大事だと理解しているからこその悔しさ|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業①
2022年度が慌ただしくスタートした。昨年も4月は対面で同じように慌ただしかった記憶があるが、今年は年度初めから飛ばし気味のスケジュール満載。
これまでも何度か書いてきたかと思うが、いよいよ本日(4/12)から壱岐商業高校とのコラボ授業が始まった。当ゼミにとっては、福岡女子商業高校(以下、女子商)、日田三隈高校(大分県)に続く3校目のコラボ。これまでと決定的に違うのは遠隔で行うということだ。果たしてどうなっていくのか。その記念すべき第1回の軌跡を記しておこう。
授業実施に至る背景:「課題研究」の新たなコンテンツとして
そもそも壱岐商業高校とのつながりは本学OBからの紹介で、現在は壱岐市を拠点に教育や地域活性化をテーマに活動されている市の外郭団体職員のMoさんとの話から始まった。
壱岐は長崎県だけれども福岡に近いことから(高速船で1時間)、経済圏としては完全に福岡に入っている。何より壱岐は魅力溢れる島だ。海の幸もあれば和牛も麦焼酎もある。うまくブランディングをしていけば、第1次産業を中心に魅力的な島づくりができる(はず)。
しかし,他の離島と同様に,就職,進学で大半が島外に出てしまうこともあり、いかにして労働力の確保、若手人材に興味のある仕事を作っていくかを課題だと。
つまり,海を挟んでいるものの、大分県日田市と状況が大きく変わるわけではないということ。これまで取り組んできた「人口5万人未満で高等教育機関を持たない地方都市」に合致する場所である。
そういう背景を共有した上で,ゼミでこれまで実施してきた地域との関わりについてお話をし,島内にある2校のうち,実業高校であり,就職,専門学校などへの進学がある壱岐商業高校とのコラボ事業の実施が決まった。
同校では後で紹介するように、「課題研究」の授業で商品開発などの実践的な取り組みをこれまでも進めてきている。6つの内容があり、その中の1つにこの授業が位置付けられることになった。
当然,授業の内容はアントレプレナーシップ。今年1月に2021年度の棚卸しとして作成した教育カリキュラムを実施する。この他にも,福岡県の私立高校1校,佐賀県の私立中学校1校での実施も決まったので,2022年度は全部で5校でアントレプレナーシップ教育を提供することになっている。
ただ,今回の授業はこれまで実施してきたプログラムと違って,新たなチャレンジが求められる。それは離島で遠隔講義をするということだ。
授業が始まるまで
今回の授業が始まるまでに壱岐には2回訪問した。
1回目は1月17日。これは市役所と外郭団体の担当者との顔合わせ的要素が強い訪問。孫ターンで祖父が住む壱岐で創業したパン屋「パンプラス」のオーナー,地元の基幹産業の1つ焼酎のメーカーで島内2番目の規模を持つ「壱岐酒造」,そして壱岐商業高校の3箇所への訪問だった。
2回目は3月22日。壱岐酒造とのプロジェクトをどう進めていくかという打ち合わせと,壱岐商業高校で担当される先生方との顔合わせ。2回の訪問とも時間と予算の関係で日帰りの弾丸ツアーであった。
壱岐商業高校では商業科の先生方をご紹介頂く。高校では以前から地域との連携事業に取り組んでおられ,壱岐の主要な農産物の1つであるアスパラガスを使ったカレー「アッパレカレー」や,島内最大の遺跡「原の辻遺跡」にある人面石を使ったクッキーなどを企画された経緯がある。
また,「アッパレカレー」を福岡市の博多女子高校の学園祭で販売するなど,当該の高校との連携も進めておられたという経緯もあった。
