1学期の学びは実践にいかにつなげることができたのか?|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業⑲
週末の台風、九州在住の皆様はいかがでしたか?
SNSを見ていると友人や知っている人、特に宮崎や鹿児島方面にお住まいの方々に一定程度被害が出ているのを拝見して、何とも言えない気持ちになりました。幸い、福岡に住んでいる私の周りでは大きな被害が出なかったものの、数年に一度こうした被害が起きてしまうことで何かできないかという気持ちは高まっていきます。
さて、今回の記事は壱岐商業高校とのコラボ授業です。通し回数では10回目の授業。実践経験や視察もいれれば、記事は18本目となります。オンラインでもオフラインでも濃密な関係が作れていることもあるからか、今日はこんな話を高校生としてました。
先日大分に仕事で訪問した際にたまたま同じタイミングでオープンキャンパスのために来ていた壱岐商業高校の生徒が私を見かけたのだそう。高校生曰く「先生と目があった気がしたんですけど!」とのことでしたが、朝早かったのと考え事をしてたのもあって私は気づかず。そもそも壱岐の高校生と大分で会うなんて微塵も思ってないし、会ったとしてもめちゃデカい声出してたと思うので、お互いのためによかったのかも。それにしても大分に私がいることに気づくって、私は余程何かのオーラを出しているのでしょうか?何かの縁を勝手に感じてしまっています(笑)。
その大分ではこの取り組み(高大連携によるアントレ教育)についてお話する機会がありました。経営者あるいは起業家向けに講話を行ったのですが、今やっている取り組みをご紹介することでさらにありがたいご相談を頂くことに。どうこれと向き合うか、学生の負担等を考慮しながら次の手を考えなければなりません。ようやくと言って良いのか、アントレ教育が中学・高校に、特に地方での必要性が認識されるようになってきました。ありがたい。
さて、前置きが長くなりましたが、今回の壱岐商業高校での授業、先々週は台風で休校、先週はツナガル株式会社のみなさんによるワークショップだったこともあり、ゼミ生による授業は3週間ぶり。今回は当初行うはずだったふりかえりの続きを行うことにしました。
果たして学生たちはどんな授業を作ってくれたのでしょうか。また、高校生たちはどんな反応をしたのでしょうか。ぜひご一読ください。
なお、これまでの壱岐商業高校でのアーカイブは下記からご覧ください。
1コマ目|経営理念の効用をふりかえる
今日は3週間ぶりの大学生による授業。ツナガルによるワークショップが先週だったなんて信じられない。授業の冒頭、大学生から今回のワークショップの感想を求められると、「難しかった!」、「(ファシリテーターのフランス人)ハレさんの頭の回転が早くてついていくのが大変だった!」など、率直な感想が出てくる。
さて、今回の授業は「壱岐エテマルシェ」の出店とこれまでの授業のふりかえり。前回のふりかえりの中で高校生から「これまでの授業と今回の出店がどうつながっているのかが曖昧」(意訳)というコメントもあり、学生たちは授業テーマは「経営理念」と「マネジメント・コントロール・システム(MCS)」に絞った内容にし、それぞれから見たときに今回の出店機会をどのように位置づけられるのかを考えてみる授業となった。
1コマ目は経営理念に関連したふりかえり。学生の解説は次のとおり。
まず、組織にせよ、人間にせよ、何かしらの目的や目標を定めて活動をしている。これを山登りで例えると、以下のような説明をしてくれた。
こうした考え方は企業経営で言えば、経営理念、戦略、計画をそれぞれどのように立て、連携させ、実行に移して評価できるかということになるだろう。
抽象的で漠然としたイメージを目標として設定しているけれども、それを組織として継続的に具体化して実行するにはどうすれば良いのか。戦略を定め、どこで何をどのようにするかを決め、組織成員が実行できるように計画を紡ぎ出す。まずは1学期に学んだことからの復習的な解説を行った。
これを踏まえた上で、この時間は経営理念と自分たちの行動がどうつながっていたのかを振り返ることに。それぞれのチームに経営理念を作成してもらったが、そこでは経営理念に含まれる4要素が反映されている。すなわち、変化の主体、変化させる要素、変化の対象、変化後の理想だ。これらの発想を補助線に高校生が大学生のサポートを得ながら自分の言葉でありたい姿を表現していった。
