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付加価値の最大化を図るための戦略・戦術と損益分岐点分析|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業⑨

またまたやってきました火曜日。今日も壱岐商業高校とのオンライン講義。学生たちは自宅あるいは大学から配信をしていますが,私は夕方の非常勤講義のために熊本に移動してきています。

朝は8:40から九州大学伊都キャンパスでの授業をしているので,授業→移動→ランチ→移動→オンライン授業という慌ただしい1日。

そういう今日に限って,福岡市営地下鉄空港線で車両故障があった関係で電車に遅れが出ていた。いつも博多駅での乗り換えは15分程度しかないのでヒヤヒヤしたが,頑張ってくださったおかげで新幹線に無事乗車。そして,熊本でランチを取り,バスに乗って熊本学園大学へ。

そうこうして13:30から2コマの授業スタート。今日は損益分岐点分析がテーマ。(一応)管理会計を専門にする当ゼミでは最も大切とする単元。

事前動画の復習

説明するのと実際に使うのとでは全然違う。果たして大学生はどんな授業を行うのでしょうか。今回も高校生との授業の様子をレポートしましょう。

なお,これまで授業で取り組んできた内容についてはこちらのマガジンをお読みください。

1コマ目:付加価値を最大化する戦略・戦術を立てるための損益分岐点分析

今回の授業1コマ目は損益分岐点分析。

大学で授業をしていても,これまでいくつかの高校で授業をしていても,学生・生徒が引っかかるポイントでもある。計算そのものは難しくはないし,実際にビジネスをやっていれば何ら難しくはないのだけれども,実体験に乏しい高校生には実感が湧かないし、覚えなきゃいけない言葉も多いし、関数で考えることもあるだけにより難しく感じるのかもしれない。

実際に日商簿記2級を取ったような学生でも「こう解くって覚えるだけで、理屈で考えていない」という声をよく聞く。んーと思ってしまうんだけど、果たして学生はどんな工夫をしていたのでしょうか。

事前動画のふりかえり:損益分岐点分析の説明

1コマ目前半は事前動画のふりかえりとして損益分岐点分析の説明からスタート。

当たり前なんだけど実現するのが難しい一般式

改めて企業は利益を最大化することを1つの経営目的とし,そのためには収益を最大化,費用を最小化するように行動する。ただし,それは闇雲に行われるのではなくて,(明示的でも潜在的でも)戦略的なことを意識して行われる。稲盛和夫氏の言う「値決めは経営」であり,大企業でも中小企業でも,スタートアップでも模擬店でも,売価を決めるのは極めて難しい。

毎度おなじみポーターの競争戦略論

その1つの手がかりとして,マイケル・ポーターの競争戦略論から「企業が取りうる戦略は2つしかない」として差別化戦略コストリーダーシップ戦略について解説する。

※ 集中戦略は差別化またはコストリーダーシップとの組み合わせで用いるものなので,ここではあえて触れない。

ここでは,差別化戦略は付加価値をできるだけ大きく=商品・サービス1単位あたりの利益を最大化することを目的とする戦略であること,コストリーダーシップ戦略は低価格で販売するために費用を最小化,あるいは効率化を図ることで広く多くの人に安価な商品・サービスを購入してもらうことを目的にした戦略であることを解説する。

どんな人でも利益を最大化するには費用を最小化すれば良いと考えるが,それが効率化(例えば生産スピードのアップなど)とつながるかと言われればそうでもないだろう。総額としてのコストがどうかという問題と,単位あたり(1つあたり)のコストがどうかという問題が峻別できない場合がある。

ただし,こうした話は実際にビジネスをやっていないとわからない部分でもあるので,戦略と会計上の利益創出プロセスのつながりを概念的に理解を進めるためにも競争戦略論と損益分岐点分析と合わせて説明することに。これはゼミでもそのように教えているので,流れとしてはよくわかる。

