アウトフォーカス(ボケ)に頼らず背景を減算する方法を視覚心理的に考える
ポートレートにおける背景
SNSで背景ボケボケの撮り方がいろいろ批判の的になっていたので、書き出した記事がなんだか大きくなってしまいましたw。
さて自分の浅薄な美術史の知識だと、もともと絵画の領域で、貴族に保護されていた芸術家が要求されたのは肖像画で、そこから背景が独立され風景画になったということです。ということで、ポートレートでは背景は(よほど寄らない限り)無視できない空間なわけですね。で、おもいついてなのですが、写真における主題(人物)と背景の関係を便宜的に分けてみました。
主題と背景の関係を面積比による分類
とはいっても、背景はいろいろあるのでw、そう簡単には分類できず、ついつい恣意的になりますね。この文章も恣意性そのものですがw。そこで主題と背景の関係を面積比で考えてみました。なぜ面積比としたかは、写真家が最も強調してみせたいものは大きく写す(写真の中で大きく面積をとる)という仮説からです。視覚的にもそれががっちしますね。面積を考えた場合、被写体のポージングとカメラの構える位置も影響してきます。
1. 主題>背景
これは一般的なポートレートです。上半身縦位置のポートレートはこの形になりますね。また横位置ではポージングにもよりますが立ちのポージングだと背景がより大きく入ってきます。これは主題(人物)が最も強調されるいうなれば王道の比率です
2. 主題=背景
厳密には計算していないのですが、これはニューカラー派などではやっている感じがします。背景と主題が等価という考え方ですね。そこまでいかなくても、イルミネーションや夜景、全身で横位置だとこの形になってきます。あと等価という意味ではステージ写真やセットアップ写真、ファッションフォトなどもこちらに入ってきますね
3. 主題<背景
これはあんまりというか関西勢多いのですが、かなり引いて(人物を小さくし)背景を大きく撮る撮影方法。まあ、口の悪い人は「こんなの風景写真じゃん」といいそうですがw、これも一定の人気がありますね。意外と女性ポートレートでは女性に人気があるような。
ちなみにこれは私見ですが、某二〇会ではわりと多くみられる感じですが、これをすると風景画に動きが出るんですよね。僕的にはやっぱり風景画に思えます。
背景を減算するためのアウトフォーカス(Bokeh)
これに関しては以前の記事でがっつり書いていますのでご参照くださいませ
焦点距離とF値に頼らずに背景を減算・脇役化するには
さて、長いイントロの後でここからが本題です。背景を減算するといっても、背景自体が主題に対して効果をあたえるのは変わりませんし、それがあっていわゆる「いい写真」として言われるかと思います。そこで思うつくまま羅列してみました
1. 色彩(カラーの場合)
まずは色彩による減算。これは単色もしくは2-3色までに抑えることを意識するとまとまりやすい。また、色で色彩心理学的な影響があるのでそこもかんがえるので、単色にして整理すると、より主題が強調されるかと。彩度が高ければ主題の演出が強くなりますし、逆に低いと減算がつよくなってこれも主題が引き立つかと。色彩自体で色を抑える場合は背景の面積によって色の配置を考えたほうがいいかもです。例えば全体に暗い中で点光源が入るようなイルミでは点光源の面積が小さければさほど色数は影響しないかと。
2. 輝度差
これは僕が一番すきなアプローチですw。というのも日中シンクロはこれにはいりますね。ちなみにロケ撮でストロボを使う場合は、地明かりと被写体の差をどうやって作るか、もしくはどうやって整合性をとっていくか(これはレフ代わりの場合です)というのが面白いかと。視覚心理的には、輝度差が高い(明るい)ほど視覚的に注意が向けられる(強調される)という特性があります。ハイコンと写真がドラマティックになるのと一緒ですねw。背景を減算する場合は、背景をアンダーにして主題(人物)を適正露出にすると減算できます。これをつかって海外のファッション誌は外ロケで日中シンクロしてますね。
この逆で逆光やスタジオでのバック飛ばしも輝度差を使った減算法になるかと思いますがこれは輝度差の例外的な条件。前記したとおり明るいところに人は注視してしまい、適正~アンダーな主題はどちらかというと逆転してしまいます。が、これは次のセマンティックスに関係するところで解決されます
