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2024年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

2024年も、グローバルの音楽シーンは激的な動きの連続だった。先日、2月2日にロサンゼルスで開催された第67回グラミー賞授賞式の結果が、その激的さを物語っていたように思う。ついに、満を持して、ビヨンセが『COWBOY CARTER』で年間最優秀アルバム賞を受賞。また、ケンドリック・ラマーの”Not Like Us”が、年間最優秀レコード賞や年間最優秀楽曲賞を含む最多5部門を受賞した。これまでずっと主要部門と縁がなかった2組が、ついにグラミーの場で堂々たる賞に輝いた今回の授賞式は、後世から振り返った時、間違いなくターニングポイントの年として語られていくことになると思う。

ここでは、先日のグラミー賞における象徴的な結果を例として挙げたが、他にも2024年を象徴するイベントやムーブメント、2024年ならではのヒット曲が数多く存在する。このランキング企画を行うたびに毎回エクスキューズしているように、海外の全ての楽曲やムーブメントを一人でカバーすることは到底不可能なので、今回も予め記事のタイトルで断っているように、「僕の」個人的な観点から特に強く心を震わせられた10曲をセレクトし、短評をまとめた。決して2024年のシーンの全容を俯瞰的に総括するような内容ではないし、カバーし切れていない名曲も山ほどあるけれど、その前提の上で、この記事が、あなたが新しいアーティストや楽曲と出会う一つのきっかけとなったら嬉しいです。




【10位】
Geordie Greep 「Holy, Holy」

Black Midiの無期限活動休止を知った時は、悲しかった。ただ、ジョーディー・グリープがソロへ移行するという報せを受けて、そして、完成したソロデビュー作『The New Sound』を聴いて、思わず胸が高鳴った。特に、リード曲"Holy, Holy"が凄まじい。業火のように無数の音と言葉を放ちながら、過剰な熱量と共に過激なスピードで暴発していくスタイルはBlack Midiから継承されたもので、さらに今作の各曲には、ブラジルに渡ったことで手にしたブラジル音楽のエッセンスが随所に詰まっている。僕は2022年の年間ベストでBlack Midiのアルバム『Hellfire』の曲をセレクトしたが、今回のソロ作も唯一無二。最高に狂い散らかしているし、何より、果敢に大陸を越えていく彼の音楽的探究心の底知れなさに改めて驚かされた。


【9位】
girl in red & Sabrina Carpenter 「You Need Me Now?」

ノルウェー出身のシンガーであるマリー・ウルヴェンによるソロプロジェクト・girl in red。ビリー・アイリッシュの兄・フィニアスをプロデューサーに迎えてデビューアルバムを制作し、同作は世界での累計ストリーミング数が10億回を超える大ヒットを記録。2023年には、テイラー・スウィフトのツアー「THE ERAS TOUR」8公演に帯同してオープニングアクトを務めた。時代のど真ん中でパワフルにスケールアップを続ける彼女による、2作目の制作につきまとうジンクスを豪快にぶっ飛ばす新作『I'M DOING IT AGAIN BABY!』(もう一回やるよ、ベイビー!)が非常に痛快な仕上がりだったし、何より、2024年のフジロックのパフォーマンスもめちゃくちゃ痺れた。アルバムの中でも特に、2024年のシーンを席巻したサブリナ・カーペンターと共にド直球のロックをぶっ放す”You Need Me Now?”が最高。


【8位】
Fontaines D.C. 「Favourite」

ポストパンクバンドとして始動したFontaines D.C.が、レーベル移籍を経てリリースした最新アルバム『Romance』は、絶えず変化と進化を重ねてきた彼らのディスコグラフィーの中でもかつてないほどにアップデート感の強い一作となった。第1弾シングル”Starburster”が、少しずつ、しかし確実に熱き高揚をもたらす激渋なダンスロックナンバーだったのに対して、第2弾シングル”Favourite”は、全編に蒼きエモーションが滲む爽快なロックチューン。この振れ幅の大きさに驚かされるし、特に、後者が誇る普遍的なメロディのフレッシュな輝きが眩しい。2025年になってから公開されたフジロックの同曲のライブ映像を観て、その瑞々しいライブパフォーマンスに胸が締め付けられる思いがした。来日公演、とても楽しみ。


【7位】
Tyler, The Creator 「Balloon (feat. Doechii)」

最新アルバム『CHROMAKOPIA』。待望の新作にして、彼の最高傑作と称されるべき素晴らしいアルバムだと思う。タイトルに冠されている『CHROMAKOPIA』は、「Chronicle」(年代記)と、苗字の「Okonma」、そして、場所を意味する「pia」を組み合わせた造語であり、そこには「彩りの豊かさ」といった意味が込められているという。かつてないほどにパーソナルな手触りを感じさせる今作には、迷いながら、葛藤しながら、そして、様々な人々と交流しながら、「彩りの豊かさ」の中に自分なりの光を見い出そうとする懸命な歩みの跡が滲んでいる。カオティックでありながら、同時に洗練を極めていて、私的でありながら、壮大なスケールを誇る。2024年、僕が何度も繰り返して聴いた同作の中から、矢野顕子の楽曲”ヨ・ロ・コ・ビ”のループが散りばめられているカラフルな一曲"Balloon (feat. Doechii)"を選出した。