ここで損益分岐点分析のお話

損益分岐点分析の説明に入る。損益分岐点は収益=費用,すなわち利益がゼロになる販売個数を計算する。そこから目標利益であったり,マーケットの大きさに適合的な販売個数の設定をするための事業計画を作るためのツールだと説明する。

付加価値を貢献利益と一致すると考えれば,損益分岐点分析は付加価値最大化を
どう図るかを考える良いツール

では,少ない販売個数で利益を生み出すにはどうすれば良いのか。そこでいきなり計算式に行かずに,先にした戦略の話と交えながら付加価値の話とつながっていく。

付加価値とは,厳密には投入した財の価値と払い出した財の価値の差額,簡単に言えば売上高と材料費の差額になる。ここで人件費と経費を固定費だとすれば,付加価値=売上高−材料費=貢献利益となり,付加価値と貢献利益を同一概念として捉えることができる。

中小企業経営者の話を聞くと,そのような実践が行われている例によく出会う。こうう実践例をもとに学生には話をしているので,高校生への説明もそのように行っているのかもしれないですね。

つまり,付加価値をどう設計するかという話と差別化 or コストリーダーシップの戦略とがどのように結びつくのかを理解することで,戦略がどう会計数値に結びつくのかを概念的に理解できると考えている。

んー。多分ちゃんと理解できていないですね…。

続いて計算式を展開して説明するが,ここが大きな問題。教科書あるいはちょっとしたWebページに載っているような説明に終始。概念と用語を的確に整理し,説明をして理解を促すか,具体例を用いて段階的に説明すれば十分理解できるだろうに,大学生の説明は曖昧できっと高校生も理解できていないのではないんじゃないかしら。事前チェックもしたけれども、もう少しわかりやすい説明があったのではないだろうか。いや,むしろ高校生がわかっているけど,大学生がわかっていないのかもしれない(管理会計のゼミとしては由々しき問題(笑)/ここまではよくできていたのに…)。

確かに計算はそうなんだけど,果たして高校生理解できてるかな?

が,具体的に問題設例をもとに説明すると大学生も説明しやすいようで,上記のスライドではそれなりに説明できているんだよな。それでは説明したことにはならないので,このあたりはちょっとテコ入れしないといけません…。こういうところに実践的なゼミ運営をやっていることのリスクと,実践的にやっているからこそ体感して理解できているというメリットの双方を感じることがあります。

模擬店での出店を想定したグループワーク

ひとしきり損益分岐点の説明を終えたあと,2つのグループに分かれてグループワーク。今回は損益分岐点分析を用いた実践的なシミュレーションゲームを行うことに。

いきなり計算から入らないグループワーク。学生たちはよく考えている。

今回のグループワークでは,お祭りにお店を出店。固定費20,000円で,変動費としてたこ焼きを出す場合は100円,ハンバーガーでは200円,コーヒーでは300円(!)という設定。

競合店の出店場所と売価

競合店は上記のようになっていて,たこ焼き屋はすでにあるし,向かいはホットドッグ屋だし,飲み物を売るお店はないという状況。

ある程度リアリティを持たせながらも自由度高く考えられる条件設定

そして,ここまで学習してきた内容をもとに,①商品の決定,②原価を参考に販売価格と戦略を検討,③損益分岐点売上高と販売個数を計算するという流れに。

さて,どのようになったのでしょうか。グループワークの結果は次のような形に。

1つ目のグループはコーヒーを600円で販売する差別化戦略を選択。固定費が20,000円で1つあたりの貢献利益が300円なので販売個数は67杯と求められる。この時の売上高は40,200円になる。では,その販売個数を達成するためにどのような戦略があり得るのか。ここは高校生にはまだ難しかった模様。

2つ目のグループはハンバーガーを500円で販売する戦略を選択。その理由はたこ焼きはすでに競合があるけれども,向かいのホットドッグ屋よりも差別化できる商品を開発できれば多少高くても売ることができるだろうという想定。そして,こちらのグループも固定費20,000円,1つあたり貢献利益が300円なので販売個数は同じ67個に。この時の売上高は33,500円となる。

