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三竹士・外伝:門松を削ぎ落す

わかじぃは竹林の整備に余念がない。定例の整備の日だ。いつも数名で整備するのだが、一足先に、竹が乱れ立つ箇所を巡視する。
(今日は気が逸る)
独り言ちながら、倒れた竹を力強く踏んでしまった。竹林に反動が起こった。

わかじぃが避ける間もなく、7,8本の竹が順序良く倒れてきた。1本、2本、3本の竹が倒れて来た時には、わかじぃは竹の下敷きになっていた。わかじぃは立ち上がってこない。朝の夜露の霧がほのかに漂っている。

わかじぃの頭をニューロン信号が走り回る。

わかじぃは門松を準備していた。

「昔は松の枝葉だけ飾っていたんだが、・・・」

あけみが傍で手伝っている。「そうなんだ」

わかじぃはせっせと「大門松」(おおかどまつ)を仕上げていく。昨日、皆で竹を準備していた。※普通、門構えのしっかりした家に飾られている。

「さぁ、できた」

竹の先端部が尖らず、竹は寸胴(ずんどう)だった。

「あれっ、先端部がそいでない」

あけみが訝しげに見る。

門松には、竹の先端部を、斜めに切った「そぎ」と、真横に切った「寸胴(ずんどう)」の2種類がある※こちらが従来もの。
徳川家康が「三方ヶ原の戦い」で武田信玄に負けた戒めとして、竹の頭を斜めにそぎ落としたのが始まりと言われている。

Wikipedia

「今は削いだ方が多いわ。「ソギ」にして、格好がいいわ」

強請られると弱いわかじぃ。

「待ってろよ」

わかじぃは研ぎ師・ヒデに刀剣を研いでもらっていた。

準備万端、気合も万端、居合抜き一閃。門松の竹は先端を削ぎ落された。キレイな切り口だ。あけみが手を叩いて喜ぶ。併せて6本の切り口が香り立つ。あけみが目を閉じ、香りをかぐ。その風情がたまらなく愛おしい。

わかじぃが身体を揺すられて目を開ける。朧なまなざしで、わかじぃを気づけさせた女を見る。

「あ・・あけみ」

あけみが微笑んだように見えた。しかし、返って来た言葉は、故意に発する。

「ぼぉーっとしてんじゃねぇよ」

皆はわかじぃの顔色を見て、心配などしていなかった。ちょいと打ち所が絞られていたのだろう。わかじぃは咄嗟に受け身姿勢を取っていた。しかし、 いつもと違う表情のわかじぃ。笑いに包まれる中、わかじぃは休憩するために詰め所に戻った。

宇治茶を啜りながら※、あけみの古典的な美しさを思い浮かべていた。茶の湯気がほのかに揺れていた。