【6位】
The Last Dinner Party 「The Feminine Urge」

2021年にロンドンで結成された5人組ロックバンド・The Last Dinner Party。彼女たちの表現の全容が初めて示されたデビューアルバム『Prelude To Ecstasy』が、大傑作だった。インディーロックを軸に、ハードロックやグラムロック、クラシックの要素を大胆に掛け合わせた超重量級のアートロック。感覚としては、オペラや中世ヨーロッパを描いた映画を鑑賞している時の体験に近い。華麗で、毒々しく、ダークな世界観をベースにしながら、ドラマチックで、スリリングで、予測不可能な展開が容赦なく続く至高の音楽体験。ロックというジャンルが誇るダイナミズム、マキシマリズムを、2020年代のシーンにおいて最大出力で炸裂してみせた彼女たちの大胆な野心と的確な手腕に、全編を通して何度も深く驚かされてしまった。コーチェラのステージとフジロックのステージをそれぞれ配信で観たが、ライブパフォーマンスも本当に凄まじい。横一列に並ぶ5人の姿は非常に華があるし、何より、全編からライブバンドとしての野性を解き放つような並々ならぬ気迫を感じる。楽曲が素晴らしいだけでなく、ライブバンドとしても強い。本当に凄いバンドだと思う。


【5位】
The Smile 「Friend Of A Friend」

2024年、The Smileとして2枚のアルバムがリリースされ、来日こそなかったものの、海外では同バンドのツアーも敢行された。そうした動きを追う中で、今のトム・ヨークにとって、The Smileというバンドがいかにかけがえのないものであるかがよく伝わってきたし、だからこそ、The Smileとしての初来日を心待ちにしていたけれど、11月の来日時のツアーは、The Smileとしてではなく、トムのソロツアーとして敢行された。僕は、東京公演初日にあたる立川公演を観たのだが、このソロツアーがとても素晴らしかった。Radioheadの曲、ソロの曲、Atoms For Peaceの曲、映画のサウンドトラックの曲、そして、The Smileの曲。キャリアの全てを、たった一人で総括していくトムのしなやかなライブパフォーマンスは、様々な重責から解放されたような軽やかな余裕さを感じさせるもので、それぞれ異なる動機で始まった各バンド/プロジェクトの曲たちが、一つの壮大にして流麗なライブ表現へと編纂されていく展開は、息を呑むほどに美しいものだった。今、このツアーを行いたいと思ったトムのマインドは明らかに健全なものだと思うし、これまでのキャリアの点と点を線として結ぶことができた今回のツアーの経験は、間違いなく、やがて来たるRadioheadの新作の制作にポジティブなフィードバックを与えていくはず。2025年以降のアクションの方向性はまだ分からないけれど、2016年以来の新作を楽しみに待ちたいし、また、繰り返しにはなるが、やっぱり、The Smileとしての来日の実現も期待し続けたい。


【4位】
Linkin Park 「The Emptiness Machine」

2017年のチェスター・ベニントンの急逝という、胸を深く引き裂くようなあまりにも悲痛な出来事をもって、Linkin Parkは長きにわたり活動休止を余儀なくされた。チェスターの代わりなんていない。少なくとも僕は、そう思っていた。とても勝手ながら、Linkin Parkというバンドは、また、彼らが打ち立ててきた数々の偉業は、次第にロック史の一部になっていくのだろうと諦めかけていた。ただ、違った。新たなボーカリストとしてエミリー・アームストロングを、新たなドラマーとしてコリン・デブリンを迎え、2024年、Linkin Parkは新体制で再始動を果たした。近年のラップメタル/ニューメタルの再評価の動きとも合致し、バンドの復活は大きな注目と期待を浴びながらシーンから広く受け入れられた。かつての延長線上からリスタートするのではなく、新しいゼロ地点からまっさらな地平を開拓していく。エミリーの歌声は、今、ここから、メンバーと、そして私たちリスナーと共に新しい闘いを始めようと呼びかけるような揺るぎない響きを放っていて、その鮮烈な歌声に強く心を震わせられた。かつての再現ではなく、アップデートを目指し続ける。決して変化を恐れることなくキャリアを更新し続けたLinkin Parkらしい、最強のカムバックアルバム『From Zero』の誕生を、心から祝福したい。この数年、ロック復権の動きが確実に進んでいるが、Linkin Parkの再始動は、その潮流をさらにダイナミックに加速させる契機となるはず。2月の来日公演への期待が高まる。


