三竹士・外伝:門松を削ぎ落す
わかじぃは竹林の整備に余念がない。定例の整備の日だ。いつも数名で整備するのだが、一足先に、竹が乱れ立つ箇所を巡視する。
(今日は気が逸る)
独り言ちながら、倒れた竹を力強く踏んでしまった。竹林に反動が起こった。
わかじぃが避ける間もなく、7,8本の竹が順序良く倒れてきた。1本、2本、3本の竹が倒れて来た時には、わかじぃは竹の下敷きになっていた。わかじぃは立ち上がってこない。朝の夜露の霧がほのかに漂っている。
わかじぃの頭をニューロン信号が走り回る。
*
わかじぃは門松を準備していた。
「昔は松の枝葉だけ飾っていたんだが、・・・」
あけみが傍で手伝っている。「そうなんだ」
わかじぃはせっせと「大門松」(おおかどまつ)を仕上げていく。昨日、皆で竹を準備していた。※普通、門構えのしっかりした家に飾られている。
「さぁ、できた」
竹の先端部が尖らず、竹は寸胴(ずんどう)だった。
「あれっ、先端部がそいでない」
あけみが訝しげに見る。
「今は削いだ方が多いわ。「ソギ」にして、格好がいいわ」
強請られると弱いわかじぃ。
「待ってろよ」
わかじぃは研ぎ師・ヒデに刀剣を研いでもらっていた。
準備万端、気合も万端、居合抜き一閃。門松の竹は先端を削ぎ落された。キレイな切り口だ。あけみが手を叩いて喜ぶ。併せて6本の切り口が香り立つ。あけみが目を閉じ、香りをかぐ。その風情がたまらなく愛おしい。
*
わかじぃが身体を揺すられて目を開ける。朧なまなざしで、わかじぃを気づけさせた女を見る。
「あ・・あけみ」
あけみが微笑んだように見えた。しかし、返って来た言葉は、故意に発する。
「ぼぉーっとしてんじゃねぇよ」
皆はわかじぃの顔色を見て、心配などしていなかった。ちょいと打ち所が絞られていたのだろう。わかじぃは咄嗟に受け身姿勢を取っていた。しかし、 いつもと違う表情のわかじぃ。笑いに包まれる中、わかじぃは休憩するために詰め所に戻った。
宇治茶を啜りながら※、あけみの古典的な美しさを思い浮かべていた。茶の湯気がほのかに揺れていた。