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大企業からスタートアップに転職し3年がたったお話

はじめに


2020年4月1日に10Xへ入社してから、丸3年が経過しました。

3年と言えば、中学校・高校であれば卒業、小学校であれば低学年から高学年へと変わる節目のタイミングです。私が10Xへ入社したタイミングで保育園へ入園した長女は、今日から幼児クラスです。

長女はこの3年で身長が31センチ伸び、体重は8kg増え、言葉を話せるようになり、自転車に乗れるようになり、妹ができました。彼女の成長ぶりを見て「はて、自分は何が変わっただろうか」と思いを巡らせています。

3年ぶりに転職の際に書いたブログを読み返してみると、当時の私は自分のキャリアプランを以下のように描いていました。

29~35歳: 事業開発のプロフェッショナル
事業を創る当事者として、更なるスキルアップ、スピード感、裁量を感じられる職場で自分を磨く。その結果、事業開発のプロになる

3年前の転職時に描いたキャリアプラン

果たして、自分は事業開発のプロになれているでしょうか?商社で働いていた時に感じていた”漠然とした不安”は今どうなっているでしょうか?これらについて、主観と客観を織り交ぜながら書いてみたいと思います。

結局いつも通り長い文章になってしまったので、時間がない人のためのTL;DR

  • この3年で”大企業向け事業開発”が自分の強みと言える程度にはなってきた

  • 商社時代に感じていた”漠然とした不安”は、スタートアップでの経験によって希望に変わってきた

  • とはいえ、スタートアップへの転職って運もある。自分は運にも恵まれた

  • スタートアップで実力を付けたいと思い低いポジションから入ったのが良かった

  • 周りがどうこうじゃない、自分に向き合うマインドセットにシフトできたこと、それが大きかった

“大企業向け事業開発”というタグ


10Xは小売チェーン(スーパーやドラッグストア)向けのECを垂直立ち上げするプラットフォームであるStailerというサービスを提供しています。メインの顧客は売上が数千億円規模におよぶ大企業です。

この3年、自分は一貫して大企業の食品スーパー/ドラッグストアに向き合い、既存のEC事業の刷新や新規事業の立ち上げ提案、導入後の事業成長支援を行ってきました。今も某大手のネットスーパー事業に10X側の事業責任者として取り組んでいます。

“数十人のスタートアップが、大企業向けにECの基幹システムを導入し、一緒に事業を伸ばすために伴走する”、よく考えるとこれ自体が稀有な環境であり、この3年はかなり濃い経験が詰まっていたように感じます。

日本は大企業の多くは、基幹システムの開発を内製化せず、SIer(NRI、NEC、富士通などの大手ベンダー)に任せているケースが多いです。
そんな中で、部分的なSaaSの導入ではなく、基幹システムをスタートアップが担うという事例はあまり多くありません。ベンチマークとしては、今はスタートアップと呼べる規模ではなくなりましたが、SalesforceやWHIなどが近い存在だと言えるかもしれません。

更に、多くの小売チェーンにとって”EC”は未知の世界。これまで数十年培ってきた店舗型ビジネスとは勝手がまるで違います。
そういった環境において、10Xに求められるのは 1)小売のあるべき未来を描き2)顧客の潜在的なニーズとその未来を重ね3)10Xと一緒にその未来に向かってチャレンジする意思決定を引き出し4)成功に向けて徹底的に伴走すること、です。

この過程で得られた学びの多くは”大企業向け事業開発”というタグで抽象化・汎用化させられるものだということに気づきました。

私はこの3年で大企業むけ事業開発を経験し、それを強みと言える程度まで磨いて来れたのかなと感じています。まだまだ”事業開発のプロ”と呼べるほどの実力はありませんが、少しずつ目指すべき場所への階段は登れているのかなと。

自分も知らないところでこんな記事にもしていただいていたので、一応貼っておきます。

元々はこのブログの中で、”大企業向け事業開発”でこれまで学んできたことを紹介しようと思っていました。しかし、多分このペースで行くと超大作になってしまうので、書きたかったことを箇条書きにしておいて、詳細はまた今度切り出して書くことにします。

