リーダーの育成方法
マネージャーの育成業務に関する悩みの中で最も多いのが前述の「若手の育成」である一方で、最も難易度が高いとされるのは「リーダーの育成」ではないでしょうか。「リーダー制のメリット」で述べた通り、あなたの組織の規模が一定を超えたらリーダーとなるメンバーを選出するべきですが、そのリーダーがうまく機能し、あなたの組織に貢献してくれるためにも「育成」が必要なのです。
リーダー育成のゴール
ここでも前記事と同様に、リーダーメンバーの「育成のゴール」から考えてみましょう。もちろん「より優秀なリーダーになってもらう」などといった曖昧な定義は許されません。結論を先に言うと、ここでは「マネージャーへの昇格」が目指すべきゴールになります。リーダーはリーダーのままでは、現場メンバーの領域から脱することはできません。組織が継続していくためにはマネジメント人材を定期的に輩出する必要があり、その候補者がリーダーである以上、リーダーにはどこかのタイミングで現場メンバーの域を脱してマネージャーに昇格するための訓練を積んでいく必要があるのです。
もちろん昇格のためには多くの外的要因、不本意ですが「時の運」と呼ばざるを得ないものも影響します。昇格に足るだけの実力を認められていても社として定められた時期ではなかったり、ポストがなかったり、ということも現実的には起こりえます。なので、「マネージャーへの昇格」を目的に置いた場合、リーダーの育成は若手のそれと違って、終了タイミングを自分で決めることはできません。でも安心してください。リーダーの育成は、コストをかけながら即時的に回収が可能な投資モデルになるので、当人の「早期にキャリアアップをしたい」というモチベーションを除けば、時間の概念が脅威になることはありません。
現場作業からの卒業
マネージャーに昇格するということは、現場作業から卒業していくことを意味します。実際はリーダーメンバーは非管理職なので完全に現場作業を離れることは不可能ですが、それでも離れていく意思を持つことが必要条件となります。これは当人にとっては非常に大きな変革になります。
このnoteで一貫してお伝えしている通り、組織マネジメントは「個人競技の団体戦」です。テニスの団体戦で例えるなら、リーダーメンバーはオーダー交換でどんなに強い相手を引き当てたとしても確実に1勝をもぎ取ってくる絶対的エースの選手となるでしょう。この1勝はすでにチームの中でカウントされているもので、何なら引き当てる相手が強ければ強いほど自チームの勝率は上がるので、そういうオーダーを差配するためにチームが動きます。
本人もその自負があり、周囲もそれを求めてきました。しかしマネジメントの立場になった瞬間、周囲が求めるのは一変します。そのメンバーが勝つか負けるかは本質的には関係はなく、極論を言えば試合に出るか出ないかも重要ではなく、ただ団体としての勝利のみが求められるのです。その人が確実に1勝したところで、他のメンバーが全敗してしまったら組織としては負けであり、その1勝にも実質的な価値はありません。これは自身のプレイヤーとしての価値向上の一点だけを目指してキャリアを築いてきたメンバーにとって、簡単には受け入れがたい変化です。
ですので、あなたがリーダーを育成していく覚悟を決めたなら、まずそのメンバーにこの事実を丁寧に説明し、現場作業からゆくゆくは卒業していくことをきちんと理解してもらうところから始める必要があるのです。
マネジメント業務を「任せる」
ではリーダーを育成するためには具体的に何をすればよいのでしょうか。この答えは非常にシンプルで、「任せる」の一言に尽きます。あなたがいま受け持っているマネジメント業務の一部を任せ、そこで成果を上げてもらうことで、マネージャーとしての資質を証明してもらうのです。
ただし、このシンプルすぎるアクションの実行を阻む要素もいくつか存在しますので、マネージャーであるあなたにおいては、これらを取り除いてあげることがリーダー育成の実務となるでしょう。
・当人のモチベーション
実務で忙しいリーダーメンバーの中には、マネジメント業務まで引き取る余裕のない人もいるでしょう。「体よくマネジメント業務を押しつけられた」と感じてしまうメンバーも少なからず存在します。そういったメンバーは、もともとマネジメントを目指していないか、マネジメントの本質を理解していないかのどちらかです。前者であれば、きっぱりと諦めて別のメンバーをリーダーに立てて育成に励むことが全員の幸せにつながります。後者の場合は対話が必要で、「個人競技の団体戦」「ヒトというリソースの最大化」といった概念を粘り強く説き続ける必要があります。そうではなく、純粋に実務が忙しすぎてマネジメント業務への工数が捻出できないだけの場合は、あなたはこのリーダーメンバーの実務負荷を下げていく英断を下す必要があります。約束された1勝を自ら手放すことには大きな覚悟が必要ですが、この業務差配を断行しないことには永遠に次のマネージャーは生まれてきません。
・裁量権の不足
いざマネジメント業務を任せる段階となっても、その実行には必ず「裁量権」がセットで必要になります。もちろんリーダーメンバーは管理職ではないので、任せられる業務とそうでない業務があります。その中で「これは任せられる」とあなたが判断したものでも、進行がうまくいかないものも出てくるでしょう。その時は、当人の資質不足を疑う前に、裁量権が足りていない可能性を疑ってみてください。裁量権とは具体的に何か。私の経験上の答えは、「他のメンバーがリーダーにちゃんと従っているか」と「結局のところ管理職(=あなた)が意思決定していないか」の2つに絞られます。前者については、きちんとリーダーの存在を組織内で周知し、立場を認め、メンバーを従わせることでほとんど解決できるでしょう。問題は後者です。どんなに表層的にマネジメント業務を任せてもらっても、重要な意思決定の場であなたに伺いを立て、意見を反映させないと前に進めない状況になってしまっていては、いつまでたってもリーダーの成長は望めません。もちろんあなたにはリーダーが失敗した際に「任せた責任」を取ることが求められるので、意思決定に関与したくなる思考回路は正常なものですが、これを回避する方策はあなたが「任せる勇気」を持つ以外にありません。
・あなたの「任せる勇気」の欠如
これはあなたの無自覚な部分で発生している阻害要因なので、上記の要因と比べても非常に対処が難しくなってきます。マネジメント業務は今まさにあなたが取り組んでいるものなので、一歩引いて「これは任せられる」「ここは自分でやらなければならない」と客観的に判断することも難しいでしょう。
ここに対して、これが正解かどうかはまだ確信がないのですが、私は「自分が上位マネジメントの業務にあたるに際しての予行演習」と捉えることにしていました。管理職として最下層に位置するグループマネージャーと、上位マネジメント職の決定的な違いは何かというと、「意思決定権まで含めて部下に任せられるか」だと思います。もちろん事前の相談やアドバイスは必要ですが、その部下が最終的にどんな意思決定を下しても、それを尊重し、信頼する。逆に言うと、その信頼に足る意思決定を下せる部下だけが管理職に就くことができる。その意味でリーダーたりえる人選は重要ですし、育成開始=マネジメント業務を任せ始めるタイミングも慎重に見極める必要があります。そして、一度やると決めたらあとは勇気をもって任せる。すごく精神論になってしまっている自覚はありますが、今のところこれが無自覚な勇気の欠如を克服するための私なりの最適解です。(上位マネジメント職になったことがないので実情は分かりませんが…)
以上、「メンバーの育成」のセッションでは「若手」と「リーダー」の二つの側面から考えてみました。次は「目標設定、評価、フィードバック」です。
【目次】
マネジメントの本質
ビジョン
チームビルディング
組織運営
メンバー育成
目標設定、評価、フィードバック