【3位】
Billie Eilish 「BIRDS OF A FEATHER」

3年ぶり、3枚目のアルバム『HIT ME HARD AND SOFT』。ビリーとフィニアスにとって、キャリアハイを大きく更新する最高傑作だと思う。ビリーいわく、今作は、「これが本当の自分」「私そのもの」であるという。また、来日時には、「『誰かを喜ばせよう』という気持ち抜きで作ったのは、これが初めてだった」とも語っていた。全編に、時代のポップスター/稀代のポップアイコンといった重責から解放されたかのような晴れやかな自由さ、また、自分自身の内面を深く探求する果敢な冒険心が満ち溢れていて、過去2作と比べると、限りなくパーソナルな手触りを感じさせる。メインストリームの潮流や目まぐるしいシーンのトレンドに左右されることなく、今の自分自身を伝え抜いていく。そうした表現スタンスは、一人のアーティストとしての成熟の表れであり、迷い、葛藤しながらも、その歩みの中で深めてきた輝かしい自信と確信が今作には確かに滲んでいるように思う。今回は、このアルバムの中から特大ヒットを記録したシンセポップ”BIRDS OF A FEATHER”を選んだが、アルバム全体の流れ、つまり、”CHIHIRO”のアウトロから”WILDFLOWER”のイントロまでも含めた流麗な繋がりが、とても素晴らしい。僕にとって今作は、2024年を通して最も繰り返して聴いたアルバムになった。


【2位】
Bring Me The Horizon 「Kool-Aid」

毎年サマソニに参加しているけれど、Måneskinと共にBring Me The Horizonがヘッドライナーを務めた2024年のサマソニは、僕にとって特に忘れ難い2日間となった。真夏の夜のスタジアムを容赦なく揺らしていく重厚でラウドなサウンド。私たち一人ひとりの胸の内の孤独や切実な感傷に寄り添い、呼応するようにして熱量を増していくオリヴァー・サイクスの歌。それらが分かちがたく結び付いた渾身のロック表現を通して、次々と熱狂のピークを更新し続けていく超絶怒涛の展開。その狭間には、AURORA、BABYMETALとの共演というスペシャルな一幕もあった。そして、特に心を深く撃ち抜かれたのが、巨大ビジョンに現れた「プロジェクト・エンジェルダスト」との熾烈な戦いに、バンドと観客が心を重ね合わせて共に挑んだ”Kool-Aid”。深く胸を穿つ轟音。闇夜を切り裂くように鮮やかに飛翔する美麗な歌のメロディ。その壮絶な余韻、そして、終演後にビジョンに映し出された「BMTH JUST ROCKED MY WORLD」という言葉に滲む熱さが、あれから約半年が経った今も心に残り続けている。2024年は、彼らが敬愛するLinkin Parkが鮮烈な再始動を果たした年でもある。確実に、ニューメタルの、いや、ロックそのものの復権がダイナミックに進んでいるように思う。彼らには、そのムーブメントをこれからも力強く牽引し続けてほしい。


【1位】
Charli xcx 「Von dutch」

6月にリリースされた最新アルバム『BRAT』。6枚目にして、彼女のキャリアハイを高らかに更新する成功作になったし、何より、世のムードを大きく動かしたという意味において、2024年を最も象徴する超重要作となった。カマラ・ハリスがアメリカ大統領候補となった翌日、彼女は、SNSに「kamala IS brat」と投稿。「brat」は、クールでイケてるものを指すスラングであり、カマラ陣営は彼女の投稿を受けて、ハリス・キャンペーンの公式X/TikTokを通して、『BRAT』に共鳴する発信を行った。もともと「トレンドから外れた色だから」という理由で選ばれたアルバムジャケットのライムグリーンは、ブラッドカラーとしてミーム化し、結果として、2024年の最もアイコニックなクリエイティブとなった。一連の動きが一大現象と化す中、彼女は、結局最後まで支持政党を明確に表明することのないまま(そもそも彼女はイギリス国籍なので、アメリカ大統領選挙の選挙権を持っていない。)、自ら「Brat Summer」の幕を閉じた。ただ、『BRAT』に収録されたほとんどの楽曲が、「女性」の生き様や心境、心情をテーマとしたものであることを踏まえれば、彼女の意図と意志は自ずと浮き彫りになってくるように思う。夏を越えて、2024年のシーン全体を席巻した『BRAT』現象。それは、音楽作品という表現形態を超えた、世の中全体を瞬く間に巻き込んでみせた壮大なアートであり、あまりにも大胆不敵なムーブメントであった。作品そのものの素晴らしさは言うまでもなく、同作の、そして彼女の世の中を動かす力に強く驚かされたし、可能性を感じた。しかし、アメリカ大統領選挙の結果はトランプの圧勝となった。次の4年、ポップ・アーティストたちの闘いに注目と期待をし続けていきたい。


2024年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

【1位】Charli xcx 「Von dutch」
【2位】Bring Me The Horizon 「Kool-Aid」
【3位】Billie Eilish 「BIRDS OF A FEATHER」
【4位】Linkin Park 「The Emptiness Machine」
【5位】The Smile 「Friend Of A Friend」
【6位】The Last Dinner Party 「The Feminine Urge」
【7位】Tyler, The Creator 「Balloon (feat. Doechii)」
【8位】Fontaines D.C. 「Favourite」
【9位】girl in red & Sabrina Carpenter 「You Need Me Now?」
【10位】Geordie Greep 「Holy, Holy」



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松本 侃士
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