三井住友銀行カード
この街に住んで4年。
今日はじめてこの宮殿に入ることになった。
入ってすぐ椅子に案内される。
どこにだってある普通のパイプ椅子だ。
「お待たせしました」
目の前に若い女性が現れる。
白いTシャツに、チノパンというラフな格好だ。
ここの宮殿に仕える人とは思えない。
でもこの宮殿のバッジをつけている。
だからこの人はここで仕えているのだ。
ラフな格好で宮殿に仕える女性。
ラフ女性と呼ぶことにしよう。
ラフ女性は僕に手続きを一通り説明する。
僕は言われたとおり持ってきたハンコをガラスの画面に押し付ける。
ガラスは光って、僕のハンコをすぐに読み取ってしまう。
「ありがとうございます。これで今日の手続きは完了です。今日来ていただいたお礼に、記念カードをプレゼントいたします」
ラフ女性は緑のカードを僕に手渡した。
緑のカードにここの宮殿を象った模様が描かれている。
少しだけ僕の手に彼女の指が触れる。
彼女の指先は暖かく、そして乾燥していた。
緑のカードを財布に入れて、宮殿を後にする。
彼女の指の感触を抱いたまま、家路についた。
その日の夢の中で、宮殿のラフ女性が現れる。
夢の中で彼女は名前を教えてくれる。
「岡野喜戸瀬と言うのよ」
おかのきとせ。とても変わった名前だ。
格好は昼と同じラフだ。
そして話し方もラフになっている。
少し話して彼女も僕も無言になる。
無言でお互いに見つめ合う。
彼女は僕の手にそっと触れる。右手だった。
暖かくて、今度は湿っていた。
そのまま左手で自分のTシャツを捲し上げる。
Tシャツの下からスベスベしたお腹が見えてくる。
そして下着が見えた。
緑の下着。
今日もらった緑のカードと全く同じ色。
「緑なんだね」
「当たり前でしょ」
僕はその緑の下着をとりたいと願う。
その向こう側の世界を見たいと願う。
そして触れたいと願う。
「これで緑の世界はあなたのものよ。緑の世界を楽しんでね」
僕は緑の下着に触れようと手を伸ばす。
これでもかというぐらい手を伸ばす。
僕の夢はそこで終わる。
緑のカードが僕の手元にあった。
僕は歩き出すのだ。緑の世界を。
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