【書評】たのしめてるか。湘南ベルマーレ2018フロントの戦い/水谷尚人・池田タツ/産業能率大学出版部
たのしめてるか。湘南ベルマーレ2018フロントの戦い/水谷尚人・池田タツ/産業能率大学出版部
(このnoteは2019年3月15日に他サイトに掲載した記事の転載です)
自分がチームのキャプテンとして1年間チームを率いて戦ってきて感じた、
「チームが一つになること」
の難しさ。また、なった時の強さと、なれなかった時のもろさ。
いろんなバックグラウンドを持つ選手達が集まってきたチームだからこそ、そういったチーム共通の「チーム理念」、チームメイトを繋ぐ「心の軸」の必要性を強く感じた。
そんな中、
じゃあ他のチームってどんなチーム理念を持ってるのかなと思い、インターネットでトップリーグ、Jリーグ、プロ野球、Bリーグなど、ホームページに記載している様々なチームの理念を調べた。
その時に目に留まったのが湘南ベルマーレだった。
ベルマーレのホームページには、チームの理念・自分たちのサッカースタイル・スローガン・選手選考基準・選手に求める7訓など、
そのページを見ればベルマーレがどういうチームなのか一目でわかるほど、明確に記載されていた。
こういったチームの精神が明確にわかるチームにはきっと、
・共感する人を集める力、巻き込む力
・組織が崩れそうになった時に立ち返れる力
がある。このことを知って集まるんだから、それだけで文化になる。
そんなチームってどんなんだろう・・・
と思って、この本を手にした。(前置き長すぎw)
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本の中で印象に残ったことは大きく3つ
1:ファンに愛されまくっていること
2:ライザップの社長、瀬戸さんの考え方
3:曺監督のブレない指導法
である。本の中では、2018年シーズンを振り返りながら、その時それぞれがどのように感じて行動していたかが繰り広げられる。ファン・フロント・現場、それぞれの物語が面白い。
1:ファンに愛されまくっていること
とにかくベルマーレを応援する中心にいる人たちは、
応援することのプロフェッショナルである
と感じた。
自分が応援して負けると、自分たちの応援のせいで負けたと本気で悔しがる。
応援のコールのタイミング、どんなチャントをどのタイミングでやると良いのか。
現場の人たちとの距離感。
何故ここまで本気になれるのか。
本を読んでいく中で感じたのは、
現場サイドが
スタジアムの雰囲気が選手を成長させるというのは間違いなくある
ということを強く感じており、
それをフロントもファンも共有できているからだと思う。
だから、試合はいつも自分ごと。
自分の応援が、サポートがチームの結果を左右すると思って、責任を持って一緒に戦っているんだなと思った。
それをお互いにわかっているからこそ、
ベルマーレの選手達はいつも応援してくれる人を大切にする。
↓
フロントの人たちはそういう場を作っていく。
↓
ファンの人たちはそんな愛を受けてもっと応援する
この循環がある。
ラグビー選手は比較的応援してくれる人たちとの距離は近い。近いからこそ、目の前の人にどれだけ感動体験を与えられるか。自分ごとのように応援してくれる人を増やせられるか。
現場・フロント・ファンの共通の思いが大きなパワーを生む。
2:ライザップの社長、瀬戸さんの考え方
ベルマーレは、2018年にライザップのグループ会社化し、経営面での頼もしい仲間が増えた。ライザップを親会社とし、ともに戦っていく。そんな決断に踏み切ったのが、代表取締役社長の瀬戸健さんである。
ライザップは、企業理念としてある、
「人は変われる。」を証明する
をベルマーレに投影している。
目標を設定しそれを実現させる。実現できるんだ、と示していく。
ただ単に目立って胸スポンサーをやるとか、そういったことに興味はなく、ベルマーレを通して、自分たちの企業理念、「人は変われる。」を証明することを実現していくのだ。
また、経営面を完全に乗っ取っていくのではなく、これまでのベルマーレの文化や歴史を一番に尊重している。外部から新しく仲間に加わる時に大事にすべきことだ。
それにより、ライザップという大きな会社のグループ会社となるとわかって、乗っ取られると不安に駆られていたサポーターも受け入れることができただろう。
ライザップの社長、瀬戸さんの考え方は、前に読んだ「MLSから学ぶスポーツマネジメント」より、アメリカのスポーツマネジメントに通ずる部分もある。
勝ち負けにこだわった投資をしているわけではない。サッカーを通して、勝利を目指す中で、もがいて苦しんで、乗り越えていくそのストーリーを提供したいと考えている。
現場はもちろん勝ちたいと思って日々のトレーニングに励むが、フロントが勝ち負け以外の伝えたい価値やメッセージを明確に持っているチームというのは、応援している人を勝ち負けだけで増減させない。それが、チームとして大きな土台になるから、長期的に見て強いチームになっていくのだなと感じた。
3:曺監督のブレない指導法
2018年に7シーズン目となる曺監督は、一貫して選手を育てるという指導法を貫いてきた。
だから、ベルマーレの練習は、きつい。
試合の前でも、他のチームは調整するようなタイミングでも、ベルマーレは普通に練習したりもする。
だが、冒頭にも話したが、ベルマーレには明確な選手選考基準というものがあり、ベルマーレに集まってくる選手達は、それがわかった上で、曺監督の指導を受けたいと思って集まってくるのだ。
そしてそれを実現させる曺監督の選手への愛も感じた。
感情的に何かを決断したり、発言したりしない。必ず何か裏付けや狙いがあってそう決断したり発言するのだ。
だから、選手達はその本質を知ろうとする。そこには、曺監督の育てたいという愛がある。
だから、どんなに厳しくても選手はついていくのかな。
でもこれってのは、選手と監督の強い信頼関係が成り立っていないと実現できないことだと思う。
そんな信頼関係を成り立たせるのが、チーム理念なのだなと思った。
チームの軸をわかって入ってくる選手やスタッフは、ある意味、それに共感できない人はいりませんよっていう壁を突破してきているわけだから、入ってきた時点で心が繋がっている部分が多い。
自分のラグビーの現場に転用して考えてみても、
やはりそういった理念は何よりも大事だと思うし、時間をかけて、自分たちがいなくなっても残るようなチームの心の軸のようなものを作り上げていかなくてはならないなと感じた。
きっとその過程で、今まで知らなかったチームメイトの一面を知ることもあるだろうし、言い合うこともあるだろうが、そんな中でチームの絆を深めていった時に、一つチームとしてレベルアップしていくのではないかと思う。
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本ひとつ、ベルマーレのほんの一部を知っただけだが、チーム作りの多くのことを学べた。
ということで、ベルマーレの試合を観に行こう。