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折坂悠太 「呪文ツアー」に行ってきました
初めて折坂さんのライブを観たのは2023年の「らいど」。あまりに感動してすぐに朝霧JAMのチケットを購入し、バンド編成のライブも観ました。この4月には「あいず」ツアーにも参加しました。今回で折坂さんを観るのは4回目でしたが、過去一と言ってよいほど、本当に素晴らしいライブでした。
band編成について
基本的に、歌とギターに、ドラムとコントラバスの3人で曲が成立しています。Senoo Ricky さんのドラミングはダイナミクスというか表現力が豊かだなと、ライブに行くたびに思います。たしかにリズムを刻みつつ、あくまで曲を邪魔しない具合が素晴らしいです。そしてコーラスの加減も抜群!コントラバスは宮田あずみさん。個人的には粒が揃っていてラインがはっきりしているエレキベースの方が好きなのですが、今回は音響のおかげもあってか、しっかりと聞き分けることができて良かったです。
そこに色を添えるのが山内弘太さんのギターと、ハラナツコさんのサックス/フルート。ただし、この2人は飛び道具的な立ち位置になります。ギターに関しては、いわゆるリードーギター的な役割というよりは、音のレイヤーとノイズ担当という感じ。粒のはっきりした音を出しているのは”スペル”と”トーチ”くらいで、あとはひたすらに謎の音を作り続けているという職人ぶり。この日はコントラバス(?)の弓でギターを弾くなど、Jonny Greenwood感もありました。サックスは”夜香木”や”夜学”のように主旋律を演奏することも多々ありましたが、歌とかけ合わさるストリングス的なふくよかなフレージングが多かったイメージでした。
正直に言って、これまでband形態のライブは良くも悪くも奏者の個性が強すぎて、うまく噛み合っていないのではないかと感じていました。しかし今回、ハラナツコさんが加わったことで、グッと完成度が高まったような気がしました。
MCでは「毎回演奏が違うのがライブ」「今日だけの演奏をお届けします」という決意表明が印象に残りました。その言葉の通り、録音を聴いているだけでは味わえない奏者の気持ちの乗った音の一つひとつを、ひしひしと浴びることができた特別感あふれる一夜でした。
歌詞について
私の話はぼんやりとして、わかりにくいだろう。でも、いつもそちらを向いている。
昨年出版された詩集の、冒頭エッセイにある言葉です。MCでも「私の歌はわかりにくい」ということを告白していた折坂さん。
すでに何度か書いていることですが、日本語の詩を避けてきた私にとって、歌詞を解釈することはやはり難しいことです。でも、嫌いではなくなってきました。分からないなりにウンウン考えて、そのときのモヤモヤを頭に入れておいて、日常のふとした体験の中で一瞬だけ意味の本質に触れるというか。そういう感動を味わうことができるようになってきました。
分業化と効率化が進み「コスパ」「タイパ」が重視される昨今。「わかりにくさ」は避けらる傾向にあると日々感じます。でも、音楽をはじめ芸術の役割の一つが、そこに一石を投じること、待ったをかけることだと思っています。共感を得られなければ売れない、そんな時代に、自分の信念を貫いて表現活動をする折坂悠太は本当に信頼に値する人物だなと思います。このことについては、またいつか別の記事にまとめられればと思います。
そんなことはさておき、また感想を書いていこうと思います!
当日の感想
アルバム同様、1曲目は"スペル"。アカペラからスタートして、すぐにバンドのアンサンブルが入ってくる、その一音ですぐに折坂世界に引き込まれました。会場の雰囲気(色?)にもマッチしていて、1曲目として最適だと思います。「ねえ明かりは〜」のBメロがこの先の展開への期待をもたせ、サビへ。「強さで」で照明がパッと点く。音のタイミングと合わせた心地良い演出でした。そして後ろから照らされることで、折坂さん以外のメンバーの衣装が黒色であることに気づく。後ろから照明を焚くと、みんなはシルエットのように見えるので、白いシャツを着た折坂さんが際立つように見える。これも良い演出!(単純) とにかく、ステージングが丁寧に行われている感じでした。そして最後にアウトロのギターが爆裂するところがかっこいい!!
