夾竹桃の花⑥ 私服
夏休みを早めに切り上げてアパートに戻った。しかし、前期試験の準備で朝早く出かけ、夕方遅く帰ってくる。彼女を見かけることはない。しかし、彼女は2階の部屋のカーテンを開けていることが多くなっていた。
夏休みの後、前期試験があり、まもなくして後期が始まった。
一般教養の理系科目で、必須ではないが、任意で行う観察課題がでた。鳥が好きだったので、鳥の観察記録をテーマにした。鳥の観察を続けながら講義をこなしていった。秋も深まっていた。
講義の課題が多くなり、夜遅く帰宅し、明日の準備に取りかかった。鳥かごを取り込むのを忘れていた。翌朝、カーテンの開くのを待っていたかのように、彼女は大きめの画用紙のパネルをアパートに向かって示した。
画用紙パネルには「鳥がかわいそう。」と書いてあった。
鳥をすごく気にしている様子だった。
拓は帰りに学生生協に寄り、大きめの画用紙とマジックペンを手に入れた。
彼女は鳥を気にしていた。鳥に関する注文を画用紙パネルで出してくる。それに機会を見つけては応えていく。
秋も深まった頃、「明日の日曜日買い物」という画用紙パネルが窓に張られていた。
付いてきてという告知らしかった。「OK」と出すと、時間を知らせてきた。
示し合わせたように部屋のカーテンを閉める。
最寄りの電停に向かって歩き出すと、後ろから早足で追いつかれたが、黙々と並んで歩いて行く。
電車に乗り込むと、彼女が先に座り、隣に座るように促す。電車が混んでいたので、隣に座ったものの、彼女の体温が感じられるほど窮屈だったので、胸が高鳴った。
革屋町本通りを歩いて行くと、
「ちょっと待っててね。」
と言い残してビルの中に入っていった。
しばらくすると、紙袋を持って店から出てきた。
「お好み焼き、行きましょう。」
彼女に促されて付いていく。広島にはお好み焼き屋が多い。後のことだが、「ウニホウレンソウ」(略してウニホウレン)という料理があり、「ウニクレソン」というバリエーションがあり、このときのことを思い出したりする。
行きつけのお好み焼き屋なのか、注文がこなれている。
「家族でよく来るの。」
問わず語りに応える。
家に帰ると、促された。
「後でカーテンを開けててね。」
彼女の部屋のカーテンが開き、新しい服に着替えた彼女がクルリと回り、すぐカーテンを閉めた。
遠目でも、拓は一瞬ドキッとした。新しい服の彼女の残像がクルリと回る。
---続く