信頼は生き物 〜獲得ではなく育むもの〜
最近、仕事やプライベートで信頼について考えることが多い。理由は3つ。
- 自分のせいである人からの信頼を失ってしまう経験をしたから
- 取引先から信頼を感じる瞬間があったから
- 自分が信頼していた人から裏切られたと感じることがあったから
人と何かをするうえでは、信頼関係を築くことがなによりも重要だ。ことさら僕が担当している事業開発というロールでは、社内外の人から信頼を得なくては高いパフォーマンスを発揮するのは難しいと強く感じている。
「信頼を獲得する」というフレーズは普通に使われる言葉だが、個人的に信頼は獲得するというより、育むものという意識が強い。
信頼は深めたり失ったり、常に生き物のように変化するから扱いが難しい。一方、人との信頼関係の作り方には正解がないから面白く、それが楽しめなければ人生もったいないとも思ったりする。
なぜ信頼が重要なのか?
世の中自分一人で全てのことが解決できて、周りに頼る必要がなければ信頼は必要ない。しかし、生きていて一人で全て完結することなどほとんどないし、人と協力することでより大きな成果を生むことはたくさんある。
他人に何かを委ねたり、自分が他人から何かを託される際に必要なのが信頼であり、信頼関係があるから互いの力を補完しより大きな成果を出せる。これは仕事でも家庭でもスポーツでも、全く同じだと思っている。
では、信頼はどうやって育むのだろうか?僕は大切なことが3つあると考えている。
1. 相手の期待値を”正確”に理解する
2. 言動を一致させる
3. 誠実である
相手の期待値を”正確”に理解する
人と信頼を育むためには、相手の期待に応える必要がある。相手の期待に応えるためには、相手が何を期待しているのかを理解しなくてはいけない。
自分は精一杯相手の期待に応えているつもりでやっていても、なかなか相手に信頼してもらえない場合、そもそもその頑張りが相手の期待するものではないケースは往々にしてある。
10XのBizDevとしてStailerというサービスの事業開発をする際も、商談の初期フェーズではまず相手の期待値を”正確”に理解することから始める。
例えば、自社でネットスーパーを運営しているA社さんから「システムが老朽化したので刷新したい」という依頼を受けたとする。この場合、相手の期待値はシステムの刷新である、と考えるのが普通だ。
しかし、相手の課題を深堀りしていくと「システムの老朽化」は一つの顕在化した事象に過ぎず、サービス設計やオペレーションなど事業全体の改革が必要だとわかった。この場合、A社の本当の期待値は「ネットスーパー事業の変革」となる。
相手が期待すること = 相手が話すこととは限らず、むしろ本当の期待は見えていないことの方が多い。それを見える化しお互いの期待値を擦り合わせる、これが事業開発におけるファーストステップだ。
もう一つ、少し違う類の例を挙げたい。
ある家庭の奥さんはいつも旦那に「共働きなんだからもっと早く帰ってきて欲しい」と言う。旦那は「早く帰りたくても仕事が終わらないから難しいな」と心の中では思いつつ、妻の期待に応えなくてはという思いで無理して仕事を切り上げて帰ろうとするが、なかなかうまくいかない。そうこうしているうちに、子供が産まれて以降夫婦間の関係がギクシャクしてしまった。
ある日、夫婦間で時間を作って話し合った。結果、奥さんの本当の期待は「早く帰ってくる」ことではなく、「子供との時間を大切にして欲しい」や「家事の負担を私に押し付けないで欲しい」であることがわかった。
旦那は仕事柄どうしても早く帰れないことが多いことや、自分も子供との時間は大切にしたいことなどを説明した。そして代替案として朝に子供との時間を作ることと家事を一通りやることを決めた。その結果、奥さんと期待値調整ができて夫婦関係が改善した。
どちらのケースでも、相手の期待値を正確に理解するために大事なのはコミュニケーションの深さだ。初対面のクライアントでも夫婦間でも、相手との対話を通じて本質的な課題を探しにいく、これが信頼を育むの第一歩だと思う。