3. 意味論(セマンティックス)
わりとよく書いているのはこの意味論(Semantics)です。端的に言えば写っているものが、意味・物など明らかに何かとわかるものを写真的な意味論として書いています。背景に「木」「花」があるとか、そういう何かがわかるものですね。セマンティックスが強くなればなるほど主題の人物からより注目されますし、それが主題を修飾するものであればより主題が強調されます。この記事では「減算」というのが目的ですので、なるべく注意をひかなくするにはどうするかということになるのですが、要は写っていてもそれが何かわからない状況をつくるということになります。前項のバック飛ばしは結局光が強すぎて物の形が消失または物の形として機能しないイメージに変換してしまうことで主題にたいして減算できます。
逆に言えば意味を持つものをフレーミングで外すというのも大事ですね。特に文字は意味論としてかなり強い力を持つので要注意。特に写真のような視覚芸術は、伝達を目的とした文字が入ってくるとそれに影響されるので要注意です。これを効果的に使っているのが広告写真とコピーですね。広告はコピーを伝えるのが仕事ですから。
ちなみに、ボケを使う減算は物の形を曖昧にしてセマンティックスを減少させる効果があるのでここに分類されるかもですw。
4. 複雑性
まあ、これは本当に数値化しようとすればフラクタル次元を求めるのが早いんですがw、そういう野暮はいいません。問題なのは中途半端に複雑な図形は目を引いてしまうので減算できないということです。じつはシンプルな模様(線など)はあまり注意をひきませんが、一定の繰り返しがあるとそれが注意をひいて主題に関する注意を減衰させる可能性があります。ただし、複雑すぎると今度はそれを目で追うことが少なくなり主題の人物に視線が向かうことになります。端的に言えば次の項で説明するような意図がない限り、反復した模様は注意を惹きつけて主題を減算する可能性があるということです。このミニマルな手法は現代写真のベッヒャー派などミニマルで繰り返すほうほうで強調することをしていますので、その逆ですねw
5. (番外編)線の効果による視線誘導
さて減算の方法は4までで終わりですが、ここからは背景で主題を強調する方法をいくつか挙げていきます。番外編ですねw
5.1 消失点
これは立体を平面に描いた時に平行線が交わる位置と考えてください。非ユークリッド幾何学など野暮なことはいいませんw。元来、平行線は交わらないのですが、平行線を遠近法で表現するとハの字型でこれがまじわります。これが消失点です(確かw)。で、この線の部分が導線になります。これを人物の中心に持っていけば外から内に視線が誘導され人物に視線がいくことになります。この導線(リードライン)は例えば歩道の縁石などでもかまいませんがそれが人物と交差するようにすれば画面全体から人物に視点が動きます
5.2 トンネル効果
これはよく言われているのですが、輪(ワッカ)が連続していたりトンネルなど連続した円や円柱状の内部を除いた時の壁面が諧調変化をするような場合(要はトンネルの外は明るいけど中に行くほど暗くなるような状況)でその中心部にいる主題が強調されるというものです。もっといえばそこに視線がひっぱられるというもものですね。これはオールドレンズの周辺減光もそのやくめをしており、好まれる理由になるかと思います。
まとめ
とまあ背景の役目や減算する方法をいろいろ考えて整理してみました。わざわざここに書いたのは、このパターンを記憶として残しておけば、その場でここに書いたことを同じ発想で思いつかなくてもいいwということなんです。もちろん、主題(モデルさん)に対してどう作っていくかは写真家の腕の見せ所ですが、少なくともこう考えると「大口径の中望遠レンズ」の幽霊から開放される気がします。言い返せば広角レンズや標準レンズで人物写真の撮り方のバリエーションが増えるのではないかって思っています。まあ、自分の写真はある意味権威がないのでw、それがいいのかどうかは実績がありませんが、もし撮影の参考になればと思ってまとめてみました。楽しい撮影が一緒にできればいいですね。
May YOU have a happy Photo Life!