そういうすでに実績のある高校ではあったものの,(他の高校がそうであるように)大学生が高校生のロールモデルとして授業を行うといった取り組みはこれまでなく,しかもそれを遠隔で行うということで,いろいろと先生方も不安に思われていたのではないだろうか。が,学科主任の先生の強力な(?)イニシアティブと市側からの後押しもあってコラボ授業の実施が決まった。
が,話を聞けば女子商のような年5回,日田三隈のような2回の授業+ワークショップではなく,1年間通しのプログラムを提供して欲しいとのこと…。頭を抱えそうになったが,2022年度の女子商コラボのプロジェクトリーダー2名と相談し,ざっと計画を練ったところ,授業は提供できるがリソースが割けるかが問題に。が,ゼミのリソースを活用しながらやれることをやってみようという話になった。
しかも,授業は火曜日の午後に行われるのだが,この日の私のスケジュールがタイト。朝1限(8:40開始)で九州大学の伊都キャンパスに向かい,その後博多駅へ行って新幹線で熊本へ。熊本では5限(16:20開始)の講義があるが,その前にこの授業が行われる。授業は13:30-15:20の2時限。
引き受けた以上は特段の事情がない限りは授業に同席する。時に学校行事で休みになる週があるが,授業期間中はずっとこのスケジュールをこなすことになる。辛い(笑)
いよいよ第1回授業
結局,今回この壱岐商業高校とのプロジェクトに手を挙げてくれたのは4人の3年生。実際に2人は女子商のプロジェクトリーダー。1名は教育系に興味関心を持つ女子学生、最後の1名は出身校の当時の教頭が壱岐商業高校の校長に就任されたということで参加してくれている。
これに女子商とのコラボ授業でクラスリーダーを務めた4年生1名とこの3月に卒業し,過去に同じくクラスリーダーを務めたOB1名の合計6名で本プロジェクトの運営を進めることになった。
授業開始にあたり,オンラインの接続確認,授業の進め方について別途打ち合わせを行った。授業の資料は過去3年の女子商のそれを参考に作成し,事前課題→当日授業というフォーマットで初回授業に臨んだ。
13:30授業開始。授業を行うことになった経緯を3年生男子学生から説明の後,4年生によるファシリテーションで自己紹介。そして,3年生女子学生による共通点探しゲームとアイスブレイクが進む。
しかし,通信環境の問題から,ところどころ音声が途切れたり,用意したスライドがうまく動かない。それが大学側に原因があるのか,高校側に原因があるかわからない。それなりに準備を進めて授業に臨んで,タイムテーブルも作っているのに予定通りに進まないことで焦りも出る。学生の顔が焦燥感でいっぱいに。それを4年生がうまくフォローをしながら,授業が進んでいく。トラブル以外,授業としてはちゃんと成立している。良い良い。
2時限目はいよいよアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスをテーマにした授業。ゼミでは常々話をするテーマであり,どこの学校に行っても大学生が高校生に伝えている内容である。今回は事前動画で概要を伝え,各自ワークシートに取り組んで授業に出席している。
その上でブレイクアウトルームを使ってのグループディスカッションを行う。テーマは昔話『桃太郎』にあるアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスはどのようなものか。2021年度の女子商での授業で用いられていたものだが,果たして壱岐商業の皆さんにはどう見えたのだろうか。
私もブレイクアウトルームに入って高校生の話を聞いていたが,非常に聡明でグループワークも手際よく進めていく。初めての大学生とのコミュニケーションでも物怖じしないし,こちらが想定していた以上のやり取りができる。
もう少しレベル上げてもいいんじゃないか?