言動を一致させる
相手を信頼できるか判断する際、その人が言っていることだけで判断するのはとても難しい。
逆に相手の行動が自分の期待値を上回っていれば、信頼を寄せる強い判断材料となるだろう。これは「言うは易し行うは難し」ということわざの通り、口では言うのは誰でもできるがそれを実際に行動で示すのは簡単ではないからだ。
10Xでは採用プロセスの中に「トライアル」というステップを設けている。これは、一定期間採用候補者と社員が一緒に働いて、カルチャーフィットをお互いに確かめることを目的としている。トライアルを行う理由の一つにも、面接で話すだけでは深く相互理解することが難しいという背景があったりする。
冒頭で書いた通り、僕は最近自分のせいである人の信頼を裏切ってしまった。その理由は、自分自身の言動を一致させられていなかったことが原因だと思っている。
ここで詳しい内容は書かないが、なぜ言動を一致させられなかったのかに少し触れておきたい。
端的に言うと、自分自身の弱い部分や課題にしっかり向き合わず、見てみぬフリをしていたことが原因だった。「自分はこれくらいできるであろう」という自己認識と現実の間にギャップがあったことで、口で話していることと実際の行動にズレが生じ、それが結果として相手の信頼を裏切ることになってしまった。
ベン・ホロウィッツ著の『WHO YOU ARE』でも、行動の重要性について著者はこう書いている。
“リーダーの本当の価値観を反映するものでなければ文化は定着しない。ただの耳触りの良い言葉は文化にならない。なぜなら、リーダーの行動によって、つまりリーダーが手本となることで文化は造られるからだ。”
言動を一致させるためには、まず自分自身を良く理解し、特に自分の弱い部分や足りない部分から目を背けずに取り組むこと。この姿勢が相手に伝われば、それが信頼を育む大切な要素の一つになると思っている。
誠実である
誠実であることは当然だと考える人が多いかもしれない。しかし、自分を信頼してくれている人、特に身近な人への誠実さを保ち続けることができている人は、意外と少ないように感じる。
タイトルにもあるように、信頼は生き物と同じで絶えず変化する。絶対的信頼などあるようでない。Aさんとは深い信頼関係を築けているから少しくらい誠実さが欠けてもよい、なんてことはあり得ないのだ。
今自分が一緒にお仕事をさせていただいているパートナー企業さんは、皆さんとても誠実な方々だと日々感じている。
相手の誠実さが心に響くほど、自分自身も相手に誠実な態度を取らなくてはいけないと強く思わされる。こうしてお互いが歩み寄ることで、両者(両社)の信頼は育まれていくものなのだと思う。
身近な人へほど誠実な態度で接すること。人によって態度を変えないこと、この2つは常に胸にしまっておきたい。
おわりに
今年の冬、両親からシクラメンの鉢植えをもらった。寒い冬にひときわ綺麗な花を咲かせてくれる、あのシクラメンだ。
もらった鉢植えを特に何も考えず室内に持ち込み、陽があたらない暖かい場所に置いた。最初の1週間くらいは綺麗な花を咲かせてくれていたのだが、次第に元気がなくなり、花は枯れて葉も萎えてしまった。
慌ててシクラメンの育て方についてググると、育て方が全く間違っていたことに気づいた。慌てて鉢植えを陽のあたりの良い玄関先に出し、こまめに水をやって今は少しずつ回復してきている。
シクラメンは冬の植物なので、寒さには強いが陽当たりと水分のコントロールが大事だったのだ。
僕は彼(シクラメン)を期待通り育てることができず、それどころか彼の期待をちゃんと調べようともせず危うく枯らしてしまうところだった。
植物ひとつまともに育てられない人間に、人と信頼を育むことなどできるわけがないだろ!という自分への喝も込めて。
2月から会社には新メンバーが加わる。一緒に働くことをとてもワクワクしているし、これから深い信頼関係を育んでいけたらと思っている。