ここでチャイムが鳴ってこの時間は終了。高校生が学べたことは次の通り。

① 損益分岐点分析を理解する。どう計算するか。
② 原価を知り,売価の設定を行うことが重要。
③ 売価の設定のために差別化をするか,コストリーダーシップをするかを考える。

まずは戦略を情報の整理のために定性的にだけ理解するのではなく,どう事業継続のために稼ぐべき金額をどう稼ぐかを合わせて考えることができるように導く。これができるだけでも十分。

ここで学んだことをもとに実践し,経営する取り組みを行うのは8月末。これから8月末の出店に向けて何度も話し合いをする。こうした話が頭に入っているといろいろとスムーズに進むのだけれども,果たしてどうなるでしょうか。まずは損益分岐点分析という山を越えてホッとしたところ。

2コマ目:ポジショニング?顧客はどう動くの?

続いて2コマ目。ここでの授業内容は下記の通り。

ポジショニングと差別化を図るための体験価値の設計という難しいテーマ

この時間はテーマが2つ。

1つめは前回のSTP分析のうち,ポジショニングをどう定めるかについて。先の差別化戦略とコストリーダーシップ戦略であったり,競合他社の状況,出店場所などを踏まえて,自己の強みをどう表現するかを検討する。

ポジショニングの説明。マーケティングは難しい。

2つめはどんな体験を顧客にしてもらいたいのか=顧客の体験価値の設計ということで,サービス・ドミナント・ロジックについて。実にハードな内容を50分で押し込めた感じがする…。

ここでこれ教えるのはなかなか難しい!

特に後者を説明するには相当なステップを踏まなければいけないのだけれども,短い時間の中でこれを理解する授業を構成するのはかなりハード。8月末の出店を行うため,その考える材料を提供しようという親心はすごくわかるが,これ使いこなすには高校生にかなりの練度がいるし,大学生が創業体験プログラムやプロジェクトで使おうにも難しかろう。

加えてグループワークでは4コマ漫画形式でユーザー・ストーリー・マッピング(USM)を作るというワークを展開していたが高校生が「???」という反応になってしまっていた。そもそも洋服を買う経験が不足している,友だちとどこかに出かけるという経験が不足していることもあって,大学生が一生懸命「何が欲しい?どんなことしたい?」と尋ねても,期待する反応が出てこない。

例えば,「高校生だけで買い物行くの?」と尋ねても,足がないことが問題。壱岐島内南部の郷ノ浦から今回出店する北端の勝本まで移動しようとしても,車で30分かかるのだから自転車では2時間近くかかってしまうのだそう。しかも、アップダウンがある。

じゃあ,親と買い物に行くのかとなると,男子と女子では反応が異なる。男子生徒は親と一緒に買い物に行きたくないし,そこを見られることを嫌がる(かつて自分たちがそうであったように)。特にイオンの2階だったら…。

となれば,「どんなお店が欲しい?」もイメージが湧かない。カフェは「大人が行く場所で高校生が行く場所ではない」ともなってしまって,思考が停止する。学生が都市部で自分たちが経験してきたようなことを働きかけても,その経験がない高校生にはイメージが湧かないという場面に直面してしまった。

1コマ目が狙いの定まった良い授業(細かい点では修正が必要)だっただけに,2コマ目は細かく吟味できた方が良かったのかもしれない。前回の授業内容を敷衍すれば、夏の出店に合わせて店舗のポジショニングをハッキリさせるようなワーク、あるいは事前に競合が少ない,高校生が島内で買い物することがないという情報と合わせて空白地帯にどんな仕掛けをすると来店者数を増やせるかを設計しても良かっただろう。

そんなこんなで,2コマ目は消化不良で授業が終了してしまった印象に。特に高校生に問いかけてもなかなか反応が戻ってこないことで大学生が一方的に誘導してしまうような形になったのは今後の課題。が,今回の授業の難易度が高くなったこと,高校生の思考が一旦停止してしまったことというのは,チャレンジの結果であり,それによって次の課題が見えたとポジティブに捉えている。

そうこうしているうちにチャイムが鳴り,今回の授業が終了した。

ふりかえり:買い物経験の不足をカバーする授業をどう作る?

