企業戦略とSTPの検討|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業⑧
早いもので第8回目。今週もやってまいりました壱岐商業高校とのコラボ授業。
8月末に壱岐島北部の勝本での高校生と大学生によるコラボ出店がほぼ決まり,まちづくり協議会(まち協)や勝本朝市のお母様方との連携も含めて進めることになりました。
SPINNSとBESIDEの出店も受け入れて下さるだけでなく,勝本朝市でずっと取り組みたかったけれどもなかなか実現に至らなかった「朝市であさごはん」(仮称)をやりたいと前向きのコメントを頂き,街中を絡めたイベントになるのかも…。明日また壱岐へ行き,まち協会長にご挨拶をすることになりました。
そう言えば,今朝の朝食は先日勝本で購入したアジの開き。普段塩気を控えていることもあって少し塩味強めに感じましたが,とても美味しくいただきました。魚好きの娘氏もバクついていたので間違いない(笑)
さて,今回の授業は,この勝本での出店に向けた具体的な戦略づくりを進めていくための準備として,経営戦略の基本的なお話(競争戦略論の差別化 or コストリーダーシップ)とマーケティングからSTPとペルソナ(難しい!)のワークショップという構成。
これまでの授業の経緯はこちら。
高校生と学生はどんな奮闘をしたのでしょうか?今回も授業の様子を見ていくことにしましょう。
1コマ目:基本的な経営戦略への理解|ドラッグストアによる検討
今回は事前動画で競争戦略について説明をした上で,ケーススタディとしてドラッグストアを取り上げることに。学生のスライド作成技術も上がってきて,安心して見ていられるようになってきた(強いて言えば改行の位置に気を配って欲しい)。
多少,理論の理解間違いもあったりするけど,(講義前の確認の)修正でどうにかできるレベルになっている。大学生の理解度も少しずつ上がってきている実感が。授業も上手です。
ひとしきり理論の説明を終えたあと,グループワークスタート。お題は下記の画像を御覧ください。
壱岐島内には現在3つのドラッグストアが進出している。九州を本拠とするコスモス薬品(ドラッグストア コスモス),ドラッグストア モリ(ナチュラルホールディングス),そして関東発祥のマツモトキヨシ(ココカラファインとの経営統合で売上高合算ではトップ)の3つ。
今回はそれぞれのお店をどのような使い分けをしているのか、どのような商材が置いてあるのかなど、高校生の見たままで感じたことを発表して,同じドラッグストアでも島内で共存できている理由について考えることに。
高校生の声を拾うと…
ということで,ちゃんと使い分けがされているし,高校生もしっかりとその違いが把握できていることが明らかに。そのあと大学生からはさらに解説が入り,数字でもビジネスの進め方が異なるという説明を。
マツモトキヨシは医薬品・化粧品中心で単価も高めなのに対し,コスモスは食品スーパーと見紛うほどの食品類の売上が目立つとデータを示しながらの解説。さらには,ドラッグストアモリは未上場のためデータはないけれども,学生が実際に店舗に足を運んで商品陳列の状況などを説明してデータの不足をうまくフォローする工夫も見られた。
こうして高校生たちは,3社は同じドラッグストアだけれども,売ろうとしている商品群の違い,対象としていそうな顧客の違いがあることが理解できたようだった。また、顧客目線で見ているお店の印象と企業の戦略やマーケティングが一致することを確認しながら進めることで、授業の狙いがしっかりと伝わったようだ。会心のワークショップと言えそう。
恐らくこういうことを考えるのはみんな好きなんだろうなぁ。ここからどう価値を創る活動につなげていくかが課題になりそう。とりあえずよくできました。
2コマ目:攻める市場をどう定める?|出店に向けた顧客の選定
2コマ目はマーケティングに寄せて「攻める市場」をどう定めるかについて。STPのうち,セグメンテーション,ターゲティングについて解説を行い,勝本でのイベント出店ではどういう顧客をターゲットにするかまでを高校生主体で考えるワークショップを行う。
私もマーケティングの基礎を教えていることもあるけれども,STPを感覚的にでも理解できるように説明することって実は難しい。そこを果敢にチャレンジできるのが大学生の強みなのだろうか。例えば,セグメンテーションの説明はこういう形で行われた。
今回のポップアップで言えば,SPINNS(アパレル)とBESIDE(カフェ)×パンプラス(パン屋)の2つを出店するが,それは島外のものを島内に持ってきて売るのか,島内のものを島内で売るのか,あるいは島内のものを島外で売るのかによって対象が異なるでしょうと。
これに関連して,今回ご協力頂く「パンプラス」の大久保さんはあるインタビューで次のように答えておられる。
なので,まずは大きく,島でどのような商材を誰に向けて売るのか,あるいは島外でやるのかを考えてみましょうと。これについてはアパレルは明らかに島内で購入できないので,「島外のものを島内で売る」ビジネスモデルになる。一方で,カフェについては島外→島内なのか、島内→島内なのかで絵の描き方が変わりそうなのでちょっとした仕掛けが必要そうだよねという話を授業後のふりかえりで補足した。
続いてターゲッティングに進む。具体的な顧客の設定だ。ここで普段高校生がどのように過ごしているのかが垣間見えてくる。
例えば,「土日は何をしているの?」と聞けば,「家でゴロゴロか,Youtube見てるか,友達と電話している」とか,「友達の家が遠いから,一緒にどこか行くということはしない」とか,「福岡に行くのは年に3-4回。学校が忙しいから」という回答。
