初めての対面授業|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業⑥
5/26(木)朝8:00。壱岐へ行く時にはいつもこの船だ。7:00に自宅に集合して,タクシーでベイサイドプレイス博多港へ。チケットをゲットして,船に乗る。座席もほぼいつも同じ。もう慣れた景色だ。
壱岐商業高校とのコラボ授業のために壱岐へ渡る。これまで5回の授業はオンラインで進めてきたが,1学期中盤戦のこの時期に現地に伺うことにした。一度対面で授業をすることで生徒との距離感を少しでも縮めることを目的に。
これまでのコラボ授業の内容は下記のリンクをご覧ください。
さて,今回はどんな授業だったのでしょうか。プロジェクトとしてはどのような展望が開けたのでしょうか。見ていくことにしましょう。
初めての対面授業|壱岐商業高校での授業実施
9:10。壱岐は郷ノ浦港に到着。市役所側の担当者と合流して,一路壱岐商業へ向かう。9:40頃到着。9:50から授業。
今回の授業は私が担当。これまで学生がやってきた授業を一旦回収する意味と,なぜこのようなことをやっているのかを付加価値の創造という視点で理解することを目的に。
なので,まずは彼らが勉強している簿記をスタートに利益を生み出すことが企業の存続,拡大(投資の促進)につながり,多くの人に価値を分配できること,付加価値が会計学上どのように計算されるかを説明した上で,労働分配率の概念を話す。それが小規模企業ほど小さくなること,福岡市と長崎県と壱岐市の付加価値額(域内総生産)を比較してわかることを伝えていく。そして,最後に生産年齢人口で割った生産年齢1人あたりの付加価値額を計算し,福岡市も壱岐市も実は上昇していることを示す。
では,なぜ上昇しているのか。それは簡単な話で付加価値額は増えていないが,人口が急激に減少していることが影響している。この12年間で生産年齢人口は25%減少している。生産年齢人口は壱岐市人口の半分しかいない。福岡市は3分の2だ。強烈な人口減少が目の前にある。健闘しているのだ。
前回の記事でも示したように,彼・彼女たちは人口減少,空き家の増加という目に見える現象を取り上げて壱岐の課題を取り上げている。が,彼・彼女たちは福岡に買い物へ行き,好きな洋服やアクティビティを楽しんでもいる。島で稼いだお金はどこで使われるのか,それがどのように循環していくのかを知ることで目に見えていることだけが事実ではないことを学ぶ。
このことが島の持つ課題に対して解像度を高めるとともに,どうすれば壱岐にさらなる付加価値を生み出す事業を作ることができるのか,それが自分たちにとってどのような意義を持つのかを考えてもらう機会になるだろう。
こうした話を35分ほどした後,大学生から前回授業で理解が不十分であったと推定される「事業機会の探索と認識」について改めて説明をした。それまでは小さな画面で見ていたお兄さん・お姉さんがそこで説明をしてくれる。
授業終了後の短い休み時間の間に,学生たちは生徒とコミュニケーションを取ろうとしている。ニックネームを聞いたり,特徴を掴んだり。学生からすれば自分にとって明確な利害があるわけでもないのに,目の前にいる高校生のために何か提供することができないか,一生懸命取り組んでくれていることに本当に感謝したい。
今回,このコラボ企画に参加してくれている高校生は,先に行ったサーベイ調査によれば「将来自分で仕事を形にしたい」「創造的な仕事をしたい」と回答している。現状に満足せずにチャレンジしたいと思っている。
そうした高校生にどのような機会を提供できるか。彼・彼女たちの姿を見て,大学生も改めて感じ入ることがあったのでしょう。もしそうだとしたら,今回の機会は素晴らしいものだっと言えるのかもしれない。最後までやり切ろう。何か爪痕を残そう。
出店候補地は当然に現れる|勝本浦への訪問
授業終了後,壱岐島最北端の集落,勝本浦を訪ねた。港に面した路地には「うなぎの寝床」的な住宅・商店が立ち並ぶ。ここは6年前の合宿でウニ丼を食べるために訪問した場所。それ以来の訪問だった。
勝本浦は港町ということもあり,朝市が開かれている。この日も近くの施設ではお母様たちがお店を並べている。地場で採れた魚を加工して販売している。アジの開きが3尾で300円。娘氏のおみやげに2つ買い求めた。
今回は市役所側に調整をして頂き,勝本浦まちづくり協議会の坂本さんにご案内頂いた。車を止めて早速1つの物件が目に入る。
