夢の話(8)
いつかみた夢
「コバルトです。リチウム電池に使われてますよね。」
「あー、スマホとか電気自動車とかの」
私は何も疑われるようなことも、疚しいこともないただの旅行者なのに、
“何か”を知っている前提で、ここに来るべくして来たような前提で
話が進んでいくのを負担に感じつつあった。
「公開している情報では、生産国の約7割がコンゴです。
今後のEV市場の拡大を考えると、国際市場ではコバルトの枯渇が不安視されています。」
コバルトって、あの青いやつでしょ?
掘ったら出てくるやつ。
次に何を言おうとしてる?
このサラリーマンは…。
私は、頭を必死に働かせる。
こんな山の中で、完全な電子制御の遊園地、
電力はどこから供給してる?
で、その電力を使って外界から遮断された閉鎖的な場所で、限定的な対象者だけの為に施設を作る意味は??
コバルトはコンゴが7割…
コバルトは…
どこか近くで見つかったとか!?
だとしたら合点がいく。
近くでコバルトが見つかり、掘削されている。
それは、まだ秘密裏に。
恐らく、欧米諸国の何処かと日本が関わっているんだろう。
これ…大丈夫なやつか?
帰れなくなるパターン?拉致とかされちゃうやつ?
どっかでフラグ立ってた?
私は昔から、焦りにめっぽう弱い。
焦って、いい結果になった試しが一度もない。
だから、“冷静であれ”をモットーにしていたのに…
。
こうやって、言わなくても良い余計な事を言ってしまうんだ。
「コバルト…出ましたね」
確証も無いのに、何でカマかけてこんなこと言うかなぁ…自分が嫌になってきた。
でも、どうしたら正解?
だって、黙っとくわけにいかないし!
さっきまで汚いバスに揺られて、ブエナ・ビスタ〜とか郷愁感じちゃってたのに
なんでこんな“お上”のサラリーマンと、秘密のエネルギー供給についてお互い探りながら話さなきゃいけないわけ?
私は、苛ついて地団駄を踏んだ。
「ハッハッハ…!」
急にサラリーマンが笑い出す。
「そうですね。今いるこの施設のすぐ真下です。
面白いですね!踏みつけたら何か聞こえましたか?」
いや。違うのよ。今のドスドスッてやつは。
あぁ゙ー!もう!!ってやつの方なのよ…。
私の一語一句、一挙手一投足の全てが都合よく解釈されているみたいで怖くなる。
反して、サラリーマンは楽しそうに続ける。
「2020年にコバルト鉱脈がここで発見されて、日本、ナイジェリアを含む5カ国で協定を結んで掘削を開始しました。民間業者参入の無い、国家間のプロジェクトです。ちなみに年間消費量80年分に相当する量が日本に割り当てられています。」
やっぱり、カモフラージュだったのか。
綺羅びやかな遊園地が、今やすっかり魑魅魍魎の巣窟に見える。
「ーと、言う訳で、“芹沢佳奈”さん
私達に少し協力をお願いしたいです。」
パスポートはここに来た時から
上着のスナップボタン付きポケットの中から一度も出していない。
小学生じゃないんだから、カバンにもスニーカーにも何処にも名前なんて書いていない。
背後の巨大空中ブランコから
壮大にサラサーテのツィゴイネルワイゼンが響く。
私、詰んだのかな?
最初から
このタイミングで流すべく仕込まれてたんじゃないかと思うくらい、
それは、見事な選曲だった。