評価者になるな、共闘者であれ
メンバーを評価することはラインマネジメント職の重要な任務の一つです。ただ私はここにものすごく大きなプレッシャーを感じていましたし、マネージャーになりたての頃は「自分のような経験の浅いマネージャーが人を評価する立場に立ってよいのか」「自分のような経験の浅いマネージャーに評価される部下はもしかして不幸なのではないか」というネガティブな思考を払しょくできませんでした。
そこで私は、自分の中で意識を変えることにしました。自分はメンバーを評価する存在ではなく、メンバーの評価を勝ち得るための共闘者になろう、と。
メンバーの評価はマネージャーの評価
「個人成績はトラッキングして公表せよ」で述べたとおり、私自身の評価指標の中には「メンバーの目標達成(≒評価向上)」が含まれていましたし、そのアピールのためには部下のグレード昇格、マネジメント人材の輩出などの実績を作る必要がありました。それはもちろん部下の成長という事実に基づいて正しい評価を勝ち取らなければならないのですが、それぞれのグループが異なるクライアント、異なる案件を抱えており、実施している業務にも全く同一のものがない以上は、「正しい評価」というのも事実上存在しないものと考えた方が得策です。よって、ラインマネージャーであるあなたは、評価会議で自分の部下が正当な評価を得られるために「闘う」必要があります。もちろん過剰な評価を得ることはNGですが、あなたが何もしなければそのような考えを持った他のマネージャーに有限な評価原資を持っていかれてしまいますし、たとえ評価原資が潤沢な状況であってもメンバーが他部署の同期と比較したときに納得できない差がついていたら、それは評価への不満、ひいてはモチベーションの低下につながります。
私のようにダイレクトにメンバーの評価向上が自身の評価項目に含まれていなかったとしても同様です。マネージャーの評価は自組織のアウトプットで決まりますが、それはやはりグループごとに状況が異なるので公平な比較が難しいものです。ただ、メンバーが獲得する評価は会社が定める一律な指標となるので、これに沿って自身のメンバーの評価をどれだけ上げられたかを定量化することで、あなた自身の評価を可視化してアピールすることが可能になります。
このように、メンバーの評価とマネージャーの評価は同値なのです。それゆえ、あなたはメンバーを評価する立場ではなく、あいまいな基準の中で不当な評価を下されないための「共闘者」になる必要があるのです。
真の「共闘者」になるために
ではメンバーの共闘者になるには何が必要になるのでしょうか。ますば自分の立ち位置をメンバーに宣言することです。
自分のミッションはあなたの評価を上げることである。だから設定した目標は絶対にクリアさせるし、そのためにあらゆる手段を講じる。未達の項目があったら達成するまでリマインドをかけるし、一緒に達成する方法を考える。なぜならあなたの目標未達は私の減点につながるからだ。
そして私との評価ミーティングの際には、私が評価会議で戦うためのエビデンスを提出してほしい。嘘や誇張はだめだが、あなたがこの期間に働いたことで評価につながりそうなものはすべて把握しておきたいので、全部を棚卸してほしい。私とあなたの利害は一致しているのだ。
そういったメッセージをメンバー全員に伝えましょう。すべてのメンバーが評価に対して積極的に望んでくるわけではありません。中には自己評価が低く、評価面談で実際の成果の半分もアピールしてこない部下もいます。もともとそういう気質なのかもしれませんが、もしかしたら過去に「厳しい評価者」としての上司に当たってしまい、「そんなものは評価の対象にならない」「自己アピールが過ぎる」などと一蹴された経験があるのかもしれません。しかしそれではあなたの評価会議での武器が減るだけですし、自分の評価を落としていることにほかなりません。実際に評価会議で使える内容なのかどうかはあなたが判断すればよいだけのことであって、メンバーからはまずすべての情報を引き出すことが重要なのです。
そして部下があなたを「自分に評価を下す人」ではなく「自分の評価向上のサポートをしてくれる人」と認識してくれれば、おのずと信頼関係は強まりますし、評価に限らず通常業務の場面での関係性もより良好なものになることでしょう。
評価会議での戦い方
このようにして準備したメンバーの成果情報をもとにあなたは評価会議で他部署のマネージャーたちと戦うわけですが、基本的には事前の準備段階で勝負は9割決まっていると思った方がよいでしょう。そのメンバーが出した成果、その効果によって組織にどれだけの利益がもたらされたか、そしてそのメンバーを評価することで今後の会社の利益がどれだけ上がるのかを、理路整然と、現場を直接見ていない上位マネジメント職や他部署のマネージャーたちでも理解できるように説明するだけです。
ただここで一つだけ、昇格を勝ち取るためのアピールのコツを挙げるとしたら、それは「このメンバーはすでに一つ上のグレードの業務を遂行している」という言い方です。どんなに「このメンバーは今のグレードの他のメンバーと比べても突出している」と主張したところで、「どのように突出しているか」は状況や捉え方次第で変わるため、昇格の決定的な要因にはなりません。それよりも「このメンバーが今のグレードにとどまっている状況は明らかにおかしい」という文脈を作る方が、昇格を決定させる理由になりえるのです。
ですので、期中ではそのアピールができるような事実を作ることも計算しておく必要があります。前記事で述べた「一つ上のグレードの目標設定」もその一端ですし、極端な例としては、これは私の部下で実際にやったことなのですが、私の組織の中では本当に優秀で、でも前部署の評価が低かったために不当なグレードがついていたメンバーを確実に昇格させるために、一つ上のグレードのメンバーのトレーニング業務をアサインして既成事実を作り上げた、ということもありました。このように成果・実力と評価のミスマッチを意図的に可視化させ、そして評価会議の場でやっと評価を追いつかせる、という順番で進めるのが、私の中で最も確証が高い評価獲得のための方程式です。
以上、ラインマネージャーが評価の場に臨むにあたってのスタンスと戦い方についてまとめました。こうして得られた評価がメンバーにとっても満足のいくものであれば良いのですが、必ずしもそうとは限りません。また、良い評価を獲得できたとしても、メンバーに改善を促さなければいけない場面は必ず発生します。そのようなネガティブなフィードバックを実施する際に気を付けることは何なのでしょうか。次の記事ではそのあたりに触れてみたいと思います。
【目次】
マネジメントの本質
ビジョン
チームビルディング
組織運営
メンバー育成
目標設定、評価、フィードバック