さて,今回のふりかえり。授業を担当している学生の様子を見てどう反応しようかと考えながらになった。

学生リーダーはだんだん慣れてきて,自分が授業で何を喋り,どこが伝わり,どこが伝わらなかったのかが見えてきたようだ。ふりかえりでも準備不足,特に講義内容の構成が悪く,詰め込みすぎたために高校生の反応が良くなかったことを指摘していた。確かにそれもある。

また、OBが指摘しているように,CVP分析,ポジショニング,サービス・ドミナント・ロジックとUSMと100分の授業で4つの要素も入ってたら,高校生はお腹いっぱいだろう。実際,オンラインゼミで3-4年生にUSMの作成をワークとしてやった時,180分ぶち抜きでやっても十分なものは完成しなかった。今回は高校生にもわかるように4コママンガを作るようにUSMを作ろうというワークの工夫が見られたが,恐らく学生のシミュレーションが十分でなく,高校生にも何をして欲しいのかが伝わらなかったのだろう。そもそも買い物経験が不足しているというのも原因。

それと,戦略やマーケティングを考える時に競争戦略論(差別化・コストリーダーシップ)であったり,STPといったフレームワークを考えるのは定石のように見えるが,都市部に行かなければ体験できないと思っている顧客に対して何を商材として提供するかはもっと考えて然るべきかもしれない。ポジショニングと言うと,競合があっての立ち位置の定め方のように考えてしまうが,こと壱岐において今回行おうとしている取り組みはそうではないのかもしれない。

誰もがまだ進出していない新たな場所に市場を創造するようなもの?

つまり,常識的には誰もが進出してこなかった市場に洋服屋とカフェ(パン屋とのコラボ)を持ってこようとしているのだから,相当用意周到に仕掛けを作って臨まなければならないのだろう。そういう意味では,違う場所で行う創業体験プログラムのようなものだし,日田でチャレンジしてきたカフェのプロジェクトによく似ていると言えるのかもしれない。

そう私たちもまだまだ壱岐のことを知らないし、高校生のことを知らないのだ。そんなことを感じた時間。

高校生だけでは来客が見込めない=収益が望めない中で,いかなる仕掛けをすることで多くの来客が見込めるようになるのか。実は先日身近な場所でその例を見ているような気がするが,そこまでの訴求力がないのでアイデアが必要そう。

ということで,こちらのリンクを貼っておきます。

実はこの案件と今回のプロジェクトは細い糸でつながっているんです(笑)だからなんとか集客できるイベントにしたいんだよなぁ。

というつぶやきを残して今回の記事はおしまい。

次回は来週火曜日。次回はインタビュー調査を通じてターゲットはどのようなインサイトを持っているのかを知るワークを実施予定。これも学生がプロジェクトで実践して欲しいことを高校生に授業でやるという無理難題。頑張りましょう!(金曜日のゼミでやるかね)

余談

次回の壱岐商業高校の授業は6/21ですが,6/20は新たな高校で,6/22は日田三隈高校で新たにチャレンジが始まります。というわけで,このプロジェクトも少しずつ正念場を迎えます。ただ,ありがたいことに4年生の有志や新たに入ってきた2年生でもこのプロジェクトに興味を持ってくれている学生がいます。

本当はもう少しじっくり腰を据えてアドバイスをしたいのですが,自分たちの力で高校生に何を伝えることができるか,1つの講義というコンテンツを創るプロセスを通じて学べることがあるので,温かく見守りつつ,しっかりとサポートしていきたいと思った次第。頑張るべ。

ということで,授業を2コマ終えて今から福岡に戻ります。

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