📌 大企業向け事業開発の学び13選
- 顧客との期待値は、放っておくとズレ続ける
- 大企業が相手だからといってした手に出ても何も解決しないし、実は相手もそれを求めていない
- 相手から学ぶ姿勢を持ち、その学びを真摯に事業・サービスに活かす
- 率直/厳しいフィードバックをもらえるかが信頼/期待の尺度になる
- 顧客が”本当に”求めているものは、意外と見えていないし解像度も低いことを認識する
- 自社が相対的に価値を出せるギャップを見逃さない
- ソフトウェアを提供するQCD(Quality, Cost, Delivery)のバランスは永遠の課題
- 契約条件の曖昧さを残すべきフェーズとそうでないフェーズがある
- 現場は宝、そこに本質が詰まっている
- 意思決定を引き出したければ、先方の社内力学を彼らよりも理解する
- 抽象(経営)と具体(担当)を素早く何往復することで、事業への解像度を高める
- 事業への解像度がものをいう。自分に視線を集められるかを意識する
- 自社サービス/プロダクトは客観的に評価する

“漠然とした不安”は”未来への希望”に


“大企業向け事業開発”というタグを持てたとはいえ、所詮それは自分が勝手に付けただけのものです。まだ目覚ましい結果を残したわけではありません。

しかし、商社時代に感じていた”漠然とした不安”はいつしか消え去っていました。なぜか?それは、この3年間で自分が積み上げてきたもの、がむしゃらにやってきた経験そのものが、血となり肉となり、”この状態なら生きていける”と思わせてくれているからだと感じます。

よく「なぜスタートアップに転職する意思決定をしたのか?」という問いをいただきますが、私は一貫して同じ答えをするようにしています。

商社のような大企業は豪華客船。一流のジムが整備されていて美味しいご飯も食べられる。沈没するリスクはほぼゼロ。そんな環境でトレーニングすれば美しい身体を手に入れられる。しかし、もし仮に船が沈んだら、自分の運命を自分でコントロールすることはできません。

一方、スタートアップは小舟。自分の手でオールを漕ぎ、荒波に飲み込まれ死んでしまうリスクに晒されながら毎日を生き抜く。運よく生き延びれば、自分の好きな方向に自在に進むことができます。

3年前、豪華客船の中で船がいつか沈むかもしれないというコントロールできない不安を抱えていた自分は、小舟を漕ぎ出しなんとかこの3年生き延びました。この環境で生き延びれるなら、きっとどんな環境でもやれる、そんな根拠のない自信を手に入れた気がしています。

自分の未来がどうなるか、はあまり考えないようにしてきました。考えてもわからないし、その時にベストだと思う決断をしたいからです。ただ、未来がどうなろうと、希望ある未来になる/できるという思いを持てていること自体が、嬉しい事実だと思っています。

スタートアップへの転職は運もある


ここまで、あたかも自分のスタートアップ人生が自らの力によって切り開かれたかのようなことを書きました。実際は、運が良かった部分も大いにあるあると考えています。具体的には、3つの運に恵まれました。

  1. 事業が成長し、常にチャレンジングな機会を与えられ続けてきたこと

  2. 10Xに巡り合ったタイミングが、これ以上ないベストなタイミングだったこと

  3. 一緒に働く仲間が優秀かつ人間的に素晴らしいこと

1つ目は自明で、事業成長はマクロ環境やその他の要因も含めて不確実な要素が多い中で、10XのStailerは幸いにも多くの小売企業から支持され、事業機会が拡がり続けています。事業機会の拡張無くして成長機会を得ることはとても困難です。

2つ目、これは私が当時10人程度の10Xに入社したからこそ、広範にわたってものごとを吸収し、様々な経験ができたことを指しています。今や120人規模になった組織において、かたや大企業の経営陣に提案し、かたや採用責任を担い、かたやソフトウェアのテストケースを作り、かたや現場でキャベツの数を数え、、、”事業を成長させる”ために必要なことを考え行動することをひたすらに繰り返してきたこと、これ自体に価値があったと思っています。