あるいは「放課後に友達とどこか行くとかないの?」と聞けば「ない」と。「芦辺のイオンにモスバーガーあったりするけど」と聞くと,「高校生には高くて行けない」という答えが。つまり,そもそも高校生のたまり場的なお店もなければ,彼らが外に出て友達と好きなこと(アイドルやゲームなど)について語り合う場所もないということだ。
島内でどこかに行こうと思えば必ず車が必要になるし,高校生同士で何かをして「遊ぶ」ことが難しい場所だということを改めて認識させられた。服を買うにも芦辺のイオンには年齢層が高い方向けか、小中学生向けがほとんど。高校生がそこで服を買うことはないという。そもそも新型コロナウィルスの影響で自由に外に出られないということもあるのだろうが,誰をターゲットにしていくかという話の中で高校生の日々の生活の様子を聞けたことはとても良い時間になったし、店舗をどう作るかのヒントを得られた(はず)。
ワークの中では具体的なターゲット設定のために大学生はペルソナを検討することを高校生に求めていた。当初は「ちょっと難しいかもね」とか思っていたのだけれども,学生から高校生に対して「どんな人かを考えるのが難しかったら,自分がお客さんだったらどうしたいかを考えたら良いよ」という促しがあることで,ワークが順調に進んだ。
自分起点で一旦考えて、グループ内ですり合わせる。抽象から具体に行くのではなく,彼らの足元から考えてもらって抽象に飛ばす方が考えやすいのかもしれない。こういうワークを学生が仕掛けてくれることで気づきをもたらしてくれるのも,本プログラムの良いところだ。私も学びになる。
それにしてもだ。今回の授業で明らかになったのは,高校生が高校生のために単にイベントをやるだけでは来客が十分に見込めない印象を受けた。
つまり,外に出て友達とお茶をする,洋服を買いに行くという生活習慣がない人たちにとって,それは島外でやるもので島内でやるものではないという意識が強いのかもしれない。それをどうすれば「行きたい」「行ってみたい」という期待を生み出すようなコンテンツとして提供できるか。ここに大学生の知恵出しが必要になるだろうし,次のステップの課題として現れた。
困難そうに見える課題だけれどこ、明らかに事業機会があると認識できる状況の中であと2ヶ月半どこまで詰め切れるかが楽しみでならない。ピッチ上がりそう。
ふりかえり
以上の通り,今回の授業は戦略論(競争戦略論)とマーケティングの入り口としてのSTPをテーマにした。学生にとっても,高校生にとってもイメージしやすいテーマで,議論も非常に盛り上がった。また,ペルソナ設定を進める中で,高校生の人となりや彼・彼女たちの行動パターンみたいなもの(インサイト?)が掘り出せたことが大きい。なので,授業の満足度は高かったように思う。
が,課題はどんどん積み重なる。特に悩ましいのは,カフェ事業の商品構成をどうするかだ。近くにはよく知られたカフェがある。それだけでなく、壱岐にはさまざまなカフェができている。しかし、そこに高校生は自発的に行くことはしていない(ん?もしかして日田の高校生も同じだったりするのか?)。お茶をしながら話をするのは、友達の家。
一方、こちらのリソースとしても,BESIDEで高校生が好むだろうスターバックスのような商品を開発することは難しい(バイトしている学生はいるが,同じようなことはできない)。それは高校生たちにとっては年に数回福岡で楽しむものでもあるし、壱岐にあってもピンと来ないのだろう。それでいてモスバーガーに行くわけでもない。
「あるからそこに行くわけではない」けど、「イベント楽しそうだから行ってみようか」をいかに創り出すか。要は需要をいかに創り出すか。
高校生が欲していて、行ってみたいと友達同士で誘い合う、あるいは車を運転できる親や兄弟、友人を巻き込む。いずれもできそうだけれども、果たして高校生同士で来やすいお店にするのか,(お財布になる)親と一緒に来る場所にするのかという場の設定が難しそう。が,島原や飯塚で出店したSPINNSがそうであったように,子どもに連れられて親と買い物に来るケースや,親が子供服を求めてお店に来るような事例もある。
こうした事例をこれまで積み重ねてきたのだから,潜在的な顧客を想定する=事業機会の探索と認識を引き続き行って,顧客ニーズに応えられる店舗づくりを進めていくことだろう。それは創業体験プログラムでもやってきたことでもあるし,まさにターゲットの選定であり,彼らが潜在的に何を求めているのか=インサイトを掘り出すということだろう。
今,ゼミのプロジェクトで3年生が取り組んでいることだ。
だから、学生たちが試行錯誤しながら高校生とともに創り出すことができるだろうと期待している。そういう意味では意外と楽観的。
そして,次回授業は損益分岐点分析。大学生も創業体験プログラムがいよいよ始まることを見据えて,高校生に授業をしながら出店に至るプロセスを学べる良い機会。粗利をどう稼ぐか,どういう商品構成をしていくか(セールスミックス)を考えることにもなる。どんどん規模も大きくなっていくし,(今日の授業で得た新たな事実を取り入れられると)さらにできることも増えていきそう。損益分岐点の理解はゼミでの学びの生命線だから,高校生にはもちろん,学生も授業を設計しながら勝本でのイベントを成功に導くアプローチが見えるといいなぁ。
明日の壱岐滞在でさらなる収穫が得られることを期待したい。
余談
以前,ゼミでお世話になっている乗富鉄工所の取材に来られていた「ものづくり新聞」の担当者さんが壱岐ご出身だそうで,今一緒に仕事をしている市役所職員さんや勝本まちづくり協議会の担当者の方と同級生という。
全然つながりが無いようなのに,実はつながっていたということが最近多発していて,世間は狭いというか何というか。ひょんなことから始まった壱岐での活動だけれども,この取り組みを形にするだけでなく,長く愛されるものにしていきたいと改めて思ったのでした。