そんな手応えを得ることができた。高校生には今回の授業の意図が伝わっていたし,先生方やフォローについてくださった壱岐市役所のMuさん,Moさんも手応えを感じているような印象だった。私自身は極めてポジティブに捉えていた。
それでも学生たちの顔は浮かない。トラブルへの対応をしていたら100分の授業が終わってしまったという顔をしていて,「しまった!」「失敗した!」が最後の〆にも出ていた。これは私自身の反省でもあるが,スタートと締めはゆっくり間をおいてゆっくり話すことを伝えそびれていた。自分が30年近く前に学生ガイドとしてデビューした時に先輩たちに言われたことをここで思い出した。不思議なものである。
教員側の焦りは受講者側にバシバシ伝わる。でも,遠隔だから多少は間引きされる。それがポジティブに機能していたように思うのだけれども,当事者とは見え方が違うんだろうな。
こうして第1回授業が終了した。
ふりかえり:1回の授業を大切にすることを学んだ
終了後,そのままふりかえりをすることにした。私としては学生のフォローをしたかったのだ。が,学生たちは沈んでいた。そりゃそうだ。
学生にコメントを求めれば「準備不足」が口をついて出てくる。が,それは思考停止に陥っている証拠。それを聞いた先輩たちからは厳しい言葉もあった。
タイムテーブル,授業のアジェンダ通り進まない,遠隔であることのリスク勘案,普段使い慣れないTeamsでの授業。
準備をしてきたのに出せなかったのはなぜか。準備不足は準備不足だけど,実はその前のレベルの段階だったのではないか。厳しい指摘だが,それもその通り。
この仕事に就いていると,半期15回の講義がすべてうまく行かないことは理解している。特に新作の授業,講演はたいがいうまく行かない。常々反省ばかり。そして,ライブ授業は取り返しがつかない。だから準備をしっかりやるし,シミュレーションもする。が,それも経験値が貯れば臨機応変に対応することができるようにもなる。100点とは言わなくても,常々80点くらいのパフォーマンスを出したい。私はそう思いながら教壇に立っている。
学生たちが言っているように,今回の授業は確かに「準備不足」ではあるのだけれども,最初っからうまくいくはずはない。逆に全部普通にやれていたら怖いくらいだ。それを彼らは最初っから100点を目指そうとしていた。若さゆえ,経験がないがゆえの高い目標。それだけに悔しさも出る。ある学生はふりかえりをしながら涙を流していた。それだけ1回の授業の大切さが身にしみたのだろう。それで十分彼らは学んだように思う。
ふりかえり終了後,壱岐側ではどんなふうに見えていたのか,コメントが寄せられていた。
掛け値なしで私もそう見えていた。当の学生たちがダメだったと思っていたことは全然そうではなかったのだ。また,次のようなコメントも。
遠隔だから,初回だから起こりうるトラブルが出るだけ出たんだからOKという感覚。学生の生真面目さでプレッシャーになっていたのかもしれないが,本当に彼らはよくやってくれた。これから回数が進めば,どんどんコミュニケーションは良くなるはずだ。良い方向にしか進まない。
26回のうちの1回が終わった。まだまだ授業は序盤戦も序盤戦。次回は2022年度に新たに授業テーマに加えた「チーミング」について話をする。このテーマについては2021年最後のゼミで彼らに話をしただけだ。果たしてどこまで腑に落として理解し,授業として準備できるだろうか。
完全に理解できているとは思えないし,中途半端でも構わない。大事なことは,高校生に完全に理解させることばかりに重きを置くのではなく,自分たちがどこまで理解できていて,どこから理解できていないかを明示的に把握できるようになることだ。
つまり,自分たちの学びの質を確認するくらいで良い。当然ベストパフォーマンスを出して欲しいが,1回の授業で全部話すことができるほどの深い理解はできていない。いくつかの学校で授業をしていきながら理解を深めればよいくらいに考えている。過度に顧客(生徒)志向に陥らず,自分たちの現在地を確認するくらいの気持ち。
なぜなら,このプロジェクトの目的は高校生にアントレプレナーシップを教えることを通じて,大学生がそれが何であるかを学び,考え,実践すること=Learning by Teachingにあるのだから。
それさえ忘れずに独りよがりにならなければ十分。それが大学生という立場の特権であり,間違えても良い,次の機会で取り返せば良いというアントレプレナーシップ的な思考なのだから。
すでに君たちは一歩踏み出す勇気を出してチャレンジしているではないか。
さ,来週はどうなるか。今から楽しみだ。