3つ目、実はこれが一番大きいと感じていますが、”誰と働くか”は想像以上に大きなインパクトを与えてくれました。私のブログにも度々登場したMcknsey出身の田村さんを始め、人間的魅力があり常に学びを提供してくれる同僚と働けていることが、成長という観点では大きかったと思います。

スタートアップで成長したいなら潜る時期が必要

これからスタートアップへの転職を考えている人や、今スタートアップで結果が出ずに苦しんでいる人のために、僭越ながら私が考えるスタートアップで成長するためにやって良かったことを書き留めておきます。

それは、”期待値を高く設定しすぎず下から成果を積み上げるべし”です。

スタートアップに転職する理由は、人それぞれ色々あると思います。実力を付けたい、大きなことを成し遂げたい、伸びているスタートアップの流れに乗りたい、タイトルが欲しいなどなど。それ自体は個人の自由で良い悪いはないと思います。

仮に”実力を付ける”ことを目的にスタートアップを選ぶ場合は、入社時の期待値調整が重要だと考えています。端的に言えば、無理に背伸びして高い期待値で入社しても、あまり良いことはないというのが言いたいことです。

スタートアップで働く上で最も大切なこと、それは事業に向き合う時間を限りなく長くし、それ以外のことはマインドシェアから排除すること、というのが持論です。これを実現する上で、自分の期待値がどこにあるのか、それに対する評価がどうで、周りにどう思われているのか、などを考える時間は無駄になります。

どれだけ濃密に事業へ向き合い、一つ一つ答えを出していけるか。この繰り返しが小舟で一生懸命オールを漕ぐ作業であり、スタートアップで働く一番の醍醐味だと思います。

実際、私自身は入社当初、5段階ある社内グレードの下から2番目(当時は最下層)で入社しました。当時は少し悔しい気持ちもありつつ、「この環境で自分がちゃんと積み上げていけたら、それを超える人はそう簡単には現れないはずだ」と言い聞かせていたことを鮮明に覚えています。

過去の失敗が糧になっている


だいぶ長くなってしまったのですが、、もう少しだけお付き合いください。

私は幼少期から本気でプロサッカー選手になりたいと思って練習していました。しかし、11歳でJリーグの下部組織に入ってから、”自分が監督にどう評価されているのか”が気になるようになり、ミスを恐れてプレーするようになってしまいました。その結果、”サッカーを上手くなりたい”という最も大切な感情を失ってしまうという失敗を経験しました。

本当はサッカーが好きで、ただただ上手くなりたいだけのはずなのに、練習することが義務に感じ、周りの目ばかり気にしていました。

スタートアップに転職する際、自分の心に決めたこと、それは”他人がどうとか、周りがどうとかじゃなく、毎日自分と向き合って、楽しく納得いくまでやっていれば、きっと結果はついて来るはず”ということでした。この気持ちを忘れずに続けてきて、環境も自分を後押しし、直向きに登ってきた山は、まあそこそこ高いところまで来たかな、と感じています。

ただ、登るべき山はまだまだ高く、これからもただ上だけを見て登っていきたいと思っています。

以前、似たような話をブログに書き留めているので、もしお時間あれば覗いていただけたら嬉しいです。

3年後の自分へ


先日CFOの山田さんと話していた時にポロッと「やっぱりしゃがむ3年+3年の6年くらいかけて目に見える成果を作っていく、それくらいの時間軸だよね」と言われたのがずっと頭に残っています。

特に未来のことを考えるつもりはなかったものの、今が折り返しなのかと思うと色んな感情が湧いてきました。これから3年どんなことが待ち受けているかは分かりませんが、3年後には胸を張って「私は自分の手で世の中に価値を届けられます」と言えるようになりたい、その思いは強く持ち続けて走り続けたいと思います。

この4月から次女が保育園へ入園、妻は仕事へ復帰します。また家族にとっては新しい生活、着実に年を重ねています。年々短くなる春を楽しまなくちゃ、ということで今週末はお花見に出かけたいと思います。

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