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ご恩返しでひとつの区切り:学生との枕崎訪問記|2022年春_3年生との旅①

新型コロナウィルスの影響が収まらない。感染者数をベースにした政策判断で「まん防」が延長された。そのため,予定していたゼミ合宿は旅程,人数変更等を余儀なくされた。が,果たしてそれでいいのか。そこで昨年夏同様,あくまでも個人旅行の延長(という苦肉の策)で希望者のみ,このタイミングで旅に出ることにした。

特に3年生は昨年来宿泊を伴う合宿には行くこともできず,なんとか3月に1日だけ下関を訪問してフィールドワークを実施しただけだ。

旅先は枕崎。昨年の九州移住ドラフトから大変お世話になっている。それ以来,皆さんには大変良くして頂いて,昨年3月の訪問からすでに5回も来ている。昨年夏に訪問した際の記録は下記の記事をご参照ください。

なお,受け入れ側にご迷惑をおかけしないためにも,鹿児島県内最初のSAで抗原検査を実施し,全員陰性であることを確認しての訪問だということを付記しておく。

創業体験プログラム2021における9期生の歩み

2021年の創業体験プログラム(創P)は学園祭中止,昨年は実施できた福岡女子商業高校の女子商マルシェ中止を受けて,10月末になんとか開催できた「鳥飼八幡宮カレーフェスティバル」での出店のみであった。

それまで創Pでは学園祭の模擬店運営を行い,主として学生を顧客とし,3日間17時間で300-400円程度の商品800-1,000食を販売することを目標にして運営されてきた。つまり,市場に合わせて薄利多売,生産オペレーションを最適化して,高速で回すことで収益を獲得しようとしてきた。

しかし,2020年から始めた「女子商マルシェ」での出店では,周囲は福岡都市圏に所在する大型店,著名店の商品が多く売られるため,大学生が出店するには多少の差別化が必要になる。そこで,大学生は「地方のものを仕入れ,福岡で販売する」のコンセプトのもと,当時3年生であった8期生は対馬へ,当時2年生であった9期生は日南にゆかりのあるモノを仕入れ,販売することにした。

その延長で,2021年度は2年生(10期)には宮崎県小林市を,3年生(9期)には鹿児島県枕崎市をテーマに与え,それぞれの地域を訪問して,フードハントをしながら仕入を行うことにした。

当初は女子商マルシェとカレーフェスの2本立てだったこともあり,調理の制約条件等を考慮して,前者では枕崎にある鹿児島水産高校と地元企業がコラボして製造販売している「かつおラーメン」を,後者では「かつおを使ったカレー」(当時はアイデアなし)で販売する計画を設定した。しかし,前者は中止。これで売上を上げるためには(知っている人は普通に知っているけど,一般的にはあまりイメージがない)魚を使ったカレーを作らざるを得なくなった。

そして,9月にフードハントのために枕崎を訪問。それまで試作品は作ってみたもののピンと来ていなかったところで,中原水産の中原晋司さんのアドバイスに加え,福岡でカレー専門家に監修をしてもらうことでようやく味が決まった。商品は「枕崎産カツオの和風カレースープ」になった。

当日出店した商品。カツオの和風カレースープは右上,黒い器のもの。
当日は枕崎からもたくさんのご支援を頂いた。

3日間の営業は途中雨に降られながらも大成功。初日は終了時間前に完売,2-3日目も目標販売個数をクリアして営業を終えた。

ただ,スープ販売ということもあり,お客様からは「やっぱご飯がいるよね」というお声多数。本当は「カレーを食べてお腹いっぱいになっているお客様,あるいはもう少し変化が欲しいお客様」をターゲットにしていたのもあって,なんとか個数は出たけど,ターゲットは狙い通りに行かなかったという意味でモヤッとした3日間だった(私にとって)。

ただ,ここでの出店が次につながる。今回カレーフェスに来られていたお客様からオファーが。11月中旬に近くの団地でイベントがあるので出店して欲しいと。また同じことをするのかとちょっと食傷気味になっていた3年生だが,「意思決定会計の履修をしているんだからわかるはず。固定費を上回る貢献利益(粗利)が得られるならOKでしょ?」という強引な説得もあって出店。

