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他者の介在を得て自らの気づきを得る:ENdemicプロジェクトの効用|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業⑱

気づけば9月中旬。久しぶりの壱岐は2週間前のマルシェ当時と比較して,明らかに秋の装いを感じさせるものでした。見るもの,見るものは何も変わっていないけど,それを取り巻く空気は確実に時間が進んでいることを教えてくれました。

先週は台風の影響で休校になったため,授業は2週間ぶり。本来であればマルシェのふりかえりを続けるところだったけれども,今回はツナガル株式会社のメンバー,竹林さん,フランス人のハレさんとバレさんの3人とともに現地でのワークショップを行うことにしました。

ツナガルは地域を基軸に世界と,地域同士をつないでいく事業を進めている企業。九州では大分の国東半島を舞台にサイクルツーリズムに取り組んでいて,スパークルというプロ自転車チームの活動拠点を作ったり,(私なりの表現になるが)地域に杭を打って,そこを起点に地域の人,他地域の人のつながりを作っていくイメージだろうか。

その中の1つのプロジェクトがNOMADOあるいは「ENdemicワークショップ」と呼んでいるもの。その具体的な内容は竹林さんのnoteをご覧ください。

では,それは具体的にどのようなものなのか。私の拙い文章では伝わないでしょうから,まずは竹林さんのTweetにアップされた動画からその雰囲気を味わって頂けると宜しいかもしれません。

いかがでしょうか?授業のメイン参加者である高校生だけでなく,先生も,見学に来た社会人も皆ニコニコ楽しそうに話をしてませんか?話の内容はシリアスで「壱岐の未来をどう考える?」とか,「あなたはどんな人?」とか,高校生にしたら真面目に語りづらいテーマなんだけど,それをさまざまな人がコミュニケーションを取ることで楽しい語りの場にしてしまう。

そんなワークショップはどんな場だったのでしょうか。私目線からその様子を振り返ってみましょう。なお,これまでの授業の経過はこちらから。

1コマ目:具体と抽象,多面的なモノの見方と言語化

今回の授業。いつもと座席が違うし,教室の端には丸い画面のようなものがあるし,高校生はソワソワしながら教室に入室。その前にも,こちらがいきなりシステムを持ち込んで学校外部の人間が作業を始めるものだから,先生や事務職員さんがなんだなんだと教室に見学に来る。声には出さないけど,何が行われるのか興味津々だったのかも…。

13時30分に授業がスタート。今日の授業の目的,ツナガル株式会社の面々の紹介。そして,日本語に堪能なハレのファシリテーションで進んでいく。

ツナガル株式会社からハレ(中央男性),バレ(右女性),竹林さん(左写真撮影)が参加

NOMADOというサービスの目的は「接続したその瞬間だけの感動だけでなく、ふたつのコミュニティ間に介在する壁の理解、参加者との体験の共創、体験後のフォローアップを含めたリアルな関係を生むこと」なのだそう。上記写真の中央にある丸い画面に映し出された人とこちら側の人たちがあるテーマに従ってコミュニケーションを行うことで気づきを得ること,そのあとの活動にもポジティブな影響を与えようというものだ。

円状のモニターに向かって話しかけるイメージ

1コマ目は,自分を表す一言(言葉)を紹介することからスタート。そして,今回画面越しに参加してくれた九州大学共創学部1年生の須内洸至さんとともに,Whyを掘り出す作業を行った。

須内さんは現在対馬をフィールドとして活動しており,引退後に住もうと思っていた対馬に大学卒業後住もうと思っているという自己紹介をしてくださった。離島に暮らすということに興味を持っている福岡に住む大学生との対話。一方,高校生10人は先月末の「壱岐エテマルシェ」の経験を得たからか,(恥ずかしそうに)壱岐が好きと表現できるようになっていた。