まず、カフェチーム(学生運営のポップアップコーヒー店「BESIDE COFFEE STAND」と壱岐のパン店「パンプラス」、コーヒー豆の焙煎を行う「イチノ珈琲焙煎所」のコラボ出店)では、そもそも壱岐における課題として空き家問題を取り上げ、そこにゲストハウスを作って島外の人を呼び込むという提案をしていた。その結果として壱岐に住むすべての人が「住みたいと思える日本一の島」にすることを目的と掲げ、今回は人とのコミュニケーションを創発する場所としてカフェを運営することにした。
次にアパレルチームでは、壱岐にはファッション等に興味が出てくる時期である思春期(中高時代)に自分で服を買いに行く場所がないことを取り上げ、買い物をできる場所を提供することができないかという提案があった。それによって、「島には何もない」と思っていた若い人たちに服を購入できる機会を作り、新たな事業機会を創出しようということで「服着る門には福来たる」を経営理念として掲げた。
そうした経営を思い出しつつ、今回の出店でそれが少しでも実現できたと実感できるシーンがあったかどうか。それを高校生の言葉で振り返ってもらうことにした。
ここでブレイクアウトルームでそれぞれのチームごとに分かれた。私はカフェチームのふりかえりの様子を画面で眺めることにした。
ここで1学期と違う高校生の姿が見えてきた。(明らかに色眼鏡で見ているかもしれないが)高校生がイキイキと発言している。夏休みの出店経験と先週のワークショップの影響もあってか、声の大小はあるものの、自分の意見をハッキリと言えるようになっている。議論の進め方も誰かが一方的に喋るのではなく、さまざまな人の意見を引き寄せながら、リーダーシップを取ってまとめる。また、ブレイクアウトルームを終えてからの話し合いの内容発表でも、それまで発言をあまりしてこなかった生徒が自発的に発言しようとしたり。
こうして生徒たちの変化を目にすることができて、改めて授業をやってきた手応えを感じることができた。
さて、肝心のふりかえりだが、それぞれのチームから次のような見解が示された。
カフェチームでは…
との報告があった。おじさん、何も言えない(笑)
続いてアパレルチームでは次のような報告があった。
理念があったから自分たちは何をしようとしているかが明確だったし、それが実現している手応えのようなものを感じられたから楽しかったという話もあった。
このように、高校生自身の言葉で自分たちがやったことを振り返ることができた。そして、それは自分たちが定めた出店に向けた目的との距離感の確認でもある。大学生や地域の大人たちのサポートを得ながら、高校生自らができたこと。だからこそのリアリティを感じられる話でもあった。
2コマ目|マネジメント・コントロール・システムの考え方を用いて自分たちの活動を評価する
10分間の休憩後、続いて2コマ目はマネジメント・コントロール・システム(MCS:Management Control System)を用いたふりかえり。
MCSは組織目標である経営戦略の実行、経営計画の達成を図るために、組織成員をいかに動機づけるか、その情報提供や管理の仕組みのこと。(少々古い概念で実際には更新されているが)ここでは成果を導くコントロールとして、行動(マニュアル化などで組織成員の行動を制限する)、結果(予算など目標を提示し、その達成方法はある程度組織成員に委ねる)、環境(経営理念や人事制度など、組織成員が目標達成のために行動しやす環境を整備する)の3つが整備される。
ここでは、そうした考え方に基づいて自分たちの行動をふりかえってみようというワーク。大学生(ゼミ生)には2年次で創業体験プログラムのふりかえりを終えたあとに課題図書で読み、改めてこの視点でふりかえりを行うレポートを執筆しているが、高校3年生で果たしてどこまで行けるか。再びブレイクアウトルームに分かれて議論を行うことにした。
今度はアパレルチームに参加。ここでも高校生たちがやいのやいの言いながら議論をしていた。大学生はほとんど介在することなく、高校生だけで議論が進む。例えば、こんな話が出てきた。
よくわかってらっしゃる。さらに言えば、目標管理シート(売上目標をどのアイテムで実現するかを示した書類)があったから「ある程度どう動けば良いかを決めることができた」というより予算管理や目標設定の有効性に言及するような場面もあったし、行動コントロールもゼロではなく、事前指導(接遇教育)があったことである程度指針のようなものができたという報告もあった。
一方、カフェチームは、2つのアイテムでやり方が異なっていたという指摘があった。つまり、カフェでコーヒーの淹れ方が属人的でそれぞれのやり方になっていた可能性があったため、品質の均一化のためにも行動コントロールである程度マニュアル化をした方が良かったのではないかという一方で、パンの販売はアパレル同様に売上目標の達成を軸に置いていたことから結果コントロールが機能していたという話が出た 。