続いて"坂道"。いきなり来た!この曲好きすぎて自然と、そしてすでに涙が流れます。ピアノがないからか、アルバムバージョンと違ってガチャガチャしてないというか、ゆったりしたアレンジ。そして初サックス。これがめちゃいい!ストリングスのパートを拾いつつ、都会的な仕上がりでした。この曲は「細く暗い道に出る」という歌詞にグッときます。大抵の場合、こういう曲では希望に溢れた明るい未来を歌うものだと思いますが、そうではない。でもそれは「嘘みたいな」何が起きるか分からない未知の場所なのです。そして「いつかは会えるだろう」という希望を予感するのです。
そのまま曲のキーが同じ"人人"へ。この曲は、曲調が緩すぎて得意ではなかったのですが、ドラムがストレート気味にテンポよく叩いていて、原曲のアレンジとはまた違った良さがありました。というか個人的にはライブアレンジの方が好み!
雰囲気は一転し、妖しげなサックスが特徴的なイントロの"夜香木"。弾き語りでも聴いたことがありましたが、バンドアレンジだとやけにアダルト(?)で、めちゃくちゃ良い曲だなと思いました。弾き語りは弾き語りで、もの悲しい感じが良いんですけどね(笑) 4拍+2拍のやや変則的な拍子で弾きながら歌いこなすのが本当にすごいなあと思いつつ、さらに難易度が高そうな"凪"へ。間奏で照明が急にカラフルになってちょっと笑いました。バスドラムとスネアが消えて、再びビートを刻み出す展開がかっこいいです。
ここまで『呪文』の曲が多く演奏されてきましたが、ここで『心理』から"炎"が。この曲めっちゃ好きなんです。ライブで聴いたのは初めてだったのですが、コントラバスの低音がホールにずっしり響いて気持ちよかったです。折坂さんもエレキギター(Gibson SG)に持ち替え、かなり歪ませて低音弦をコード弾きしていたのですが、この音量がこれまた絶妙で、レイヤーとノイズの中間みたいな響きがプラスされていたのが良かったです。歪んだSGのまま演奏されたのは"信濃路"。折坂さんはステージの中心に座ってプレイしていて、アットホームな空気感が面白かったです。山内さんがバッキングで、折坂さんがリードを弾くのって何気に初めて見たような?落ち着いた雰囲気の中、ゆっくりと立ち上がり、ガットギターに持ち替えて爪弾かれた"正気"。インタビューでも語られていたことですが、『呪文』の収録曲たちは、日常の風景が歌われているというべきか、これまでよりもパーソナルな視点で描かれているなと、特にこの曲を聞くと感じます。
最後に「戦争しないです」というパーソナルな宣言が置かれているのはなぜでしょうか。国内外問わず暗いニュースが多く、ともすれば落ち込んでしまうことばかりのこの頃。でも『あれはこんなに恐ろしく ついには君もわからない』などと諦観(冷笑かもしれません)している場合ではない。ある夕方に「パチンと出所のしれぬ音」がするように、不穏な未来の種は日常の中にも潜んでいて、私たちは無関係であるということは決してない。そう捉える折坂さんだからこそ、「戦争しないです」という宣言が説得力をもって響くのだと思います。だからこそ、最後に部分的にマイナーに転調するアウトロの言い知れぬ恐ろしさが、身に迫ったものとして感じられます。(アルバムではこの後に"無言"が位置づけられていることも、この恐ろしさを助長していると思います。)
ちょっと真剣なモードになりました。そのまま静かに"朝顔"の冒頭が歌われ、サビで演奏陣が大爆発すると共に照明が一斉に点灯!ここまでのライブの流れや、希望のある歌詞も相まって、ものすごくストーリー性を感じさせる感動な演出でした。一方で、こういうポップな曲になると、かえって演奏をつまらなく感じてしまうのだなと気づきました。決して悪口ではなくて、バンドメンバーの良さが発揮されにくい曲というべきか…。なんだか白けてしまった感も無きにしもあらずでした。でも、激しくストロークしながら歌う折坂さんを見て切実さを感じたり、あとは、これから生まれてくる誰かを思う歌詞が良いなと思い直したり…。やっぱりすごい曲だぞ!と、気づいた瞬間には鳥肌がぶわってなっていました。そして疾走感のあるアウトロ。これがまた感動的なのですが、リッキーさんの「群青!淡紅!」がデカすぎて笑顔になりました(笑)