双方とも共通しているのは,離島の自然や食事であったり,人とのコミュニケーションの温かさを挙げていること。一方で,買い物ができない,娯楽が少ないという現代的な生活を送る上でのサービスが足りないという点を挙げている。こうしたコミュニケーションを続けていく中で,ハレは高校生に対してなぜを問い続ける

ハレは積極的に高校生に近寄って語りかける

さらに,ゲームが続く。スマートフォンや生徒のスリッパを手に取りつつ,そのモノにはどのような特徴があるのかを即興的に言葉を紡いでいくもの。即興的だから考えて発話する時間がない。思いついた言葉をパッと口に出す。高校生たちは柔軟性があるからだろうか,面白い視点をどんどん提示してくれる。そのうち笑顔になり,笑いながら互いの目を合わせて話すようにもなっていった。

ハレは先生方や同行して頂いている壱岐市役所の皆さんにも話を振っていく。「大人は黙して語らず」と思っているからだろうか,高校生は大人が目を白黒しながら即興的に言葉を出していく様子を見ながら笑っている。そう,大人もみんな人間。高校生とそう変わらないんだよね。

ここでハレからの解説。「壱岐について語るにしても,ここにあるモノを語るにしても,人それぞれの見方は違う。こうして自分の想いや考えを言葉にして伝えることによって,多様な考えがあることを知ることができるし,新しいアイデアが生まれる。だから,言葉にして,相手と積極的にコミュニケーションを取りましょう」(意訳)と。

ここで10分間のブレイクタイム。須内さんと高校生6人が画面を囲んでコミュニケーションを取っている姿は微笑ましく。写真を撮りたかったけれども,上記Twitterの画像でその雰囲気をご覧ください。

2コマ目:寸劇を通じて島の今,未来を語る

さて,2コマ目。

ここからは今回の本題でもある「島の未来」をともに考えていく時間。1コマ目で島の良いところ,好きなところ,島の課題を言葉にして交わしたところで,その言葉をもとに30年後の壱岐がどうなっているのかをインタビュー形式で話をしていくというもの。

壱岐がどんな島なのか,その未来の姿はどんなものかを語ってもらう寸劇①

まずは須内さんが島の代表(国王?市長?的なポジション)役になり,島が発展した理由を話す。それを受けてハレが高校生を指名する。高校生にどんどんインタビューをしていく。考える時間を与えずに,出てくる言葉をつないでいく。突拍子もない言葉も出てくるから,教室は大きな笑い声に包まれる。

壱岐がどんな島なのか,その未来の姿はどんなものかを語ってもらう寸劇②

ここでハレのファシリテーションの真骨頂。日本人であれば話しづらいだろうと忖度してしまうけど,少しでも言葉にしてもらおうと話しづらそうな生徒に対してもフォローをしつつ言葉にすることを促す。そうやって順番に島の未来像を語り合っていく。

壱岐がどんな島なのか,その未来の姿はどんなものかを語ってもらう寸劇③

見学に来られていた福岡東ロータリークラブの皆さんも同じように巻き込まれていく。一般住民として今の話をどう聞いたか,どんな島にして欲しいのかを外部の視点から語る。高校生からすれば親世代あるいはそれ以上の大人が一生懸命役割を演じているから面白いのだろう。話をすればするほど,笑いに包まれ,教室の温度が高まっていく感じ。

こうして最高潮を迎えて授業はクロージングへ。またハレからコメントが。「即興的に振られて言葉に出るというのは,実は普段から考えていることだったり,感じていることの反映でもあるよね」(意訳)。

高校生だからと言えばそれまでだけれども,この半年の間に彼・彼女たちはさまざまな経験を重ねていく中で,自分たちが見えている世界がどのようなものなのか,何気なく過ごしている毎日の間に少しずつ変化が起きていることに気づき始めている。今までと異なる見え方,感じ方をするようになっている。ただ,それがそうだと自分で気づく時間,言葉にする機会が足りなかったのだろう。