駐車場の横にある青とピンクの建物。聞けばかつては海産物を売る商店があったそうだ。しかし今は空き店舗となり,スペースの半分を商工会の会議室に,残りは使われずにいるそうだ。ただ,頻繁にポスターのようなものが貼られているようで,セロハンテープの跡がたくさん見える。
ただ,スペース的にはちょうど良い。これまで取り組んできたカフェBESIDEも出店できるだろうし,飯塚でのSPINNS出店でお借りした店舗にもサイズが似ている。好感触。
そして,街を歩く。風情がある。昭和の建物,平成の建物,そしてリノベーションして昔ながらの雰囲気に合わせた建物。
話を聞けば,ここはかつてクジラ漁で栄えたそうだ。その漁に携わっていた人々を「鯨組」と呼んでいたそうだが、その名残りで往時を偲ばせる立派な建物が建ち並ぶ。
また,江戸時代には朝鮮通信使が立ち寄る港で壱岐を治めていた平戸藩が接待を行う場所だったという。道路は車がようやくすれ違うほどの幅にひしめき合うように家が並ぶが、どの家も立派で驚かされる。
そうした中で勝本浦のシンボリックな建物が目に入ってくる。
1つは3階建てのゲストハウス「LAMP壱岐」。たまたまここの管理人をされている方がおられてご挨拶ができた。LAMPと言えば、本学OBの某氏が長野県小布施町に着任していた頃によく目にした。壱岐にできたのだから一度は泊まってみたいが、いかんせんイビキがうるさくて仕方ない私には難しそう。
もう1つは壱岐のクラフトビールを製造する「アイランド・ブリュワリー」だ。ここは壱岐の蔵酒造の前社長が初めてそうで、最近ジワジワ来ているスポット。ゲストハウスとブリュワリーが斜向かいにあって、このブリュワリーの向かいにはLAMP運営のレストランがある。この一角だけ雰囲気がまた違う。
さらには海の物産を扱っていた古民家を改修し、店舗名はそのままにしたハンバーガー店もあった。このように、小さな集落に古くから残る商家を改装した店舗が複数ある。
協議会の方(私とほぼ同い年)によれば、道が綺麗に舗装されたりはあるけど、本当に古くからある民家が丁寧に維持されていて、ここを離れて暮らしている人でも家を守っている人がいるとのこと。また、今では芦辺や郷ノ浦といった福岡寄りの港に船が寄港することもあって,多くの建物・商店がある。しかし,ここにはスーパーすら無い。かつては福岡からの船を港に止めようという話もあったそうだが,漁師たちの反対があったそうだ。
ひっそりとしている港町ではあるけれども,きっと可能性を感じている人がたくさんいるのかもしれない。歴史的な経緯と壱岐商業高校からの距離の近さも踏まえれば「ここで出店するのが面白いかもな」と感じながら,街を離れることにした。
ランチタイムは芦辺浦で|ようやくチリトリ自由食堂へ
続いてランチタイムは芦辺浦へ。当初の予定では勝本浦で「大久保本店」のハンバーガーを食べるということだったが,残念ながら本日はおやすみ。ということで,次のミーティング場所に向かう道すがらにある芦辺浦のチリトリ自由食堂に向かった。
SNSでちょいちょい見かけるこちらのお店。ランチに美味しいカレーを食べてエネルギーチャージをしようということもあり,大盛りで辛口のこちらのカレーを頂いた。
お店には昼時ということもあって,多くの人が訪ねてくる。ひっきりになしに人が出たり入ったり。海が好きで島に住みついた,あるいは島を訪ねたのであろう雰囲気の人が吸い寄せられるように集まる。勝本浦のLAMPなどのお店もそうなのだろうが,そこに長年住み続けている人だけでは出てこない発想できっとお店が運営されているのだろうし,それは島を一旦離れたからこそ見える景色なのかもしれないとか思いつつ,出てきたカレーを頂いた。
そして,写真を取り忘れたのだが,焼酎コップに出てくるラッシーも美味だった。
午後はミーティング|次のコラボレーションに向けて
午後からは島中央部にあるテレワークセンターで某社との打ち合わせに参加。詳細は書くことができないが,会社の変革プロセスのお手伝い。こちらも大変勉強になった。
その間,学生たちは壱岐島内と福岡県那珂川市,京都市でパン店を営むパンプラスさんを訪問。私も1月にお尋ねして経営者とお話をした。とても情熱的な方で,ご本人は福岡都市圏出身でありながら,お祖父様の面倒を見るために先祖代々が住む壱岐にIターン。就職した製パン会社を退職し,壱岐で新規事業を立ち上げた起業家でもある。ここは壱岐牛カレーパンで著名で,カレーパングランプリ金賞受賞、1日2,440個売れたという伝説的なお店。
