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アクションプランに必要な要素

前項までで活動計画の骨子についてはおおかた構成できたかと思います。この先は各組織ごとに必要なアクションプランを提示していく段階となりますので、個別具体でお考えいただければと思いますが、ただその中でも必要な要素はあります。
この記事は、あなたの考えたアクションプランがきちんと要件を満たしているか?というチェックシートとしてご活用いただければと思います。



具体的な行動を喚起できること

まず第一に、「アクションプラン」の言葉通り、それはメンバーの行動を喚起できるものである必要があります。なので「顧客からの指名受注を5件獲得する」はアクションプランになりえません。指名受注を獲得するために何をすればよいのか?が明確ではなく、メンバーが具体的に今どう動けばよいかが不明瞭なためです。指名受注を獲得するためにルート開拓が必要なのであれば飛び込み営業や社内他部署の訪問同席を行うなど、顧客とのリレーション構築が必要なのであれば定例会を開催するなど、自社のバリュー理解が必要なのであれば勉強会の実施・自主提案・独自のサービス開発など、一言で指名受注といっても考えられるアクションは様々です。その中でどこに課題があり、どこに力点を置くべきかは、マネージャーであるあなたが分析して設定していく必要があります。「それはメンバーが自ら考えて実行していってほしい」という気持ちも分からなくもないですが、残念ながらこれは現場で多くの経験を積んできた者、すなわちマネージャーであるあなたでなければ勝率の高いアクションプランを発案し、見極めることは難しい部分です。それでも全勝とはいかないでしょうし、そこまでメンバーに勝率の低いトライアル&エラーを許せる余裕のある組織はないでしょう。「細かいやり方は各自で考えて」は上位マネジメント職から中間管理職に対してはよく言われる(そう言わざるを得ない)言葉ですが、中間管理職から現場メンバーに向けてのこの発言は怠慢であり思考停止であると心得ましょう。

実行可能なものであること

メンバーの能力を超越していないか?

アクションプランは各メンバーの能力に見合ったレベルで設定する必要があります。必ずしも一人ひとり異なるプランを設定する必要はなく、程度の差を設けることでも対応可能です。例えば社内知見の共有の活性化を目的とした場合、知見の投稿フォーマットを作成して「若手のグレードなら年間X件、中堅クラスのグレードなら年間Y件、リーダークラスのグレードなら年間Z件」といった定量的な基準を設定したり、先進事例の創出を目的とした場合「若手のグレードなら自身の初実施の事例、中堅グレードなら担当クライアント内で初実施の事例、リーダークラスなら全社/業界初実施の事例の創出」といった具合です。あまりにも実現不可能なプランはモチベーションの低下につながりますし、簡単に実行できてしまうものは設定する意味がないので、各メンバーにとって最適な難易度のプランを設定する必要があります。

必要なリソースを手配できているか?

やるべきことが明確になっていて、どうすればいいか頭でわかっていたとしても、必要なリソースが不足している場合があります。例えば「対クライアントのフロント組織として、自組織以外の領域のソリューション提案につなげ、他部門の利益を創出する」といったアクションを設定した場合は、他部門のソリューションの知識や担当者とのリレーションがなければ実現不可能です。この場合はマネージャーが他部門との交流を促進し、メンバー間の連携を強化する施策をとらなければなりません。
リソースには「時間」も含まれます。多くの場合、各メンバーはマルチタスクで複数の業務を同時並行で行っています。そんな中で膨大な時間がかかるアクションプランに時間を割くためには、他の業務を一部あきらめて、優先順位を上げさせる必要があります。このように、不要な業務の整理、非効率な業務の効率化によってアクションプランを実行するための時間を創出することも、マネージャーの重要な役割となります。

目的を達成できること

十分なインパクトを伴っているか?

当然ではありますが、アクションプランはそれを行うことによって目的を達成できるものである必要があります。こうして文字に起こすと「何を当たり前のことを…」と思うかもしれませんが、「果たしてあなたが立てたアクションプランをやれば組織の目的は達成できるのか?」は、ぜひ今一度確認してみてください。
例えば、「クライアントA社の新規の売り上げを10億円増やす」という目標が会社から与えられたとしましょう。そのための達成手段として「既存のマーケティング部だけではなく、営業部からも予算を獲得する」という方針を定め、そのためにアクションプランを策定したとします。でも、ふたを開けてみればA社の営業部の予算のうち代理店に発注できるものは年間5億円しかなかったとしたら、そのアクションプランをどんなに頑張ったところで目的の達成は不可能です。であれば、もっと難易度は上がるかもしれませんが、「他の競合代理店が扱う10億円のブランドを奪取する」という方針のもとにアクションプランを組む方が、目的を達成できるトータルの確率は高いでしょう。
現実的にはどちらか片方に絞る必要もないですし、会社は目的の達成にとどまらず実績の最大化を求めてくるので、結局は「どっちもやる」だとは思いますが、複数のアクションプランを提示することはすなわち優先順位をつけることでもあるので、あなたが提示したアクションプランはどれくらいのインパクトがあって、どれくらいの優先順位を置いて実行する必要があるのか、はメンバーにクリアに伝える必要があります。

上位組織の活動計画の受け売りになっていないか?

全社、あるいは上位組織の活動計画によってある程度のアクションプランは提示されるでしょう。ただしこれは以前の記事でも述べましたが、どの組織のメンバーにも言えるような汎用性が高く解像度の低いものです。もちろん大きな方針としてこれに従う必要はありますが、ではそれを自組織の中でどういった具体アクションにつなげていくのか、は、マネージャーであるあなたしか考えることができません。

現状のアクションの延長にとどまっていないか?