やはり,ここでも完売して商品のポテンシャルを感じることができた。

しかし,今回商品開発や材料調達にご尽力頂いた枕崎の皆さんにこのカレーを食べて頂いていない。毎日,枕崎に本社を置くDCTの下竹さんにご報告していたのだけれども,ジブンゴトのように喜んでくださっている。何か恩返しができないか。

そこで,春こそは枕崎に行こう。合宿は枕崎で行うとしたのでした。

ようやく召し上がって頂いたカレー

しかし,冒頭で書いたように新型コロナウィルスの影響から合宿は中止。諸々の条件を調整してようやく枕崎を訪問した。

着くや否や,近くのスーパーに買い出し。また,カレースープの味の決めてとなる「カツオ風味」を出すために中原水産も訪問。コンロや鍋を持ち込んで,調理を開始した。

テントの中で作業。なんかテンション上がる(笑)

お借りしている場所はコワーキングスペースの一角。玉ねぎを刻み,炒めるといい香りがする。スペース内を香りが充満。当然,カレーを入れるとますます匂いがする。が,カレーを仕込む。できあがる。14時過ぎから作業をして,17時にはようやく完成にこぎつけた。すでに最後の出店から3か月が経過。過去作ったレシピをもとに味を再現できた。素晴らしい。

17時半になりお客様数名がご来場。人数が揃ったところで「創業体験プログラム報告会」を開催した。冒頭にゼミの取り組み,教育目標や地域での取り組みをご紹介。そして,次に今回社長を務めた学生からのプレゼンを行った。

今回の出店にかける想い。店名「LINK」に込めた考え。出店を終えて気づいたこと。丁寧にそのプロセスを説明する。

コラボレーションが地方都市に新しい価値をもたらすのかもしれない
地方と都市のギャップをいかに活用するか

都市にあるものとないもの,地方にあるものとないもの。渇きと潤いとでも言おうか。今回のプログラムではあくまでも地方→都市という物流の流れでできることにチャレンジしたが,ゼミで日頃伝えているアントレプレナーシップの定義を踏まえて「地方の発見されていない資源に対して,可能な限り機会を追求することは重要であり,今回,わたしたちが目指してきたところである」というのは重要なメッセージであるし,1つの到達点を見出したように思う。

その後,今回ご尽力頂いたDCT代表取締役で九州移住ドラフト枕崎球団の代表を務めておられる下竹重則さん,カツオのだしの素をご紹介頂いた中原水産代表取締役の中原晋司さん,そして枕崎市副市長の小泉智資さんからそれぞれコメントを頂き,試食会に入った。

下竹重則さん
中原晋司さん
小泉智資副市長(とてもチャーミングな方でした)

試食頂いた皆さんからは「おいしい!」との声が。レシピの問い合わせも。その中で枕崎の皆さんを驚かせたことが1つあった。これは枕崎から福岡にカツオを仕入れざるを得ないこともあったのだが,すでに既製品で売られている(ある程度日持ちできる)カツオのたたきを切り刻んでスパイスまみれにし,鍋に入れて茹でるという行為であった。

これは絶対枕崎の人の発想にない。

地元の人からのお声。が,これがこのカレーを製造する上で「カツオ感」を失わないようにするための方法であったし,やむを得ず生み出した方法であった。まさかのイノベーション。とにかく喜んで頂けたようで良かった。

皆さんで試食

そして,会社の向かいにある古民家を用いたカフェとゲストハウスを作る予定にもしている下竹さんからは「これ,美味しい。今度やるカフェのメニューに入れましょう」という温かい言葉を頂くことができた。近い将来,これが枕崎で売られ,枕崎を代表するメニューの1つになる可能性があるのだとしたら,こんなに素晴らしいことはないでしょう。もしかしたら卒業する年に彼らが丹精込めて作った「枕崎産カツオの和風カレースープ」が枕崎で商品化されるかもしれない。実際にはもう少し時間がかかるだろうけど,小さな一歩,足跡を残すことができた。

個人的にはこれを定番化して,レトルトパックで売ってくれることを期待しているんだけど(笑)