1月に訪問した際に「学生のポップアップカフェとのコラボができるようにしましょう」と話していたが,この4ヶ月間は高校とのコラボ授業の立ち上げに奔走するとともに,高校生とのコラボ出店は11月あるいは12月を予定していたためにまだお声がけするタイミングではなかった。が,ここ数回の授業での高校生の進捗を見るに,何か具体的な店舗経営をして,その気づきをその先の学びにつなげ,ふりかえりを行ったところで再度出店する=1年間で2回の出店が見えてきた。
おまけに,昼前の勝本浦での店舗スペースを見て,具体的なイメージが湧いてきたことと,学生たちがぜひ訪問したいという意思を示したところから,いくつかのお願いを託して交渉に当たることになった。
その結果,コラボ出店のメドが立ったようだ。何より経営者がわたしたちとのコラボ企画を今か今かと心待ちにされていたそうだ。ただ,高校生とのコラボにあたって重要な宿題を頂いた。それはこれまでの授業の中で,わたしたちが感じていた点でもあるので,正鵠を射た指摘であるように感じている。今後の授業の中で確実にクリアしなければならない問題であり,そのためにはわたしたちももっと壱岐のことを学ばなければならない。
ミーティング終了後,学生と今後のスケジュールについて議論。1学期中の授業回数,今後予定していた授業内容,壱岐市や学校,地域,出店にご協力頂く関係者にお伝えするべきことを確認して具体的な実行計画まで構築。しかも,このストーリーは彼・彼女らがこれまでのコラボ授業の中で積み上げてきた壱岐でやりたいことのアイデアとシンクロできそうで。まだまだ調整するべきことがあるし,何より高校生がこうした企画をジブンゴトとして受け入れてくださるかどうかがあるのだけれども,また一歩,二歩と歩みを進められたのではないだろうか。
関係者の皆様,いろいろとお手数,ご迷惑をおかけしますが,引き続き宜しくお願いします。
まとめ|エフェクチュエーションを実感?
こうして1つ1つのプログラムがこの数日で固まっていった。なんか点と点がいきなりつながって気持ち悪いくらいキレイなストーリーができあがった。こういうときには気をつけた方が良い。きっとどこかに落とし穴がある。
ただ,こうやって線が見えてくるというのは,アントレプレナーシップ理論で主張されている「エフェクチュエーション」を実感することでもある。持っている限られた資源を使って(手中の鳥(Bird in Hand)の原則),許容可能な損失を見積もりつつ(許容可能な損失(Affordable Loss)の原則),ここまで構築してきた関係性を用いて1つ1つのパーツをつなぎ合わせている(クレイジーキルト(Crazy-Quilt)の原則)。ここから先,不測の事態や思い通りにならないことも多々あるだろうが(レモネード(Lemonade)の原則),それは関係するみなさんと協力しながら未来を見据えて出てくる課題に臨機応変に対応することになるだろう(飛行機の中のパイロット(Pilot-in-the-plane)の原則)。
そろそろ異なるパターンも生み出していきたいところではあるけれども,高大連携プログラムを動かして4年目,実際に学生が外に出て店舗を出す取り組みを始めて2年そこそこでここまで来てるのは奇跡的だ。やっぱり絶対落とし穴があるはずだ(慎重)。
が,1つ1つ積み上げて来ているのだから,絶対に形にしたい。今はご協力頂く皆様と手を取り合いながら何かできることが素晴らしく,心の充実感を得ている。1回目の出店そのものが興行的に成功しようが,失敗に終わろうが,出店機会を2回作ることで1回目の気づきをふりかえり,反映させることもできる。
今日は帰福後,商学部第二部の講義のために大学へ向かったが,学生も今日のうちに詰めておくべきこと,連絡しておくべきことを資料にまとめ,先方に送付するなど,時間を割きながら協力してくれている。また,出店機会の増加に伴い授業内容を組み替えていくことで,彼・彼女たちには負担をかけることになるに違いない。が,こうしたことの積み重ねが良いプログラムを創り上げることになるだろうし,そうしないといけないのだと改めて実感。
というわけで,今回も長い文章になりましたが,充実した1日を過ごすことができました。1時間の旅で見た世界の違いに驚きを得ながら。