地方の大学における選手勧誘の現状
本日は、選手勧誘(リクルート)についてお話をしていきたいと思います。
まず、選手勧誘の事について先行研究を調べてみました。
ある競技では、大学で優秀な成績を残すためには、その前の高校時代にある程度の実績が必要になる(青柳ら, 1990)。
また、高校時代に優秀な成績をあげた選手は、マスメディアなどを通して多くの者に認知され、多くの大学指導者が同時に勧誘することになる。そこでは選手側に大学を選択する権利が与えられることになり、選手にとって魅力ある大学が選択される(荒井,1993)。
さらに、一流指導者の指導する学校へは「選手が自ら加入してくる」よりも「指導者がスカウトする」場合が多く、中学と比較すると高校の指導者の方が「素質ある選手のスカウト」にエネルギーを費やしていることを述べています。故に、常に良い指導実績をあげるためには「素質のある選手の勧誘」は不可欠であり、この傾向は大学ではさらに顕著になることが容易に推察できると述べています(青木、1991)。
つまり、これからの内容からもわかるように、バスケットボールの世界だけではなく、各競技スポーツで試合を勝利するためには,高校時代に優秀な成績を収めた選手を獲得するために選手勧誘でどれだけ素材の高い選手を自チームに獲得できるか、できないかという問題は重要な位置に置かれていることが考えられます。
現在、大学男子バスケットボール界では、インターハイの上位チームあるいは常連チームになれば関東の大学関係者から声が掛かり、必然的に進学していきます。
そして、良い選手を揃えることが出来れば優勝にも大きく近づき,その後、将来的にBリーグの特別指定選手や契約選手などが保証されていると言っても過言ではないでしょう。
一方、地方チームの現状として、高校時代にインターハイに出場はしたが、関東から声が掛からなかった、関東でやっていく自信がない、地方の大学で一年生から試合に出場したいなどの理由から地方の大学へ進学する選手が集まる集団のように感じます。
また、私達のチームは、高校時代にインターハイに出場することが出来なかった選手や地区大会で上位に入ることすら出来なかった選手が集まります。
そして、地方の大学の大会は、関東の大会とは違いマスメディアの捉え方や注目度は、かなり低いもので、Bリーグのチームスタッフもそこまで地方の大学の大会に足を運ぶ事は、ほとんどありません。
要するに,私達のような地方の大学は、関東に行けなかった選手や自然に集まってくる選手を育成して勝利を目指すことはとても難題な事柄なのです。
この選手勧誘の問題は、タレント発掘とは全く異なり,即戦力選手をどれだけ確保できるのかという重要なチーム戦略の一つになってくると思います。故に,各大学において選手勧誘というチーム戦略は、激戦の様相を呈している(浅沼、1993)。
そのような現状で、どれだけ良い選手を勧誘することができるのか。これは、多くの地方の大学の競技スポーツ指導者が頭を悩ます問題だと思います。
私もその1人です。
私達のチームは、インターハイに出場した事のある選手は、数少ないのが現状です。大会競技成績で言えば、3年連続インカレ出場しているとは言え、まだまだ全国的にも知名度は低いものです。
荒川(1993)は、一般高校生が大学を選択する要因として、大学のイメージ、偏差値、学部の特色、通学の便、知名度、就職状況、大学の特色、受験科目、キャンパス環境、教授陣とカリキュラム、施設や設備、入学時期、学費の13項目をあげており、評価の観点がかなり多様であると言及しています。
つまり、その魅力や選択に関わる要因は一義的ではなく、あらゆる要因が関係していると考えられます。
また、選手勧誘も各大学内での推薦枠と言うのも決められていますので、この辺もここで大学への選手勧誘を考えた場合、誰に声を掛けるのか、どのくらいまでに返事を貰うのかというタイミングも重要になります。しかし、この時、選手とお話をできれば良いのですが、一昔前は、選手と話しをさせてもらうことすら出来なかった事実もありました。
例えば、ある県のインターハイ予選大会準決勝の試合を視察し、そこで私の理想とするチームに合っていると思う選手を見つけました。その選手の指導者は、面識もなかったので、挨拶を兼ねて試合後に会いに行きました。『うちの選手達は、みんな関東の大学、関西の大学志望だから無理やな』と名刺を渡した途端にそのような言葉が返ってきました。
また、ある高校の指導者からは、『九州共立大かぁー。うちの選手は絶対行かないと思う』と選手に声を掛けることすら出来ないことも多々ありました。