興奮冷めやらぬままドラムソロから弾け出した"夜学"!流れも含めてめちゃくちゃかっこいい!続けて"努努"。熱量は止まるところを知りません。「東、ハラナツコ!西、山内弘太!」でめちゃくちゃに盛り上がっていたのも最高でした。ハラさん、今にも酸欠で倒れるんじゃないかという鬼気迫るパフォーマンスが素晴らしすぎです。雰囲気が変わって穏やかなアウトロではマンドリンに持ち替え。この辺りでなんとなく次の曲を察します。そう、"さびしさ"です。今年の「あいず」ツアーからガットギターではなくマンドリンの弾き語りアレンジになりました。一番、歌い方の変化を感じさせる曲でもあります。某CMで耳にして印象に残っていたこの曲。しかし当時は、折坂さんの曲だということは知りませんでした。何を隠そう、あまりにも有名な『平成』のジャケ写で折坂悠太を知った私。『平成』を聴いて「この曲が折坂悠太だったのか!」と気づいたのは、2020年、コロナ禍で音楽をたくさん聴いていたときでした。もともと代表曲ではありますが、そんな背景もあって個人的には思い入れのある一曲です。
さあ、このまましっとりした雰囲気で本編終了に向かっていくんだろうななんて思っていたところで、軽快なリズムが刻まれ始めます。"心"!ここでもう一発ブチかますのがあまりにも最高です本当にありがとうございました。2023年の朝霧JAMでは大号泣しながらみんなで手を叩いて飛び跳ねながら聞いた思い出。そんなことも思い出してまた涙が出ます。イントロでは「たとえるなら…そう、たとえるならサックス!ハラナツコ!」といった調子でメンバー紹介が挟まれます。これがまた熱いんです。ライブ後にXで感想を見ていたら、「人間、一つの担当楽器には収まらないということを表現しているのでは」といった投稿を見つけて膝を打ちました。(それと、宮田さんがヒゲダンスを弾いていたのも楽しかったです笑)過去一の「どうぞ!!」の大絶叫で祝祭感はマックスに。からの"無言"ってどれだけ緩急つけるんですか。ハラさんはフルートに持ち替え、これがめっちゃ良かったです。"トーチ"もですけど、めっちゃRadiohead感があるなあと思います。山内さんはずっとギターをいじっていて何をしているのかわからないと思ったら、間奏のキラキラした音が鳴り始めてさすがの職人ぶり!
本編ラストはアルバムの流れ通り"ハチス"。詩の朗読から始まりました。正確には覚えていないけど、言わんくてもいいことを言っちゃう人間とか、言葉を発することの良し悪し、みたいな話だったような???かなり怪しいけど。でも、しいて何か望むならば!というふうに"ハチス"の歌詞につながった瞬間、リッキーさんのカウントから演奏が始まって、もうそのときには笑顔で号泣していて顔がぐちゃぐちゃでした。年間ベスト級に好きなこの曲。曲単体で聴いたり、アルバムの流れで聴いたりするのとは全く違う状況で、それも最高のコンディションで体感することができて幸せでした。
アンコール。『呪文』のジャケ写にもある猫の尻尾をつけて登場。尾てい骨から尻尾が生えていることをイメージすると姿勢が良くなるんだとか。
MCでは「わかりやすい方に流されない」「わかりにくい方を選ぶ、それが戦争を避けることになるのではないかと思っている」と語り、元ちとせさんに提供した"暁の鐘"を弾き語りで披露。いつもライブで戦争反対を言明していて本当に信頼できるなと思わされます。不勉強ながらこれまで存在も知らなかった曲でしたが、MCも相まって、何より歌唱が圧倒的すぎてめちゃくちゃ感動しました。
メンバーが帰ってきて少し落ち着いたところで、「あれ、最後の曲って何やるんだ?」と考える余裕が出てきました。ラストは"トーチ"。最後にしっとり終わるとは思っていなかったので予想外でしたが、大好きな曲だったので嬉しかったです。特にコーラスの満足感が良いんだよな〜なんて思っていたところ、終演後にリッキーさんが「最近出ていなかったコーラスが本番でいきなり出てバリ驚いた」とツイートしていて笑いました。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
来年の『のこされた者のワルツ』でまたお会いしましょう、それでは。