「とりあえず前任者がやっていたから、引き続き自分もやってみる」「1年目にやってきたから、2年目も継続してやってみる」などと、安易にアクションプランを流用することはできません。アクションプランを継続できるのは

  • 達成したい目的が変わっていないこと

  • そのアクションプランによってある程度の成果を出していること

  • 一方で現状でもまだ不十分で、課題が継続しており、実行「量」のみが足りないこと

の3つの要件を「すべて」満たした場合のみです。
目的が変わっている場合は、そのための最善の手段も変わってくるはずです。また、前期で十分な成果を上げられなかったアクションプランは、改善点を洗い出し、より効果的なプランに変えていく必要があります。逆に前期で十分な成果を出せたアクションプランであれば、今期ではもう不要になっているかもしれません。「改善の傾向がみられるけど、もう少し実行量を積まなければ求める結果が得られない」と確信が持てる場合のみ、前回のアクションプランの流用が認められるのです。

メンバーをモチベートできること

メンバーは合意しているか?

各メンバーが、自身の貴重な勤務時間をそのアクションプランに投じることに合意してくれるかどうか、も非常に重要な判断ポイントになります。それはこれまで述べてきた目的合致性、実行可能性、適性な質と量、評価への寄与などの期待値によって判断されます。もしこれに合意できないメンバーがいたら、それはメンバーのわがままではなく、あなたの説明が不足している可能性を疑いましょう。「これをやれば結果が出るし評価される。十分に実行可能だし、実行に必要なリソースも確保する。」と上司から言われたアクションプランに前向きに取り組まないメンバーはまずいません。
それでも信念をもって合意しないメンバーがいるのであれば、それはきっとその人の中により良いアクションプランがあるか、あるいは言語化できない違和感があるはずです。その時はそのメンバーと時間をかけて話し合い、後者であればその違和感の正体を究明する必要があります。
もし複数人によって疑問を呈されるようであれば、今一度アクションプランの練り直しを行うか、メンバー全員でアクションプランを策定するミーティングをセットすることをお勧めします。全員で決めたことであれば納得感も高まりますし、あなたからは見えない現場としての感覚も含めたものとしてブラッシュアップされることでしょう。ただし、その時もあなたはメンバーの意見に迎合するのではなく、マネージャーとして自分の夢と、会社の目的に合致するよう、常に上記のチェックポイントを意識しながらハンドリングをする必要があります。

そのアクションは個人評価項目の何に関与するのか?

メンバーからの合意を得るための重要な側面として、そのアクションプランが「メンバー自身の評価にどう影響するのか」があります。そのアクションプランを顧客や自組織のためにやった方が良いとどんなに頭で理解していたとしても、それが自身の評価につながる確信が持てなければ、つまり「ただのボランティアで終わってしまうのではないか」という不安を払しょくできなければ、メンバーからの効果的な行動を期待することはできません。ですので、あなたが立てたアクションプランは個人評価のどの項目に寄与するものなのかをきちんと説明する必要があります。
これは特に組織貢献や人材育成、生産性向上、事故防止フローの構築など、インナーの側面が強い業務で発生しやすい傾向があります。まずはここに、しっかりと評価項目を定義しておくこと、そして定量的な評価指標を設定しておき、「これをここまでやればきちんと評価される」という認識を全員が持つことが重要です。

あなた自身のアクションプランになっているか

アクションプランはメンバーに行動をお願いするものですが、それがあなたの夢や会社の目的を達成するためのものである以上、「あなた自身が何をするのか」を理解してもらうことが、メンバーと良好な関係を築く大きなポイントになります。それは一言で言ってしまえば「マネジメント」なのですが、各メンバーがアクションプランを実行するにあたって、マネージャーの立場からどうやって必要なものを調達し、どうやって上司や他の組織と連携し、メンバーたちにどう働きかけていくのか、を、上述のチェックポイントに則って策定しておき、実行に移していく必要があります。もとい、活動計画の時点でおおむね完了しておくことが望ましいでしょう。「○○を達成するために必要なリソースは既に手配してある」「△△を実行するための体制を組んだ」、だからみんなにこのアクションをしてほしいんだ、という文脈の方が活動計画にかける本気度も伝わりますし、ここで実行したことが初期仮説となって期中の効果的な改善、柔軟な組織運営につながっていくことでしょう。


以上、3記事にわたって組織のビジョン策定にかかわるお話をさせていただきました。次のセクションでは、このあなたが描いた夢に向かうロードマップをどんな仲間たちと歩んでいくのか、、すなわち「チームビルディング」についてお話しできればと思います。


【目次】

0.はじめに

  1. マネジメントの本質

    1. 「マネジメント」という不確定性の高い職務

    2. 組織マネジメントは「個人競技の団体戦」

  2. ビジョン

    1. 活動計画に全力を注げ

    2. 99%のパッションと1%のロジック

    3. アクションプランに必要な要素 ←本記事

  3. チームビルディング

    1. 中間管理職が持つリソース

    2. リーダー制のメリット

    3. メンバーの異動、加入

    4. 飲みニケーション問題

  4. 組織運営

    1. 会議体は組織を表す

    2. 個人成績はトラッキングして公表せよ

    3. アワードには全力で臨め

  5. メンバー育成

    1. 若手の育成方法

    2. リーダーの育成方法

  6. 目標設定、評価、フィードバック

    1. 目標設定はゲームのルール×期待の伝達

    2. 評価者になるな、共闘者であれ

    3. ネガティブなフィードバック


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