また『九州共立大です!九州の5位ぐらいですが、これから関東の大学に勝てるように強くしていきます。是非、お願いします』と言うと、『うちの選手は学力あるから、九州共立大は行かない。九州なら○○大学へ行かせる』と言われ、名刺もその帰りに捨てられている事もありました。
選手が大学を選択する前に、指導者が選択するのか。数年間は、この現実を受け止めることが出来ませんでした。
目線を変えた選手勧誘
悔しい気持ちもありました。
プロとして13年間競技実績を積んできましたが、指導実績はありませんので、仕方がない部分もあるかとは思います。
そこで、思った事は、『地方で埋もれている選手』です。これは、地区大会の1回戦から会場に足を運び、誰も目をつけていない選手の発掘です。
自チームは、強くないが個々の得点能力が高い選手、オフェンス能力は無いがディフェンスが上手い選手、インターハイ出場チームに劣らないバスケットボール技術がある選手、身体能力が高い選手、また、バスケ技術は無いが身長が高い選手を探します。
こういう選手に声をかけた時、大体は『僕ですか?いやぁ、大学でプレイする事は無理です。実績がないので』や『インターハイとか出たこともないので自信がありません』『普通に就職しようと考えてました』と言う言葉が返ってくることが多いです。
まず、そう言った選手から声を掛けてコツコツと選手勧誘をしていき、その時は『普通の原石』かも知れませんが、4年間で磨き上げて『ダイヤモンド』にしていく
要は、一流のタレント選手に目を付けるのではなく、『磨けば光る素材』の発掘に焦点を当てて選手勧誘を始めるようにしました。
しかし、まだまだ現実は厳しいものがあります。そう言った選手は、地方の大学チームも声を掛ける傾向があるので、来て欲しい選手が獲得出来ない年代もあります。しかし、諦めずに選手を求めて地道にコツコツと選手発掘を行う以外にないのです。
今回、選手勧誘に関して否定的な内容が多かったですが、『貴方が指導してくれるんだったら選手を預けるよ。関東の大学チームを倒してね』と言って下さる指導者の方もいますので、本当に感謝の気持ちしかありません。
まとめ
選手勧誘という重要な事柄を今後どのようにして改革していき、関東の大学チームに劣らない地方の大学チームを作るのか。以下のようにまとめてみました。
①インカレに出場して関東のチームを倒すこと
やはり、全国の舞台で関東の大学チームから勝利する事によって、得られる地方の大学の存在感が選手勧誘時にも必要になるので、やはり結果を残していかなければなりません。
②高校地区大会からの視察
県大会もしくは地区大会の一回戦から足を運び、『磨けば光る素材』の選手の発掘です。
③地方学生連盟における広告宣伝の充実
自チームを強くするだけではなく、学生連盟と連携して、広告宣伝の充実を図り、多くの方々が大会を観に行きたいと思うような企画作りが必要と考えます。
④高校指導者との連携
人と人との繋がりを大切にして、高校指導者とのパイプが重要になるので定期的なコミュニケーションを図ることであると考えます。
⑤Bリーグ関係者が視察できる大会やイベントの運営
数年前までは、全日本学生選抜大会が行われて、多くのBリーグ関係者が視察していたように、全国規模の大会やイベントの開催が必要と考えます。
以上、色んなことを考えるとまだまだ浮き彫りに色んな企画などが必要になってくるかと思います。
『地方チームからの挑戦!』『打倒関東!』
選手勧誘は、あらゆる要因が関与しているので難しい問題です。今後は、この議題を研究する余地がありそうなので、各高校や各大学の指導者にお願いしてアンケート調査などをしてみたいと考えています。
本日はここまで
次回は、何を書こうかと迷い中です笑。何か、ご希望する内容がありましたらご連絡下さい。検討させて頂きたいと思っています!
青木邦男(1991)「 一流ジュニア・コーチのコーチ・キャリアの特徴及び選手発掘・育成に対する意見」スポーツタレントの発掘方法に関する研究 第3報,日本オリンピック委員会選手強化本部,pp.23-30.
青柳領・小野沢弘史・堀安高綾・井浦吉彦・佐藤行那(1990)「柔道選手のスポーツ経験と競技実績の変化について」体育学研究,35(1):63-73.
荒井貞光(1994)「スポーツマネージメント企業と大学との関連」コーチングクリニック,3:83.
荒川進(1993)良い大学ダメ大学の研究,中経出版,pp.24-28.
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