ゼミ(創業体験プログラム)のふりかえりもそうだが,自分がここまで行ってきた活動を言葉にしてふりかえる作業はなかなかできない。が,そこにたくさんの学びのポイントが落ちているし,それを落ち穂拾いをするように拾い上げていくことで,その場面場面で自分が感じたことと他者が感じていたことを交換できるようになる。

だからこそ,知識・理論のインプット,実践的な経験も大事だけれども,PBLの肝であるふりかえりにめちゃくちゃ時間をかける。自分たちが積み重ねた経験を味わうようにじっくりじっくりと。

が,今回のワークショップは即興という速いスピードで繰り返されるコミュニケーションを通じて,自分の奥底にある考えを言語化し,それを通じて互いの理解を深め,新たな価値を創造しようとしている。

溢れ出る今日の学びの言語化

授業の最後に「今日の授業のふりかえりをしましょう」ということで,生徒には今日の学び,感じたことを自由に記述してもらった。そして,何人かの生徒に話をしてもらった。そこでは生徒自身がこれまで島の暮らしの中で感じてきたこと,マルシェを通じて得られた経験,そしてこの授業でさまざま人との間で行われたコミュニケーションと言語化が見事にミックスされた話をしてくれた。

そんな話に耳を傾けながら,大人たちは同様に大きく頷いていた。高校生の発する言葉のレベルが一段と高くなったように感じた瞬間だった。そして,皆一様にスッキリした顔をしていたのが印象的だった。

ふりかえり:同じことを伝えるにしても,場作りが重要

そんな高揚感に包まれた時間を過ごして,今回の壱岐商業高校×ツナガル×とびゼミのセッションは終了した。

最後は集合写真(私のお腹が出ている(涙))

ツナガル,特にハレのファシリテーションによるワークショップに同席したのは2回目だが,このサービス自体がまだプロトタイプ段階であることがあるにせよ,改めてよく考えられたものであることを強く感じた。モニターを置く場所,形状,参加者とのコミュニケーションの取り方,伝えるメッセージが細かくプロットされている。限られた時間の中で最大のパフォーマンスを出そうと努力し,実行する力にも優れている。

授業によってもたらされた高校生の反応もそうだが,先生方にも納得頂ける内容だったことも合わせて,私自身が多くを学ぶことができた。学生がVTRを撮影してくれているので,改めてよく見て勉強しなければならない。

宮崎校長とも記念写真をパシャリ

最後には校長先生までお出まし頂いて,記念写真を撮影。実は授業開始直前まで私自身のミスもあって授業ができるかどうか心配な状況だったんだけれども,ツナガルの皆さんのお力添えも頂いて帰る頃には誰もが笑顔になっていた。

でも,ここにいる「大人」の誰もが喜んでいるのは,実は未来を担う高校生たちが自分の言葉で笑顔で語っていた姿を見たからなのだろう。私もそうだけれども,大人は何かしらの役割を演じている。特に学校の先生ともなれば生徒に隙を見せまいと「完全無欠の人間像」を演じなきゃと思っていることもあるだろう。けど,先生という仕事を選んでいるのは,そもそも生徒の成長に関心があるからだろうし,小さな日々の機会の積み重ねの結果,こちらが及びもつかない結果が得られた時に「この仕事をやっていて良かった」と心底思えるからだろう。

壱岐商業高校での課題研究6コースのうち,このコース(起業体験プロジェクト)では新たな取り組みを認めてくださっていることもあって,こちらの無茶を相当受け入れてくださっている。そこを調整してくださる先生方のおかげでこの授業が成り立っているし,誰もが将来の島を担うであろう高校生たちの成長を見守っていきたいと思っているだろう。

では,今回の授業を受けてこれからどうやってスケジュールを作っていこうか。実はふりかえり後のことはまだ何も決まっていない。今回の授業を何か形にする機会を創っていければ良いのだけれども。心地よい爽快感と大きな宿題が残って壱岐をあとにした。

改めて皆さんありがとうございました!

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