。

武雄で始まったTANEMAKIプロジェクト。島原や飯塚,延岡でこの間もPOP UP出店を継続して行われてきました。このプロジェクトには学生がプレイヤーとして参加していて,飯塚での活動では中心的な役割を果たしていました。

そして,今回,ついに飯塚での常設店舗設置に向けて動き出すことに。試行的に数ヶ月はPOP UP出店を行い,若い人たちとのワークショップを行いながら,地域に根ざす活動を始めるそうです。

現在,壱岐商業高校でも,高校生からファッションを楽しみたくても場所がない,オンラインで買い物してもサイズが合わないことがあるという彼らにとって大きな課題が提起されています。いずれ可能であれば壱岐での出店が叶うと良いのですが。

その前になされるべきことは,高校生が「なぜ」を明らかにし,どこに「事業機会」があるのかを自らの言葉で説明できるようになること。押し着せにできるからやるのではなく,彼らが彼らの意思で行動でその機会を獲得することをサポートしていくことですね。

さあ,木曜日が楽しみになってきた。初めて高校生と直接会える。どんな生徒なんだろうか。

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