ビジネスは社会課題の解決であり,限られた経営資源を活用して機会を追求すること

さらに夜にはカツオづくしの食事を頂き,枕崎での時間は過ぎていった。学生たちははるばる福岡からやってきて,一仕事を終えた満足感でいっぱいのようだった。その場に行って食べるカツオの旨さよ。これがもう少し歳を取れば最高の贅沢に変わるのだよ(笑)

さて,このように今回は夏に引き続き,学生数名を引き連れての枕崎訪問となった。改めて思うのは,その地域には縁もゆかりもない学生が(教員の思いつきに引っ張られて)訪問してきて,フードハントして,商品開発して,枕崎を福岡で宣伝するという仕掛けは(自画自賛になるけど)面白い。とにかく面白い。

学生には「なにもない場所」にしか見えないであろう地方都市に,学生が商品開発を目的に出向くことはさまざまなメリットをもたらしてくれる。興味関心だけでなく,人とのつながりができる。つながりがさらなるつながりを生み,当初考えていなかったコラボレーションがどんどん進む。そこからアイデアが生まれ,斬新な商品が創り出される。

アントレプレナーシップ教育と言えば,「起業そのもの」であったり,「最新のテクノロジー」であったりと,指数関数的な爆発的成長を期待できる企業群にフォーカスがあたりがちだけれども,人口が減少していく中で限られた資源を活用して都市としての機能を作り変えていく必要がある地方都市にも多くの課題がある。その課題を解決しつつ,持続可能性を高めるためにも,その地域でビジネスを創り,付加価値を創造できる場作りにもアントレプレナーシップという考え方は十分に適用できる。だから,それをやる。スケールやインパクトの測り方がだいぶ違うけれども。ただ、価値創造を図るためにも、(おこがましいが)地方都市においてそのお手伝いを教育という側面からサポートしたい。

(1)地方には何も無いのではなく,明確な課題がある。その課題は,将来日本国中首都圏以外で起きうる問題である。よって,今この時点で地方の課題に向き合うことは先進的である可能性が高い。
(2)「大切なものは目に見えない」のは都市でも地方でも一緒。余白があることが何も見えないのか,モノやサービス,雑音に紛れて何も見えなくなるのかの違いでしかない。
(3)18-22歳が少ない地方都市において大学生が来ただけで大事件。
(4)時間はかかるかもしれないが,少しずつ浸透して輪が広がる。焦らないこと。
(5)人やモノを物理的に動かすだけでなく,異なる視点をオンラインで乗せて伝えることができる。互いが持つ言葉の齟齬を共通理解できる水準に持っていけば,爆発的に変化をもたらす可能性がある。

地域経済の未来をどう見通すか:枕崎・小林訪問記①
https://note.com/ttobita/n/nf59549e4853e

まさに昨年書いたこの記事とつながっている。もちろん美味しいカレーを作っただけでは課題解決にはならない。ただ,経営資源の活用方法については例示できたかもしれない。もう少し技術ベースに安価にできる範囲で解決していくというアプローチもあって良いのだけど。人海戦術だけでは限界がある。

そして,あとは(5)をいかにやるかだ。ここに教育に携わっている私なりの強みがある。高校に出向いて大学生が講義を実施していることの意味がある。やっぱり2022年はアントレプレナーシップ教育の形を組み上げていくことに注力するべきか。

最後に記念写真

それはさておき,小さな一歩を踏み出して,とりあえずここまでたどり着いた。先の飯塚での取り組み同様に,当ゼミにおけるロールモデルが枕崎との取り組みになるかもしれない。こうした活動を小さくとも積み上げていき,わたしたちの活動が地方都市に何かをもたらしていること,空気が変わることを期待したい。

ようやくご恩返しができた。区切りをつけられた。本当にありがたや。あとはここから枕崎に移住して働く人が出てくればいいな(笑)

あと1つ学んだことがある。それは地方都市におけるコワーキングスペースの持つ引力。良い空間、良質な人が集まる場所には引力がある。以前から、創造性高い街の条件には本屋、カフェ、映画館が必要だと感じているが、それらの機能を兼ね備えたサロン的役割をコワーキングスペースが持ち得るかもしれない。それが実現できる街あるかなぁ。

これが私なりのアントレプレナーシップ教育の形。

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