また、双方のチームからは販路拡大を目指すためにも事前告知のやり方をもっと工夫できたのではないかという意見が出た。しかし、若年層をターゲットにしたアパレルと(結果的に )勝本浦地区の住民にも受け入れられたパン(とコーヒー)とでは異なるターゲットを狙うことになるので、果たしてどのように告知をすれば良いのか、何をウリにすれば良いのかを考えなければねという話も出てきた。
あるいは出店場所についても議論があった。今回は高校生と大学生、そしてさまざまなコラボ出店という企画力に加えて、事業機会の探索と認識を立証するためにも「誰もが出店しない」と考えるような勝本浦で出店したが、高校生は壱岐高校の生徒にも来やすくするには郷ノ浦が良いのではないかという話も出てきた。
こうして話は尽きないまま授業時間が終了。45分2コマの90分はあっという間に過ぎ去っていった。
ふりかえり|高校生の実力は確実に伸びている実感があるからこそ次の手をどうする
そんなこんなで手前味噌的ではあるが、2学期に入って高校生たちの会話のレベルが上がったように感じる。大学生もこれまで授業してきた内容とマルシェでの実践を結びつけようと、必死になって授業の構成を考えている。今回の授業でも最後はどう売るか≒マーケティングや販促のような話になっており、次回授業はそこに焦点を当てて議論をしても良いかもねと授業終了後のふりかえりで話題になった。
こうして一度出店することでマーケットがより具体的に見えてくるし、いろんな議論ができるようになる。本当に高校生自身が一歩踏み出したことで、同じ場所が違うように見えてきたのかもしれない。もちろん高校生自身が日々成長しているし、就職が決まり、進学に向けてこれから準備の最終段階に向けて努力をしているからと言うのもあるだろう。
そして、大学生とのふりかえりでは次の手をどうするという議論になった。本来ならばもう一度出店、今度はチームを入れ替えてというところだが、どちらもスケジュールがパンパン。冒頭にも書いたように、ありがたいことにさまざまな場所からのオファーもあり、学生の負担も増加している。無理をしてやり切れると言えばやり切れるが、それが高校生の学びの機会になるのか、ゼミ担当教員としてもゼミ生に負担をかけて良いものかというバランスのせめぎ合いになりそう。
なお、余談になるが、先日カリキュラムを終えた某高校の生徒さんに実施した調査結果によれば、①受講した本人たちの意識として創造性や不確実性への対処ができるようになったという結果が出ているし、②処置群(受講者)と統制群(非受講者)との間にはその他に会計リテラシーや起業意図、起業家的な態度に明確な差が出たことも明らかになっている。統計的な有意性や分析方法の問題はあるが、実務的にはアントレプレナーシップを涵養するためにある程度効果的な教育ができているとは言えそうだ。これから他の高校での調査が進めば、サンプル数の問題がクリアできる可能性もあるので、来年初めにはもう少し精緻な結果を持って教育効果を語ることがでだろう。
ただし、その時に問題になるのは、これだけ大掛かりのことをやっても「効果はこれだけ?」とか、「それでも未来に彼らが帰ってくる保証はない」とか言われそうなことだ。それでも、この取り組みを続けるのは、どうなるかわからないけど未来に可能性を賭けているからだし、地域で学んだ高校生が「自分たちの地元でこういう教育を受けたことが今の進路に繋がってるんだ」と語ってくれる未来を想像しているからだ。だからこそ、壱岐での次の手をどうするかが重要だ。
それと、このカリキュラムをいか形式化するかも重要。今は授業を作りながら研究開発をずっと続けているような状況で、アントレプレナーシップ教育を広く、できる限り少ないコストで各地で実施するには標準化・形式化を図る必要があるだろう。それを提供することさまざな地域に適合的なカリキュラムができるだろうし、「少なくともこういうことを教えておいてください」というものが作れる可能性がある。そうすれば、もっと広くさまざまな地域でアントレプレナーシップ教育が実行できるかもしれないし、その担い手を増やすことができるかもしれない。今や各地でアントレプレナーシップ教育が実施されているが、わたしたちの強みは実践を重ねながら、その効果の検証を学術的なアプローチで実施していることだ。
まるで、スタートアップをやっている気分だ。スピードは遅いけれども。
高校生や大学生とともに未来を構築する仕事ができて本当に楽しい。もっと自分が人に興味を持ってもらえるような言葉で語れれば良いのに。そんなことを考えつつ、今日も良い時間を過ごすことができた。