釣り人のスープ
私は2つの教えをもとに魚のスープを作る。
スウェーデンのフィッシュスープ
まず最初の教えは、学生の頃のこと。スウェーデンの学校に通っていた時、理由は忘れたけれど学校の先生にクラスの生徒が食事に招待された。ヨーナス先生だ。性格はおっとりとしていたけれど、体格ががっちりしていた大男でとても優しい先生だった。その日のメニューはシンプルで、フィッシュスープとパン。すごくシンプルなのだけれど、器に入れられたスープは細かくいろいろな色が散りばめられていてとても綺麗だった。まるで、ヨーナス先生が作るガラス作品のようだった。
食べてみるとハッと目が覚めるように美味しい。その日のスープに入っていた魚はサーモンだった。サーモンの薄ピンク、赤、黄緑色、緑、黄色、茶色…。一口食べてすぐに、私は先生に「このスープはどうやって作ったのですか?」と聞いた。すると先生は、
「美味しい?それは嬉しいね。これはレシピなんて大それたものはない、とても簡単なんだよ。毎回味が違うんだ。恥ずかしながら、その日の冷蔵庫にあるものを皆細かく切って煮込むだけなんだ。冷蔵庫の掃除的役割も果たしている!」
ヨーナス先生曰く、魚が手に入り、タイミング的に冷蔵庫に余り野菜が色々とある場合に作るらしい。先生のパートナーさんも料理はするのだが、このスープに関してはいつもヨーナス先生の担当だそうだ。魚の出汁といろいろな野菜からの出汁がでて、とても豊かで楽しい味だった。
その後、学生時代や就職してからも何度かフィッシュスープを食べたが、レストランで食べるよりも、どちらかというと誰かの自宅で作ってくれたフィッシュスープがいつも美味しいと思っていた。それは、ヨーナス先生の作るフィッシュスープと同じく、魚と”冷蔵庫の中にあった野菜”を入れたスタイルだった。だからいつもその家庭の味がした。
釣り人と一緒に
もう一つの教えは、夫からだ。
釣り好きな夫と暮らし始めてから、当たり前だが釣ってきた魚を我が家で捌くことになった。釣り人は決して魚を無駄にはしない。夫は魚を食べるのが本当に上手だといつも感心してしまう。身の部分は全く残さず、目玉も好きで、最後お皿の上には本当にピカピカの骨のみになる。
そんな夫に教えてもらったスープは、大きい魚が数匹釣れた時にまとめて作る。捌くときに身の部分と骨とアラ部分とでジップロックに分けて冷凍保存しておく。大概、冷凍した身の部分を翌日から食べ始め、最後に骨とアラを使ってスープを作る。アラと骨から出汁をとることが重要なので、身はあまりない。頬ぼねの裏と頭のてっぺんにあるぷるんとした美味しい身が楽しみのスープになる。出汁としてできたスープは、冷蔵庫で冷やすとコラーゲンの塊となりプルンプルンとゼリー状になっている。超健康食となる。ゼリー状になるスープ(出汁)を使って、改めて具を入れたりしてスープを作るのだ。
釣り人のスープ
私はこの二つの教えをもとに、我が家のフィッシュスープを作る。
その時の魚の種類、その時の冷蔵庫の中の野菜で、スープ自体の味が変わるのも楽しい。これを釣り人のスープと名付けた。
だから、レシピというレシピというものは存在できないのだけれど、重要なポイントだけをご紹介。
基本材料:
作り方:
<出汁>
魚のアラと骨部分を水道水でよく洗う
大きなお鍋に、アラと骨、ニンニクとキャベツか白菜の芯部分を入れ、水を具材ひたひたにかぶるくらいに入れ、強火で煮る。
重要:煮立ってくるとアクが出るので、中火にしてこまめにアクとりをする。アクが気にならなくなるまで続ける。
火を止めて、常温になるくらいまで冷ます。
冷めたら、スープをザルでこして、スープとアラ、骨、野菜とに分ける。
アラと骨から丁寧に身を取り出す。
骨の部分とキャベツ/白菜の芯は捨てる。身の部分とニンニクを二つに切ってスープに戻す。
<スープ編>
まず、絶対に入れてほしい野菜以外の野菜も冷蔵庫を覗いて用意してほしい。
スープの具として入れる野菜は、とにかく皆小さく切って入れる。
魚の身をあらためて入れる場合は、ひと口大、またはそれより少し大きめに切って入れる。
アジア風に仕上がる生姜を入れる場合は、醤油、または味噌で味付けをすると美味しい。生姜は食べやすいように細かい千切りにする。
トマトを入れると洋風に仕上がる。そのまま野菜の味と塩で味付けしてもいいし、豆乳、または豆乳と味噌をちょっと入れても美味しい。
野菜の具が、とろとろになるまで煮込む。
ちょっと浅めのスープ皿に入れてもらうと、スウェーデンのフィッシュスープのイメージになる。スープ皿の端っこに少し、サワークリーム、クリームチーズ、魚料理用のクリームソースを添えて食べると、味の変化が一皿で楽しめる。
よかったらお試しください。