デジタル広告代理店の戦略的組織マネジメント術
はじめに
はじめまして、吉田統樹(つなき)と申します。私は2024年3月現在、総合広告代理店に約14年間勤務しています。そのキャリアの半分近くはデジタル領域を扱うグループ会社に出向しており、特に最後の3年3ヶ月は中間管理職(グループマネージャー)として従事していました。
そんな中で4月から本社に戻ることになったのですが、どうも異動時エントリ(?)というものが性に合わない性格で、、せっかく感謝の意を示すならもっと皆さんの実務のお役に立てる形で恩返しをしたい、と思い立ちました。
では自分は具体的に何で役に立てるのか?その答えの一つとして思いついたのが、本社ではこの年次ではなかなか経験できない「ラインマネジメント業務」についてお伝えすることでした。
これまでの3年強で自分なりに考え抜き、試行錯誤を通して学んできたことをできる限り言語化し体系化してお伝えすることで、いまマネジメント業務に悩んでいる人や、これからマネージャーを目指す人にとって、何か一つでもヒントになることがあれば幸いです。そしてそれによって救われる非管理職のメンバーが一人でも増えれば言うことはありません。また現時点で管理職を目指していない方であっても、マネジメントの本質を理解しておくことでメンバーの立場から組織の改善に寄与できる部分もありますし、何より簡単に会社から評価される動き方が分かるので、これらを知っておいて損はないはずです。
もしかしたら組織マネジメントは一般企業だけではなく、もっと他の団体にも適用できるものかもしれません。そのような連鎖で誰もがモチベーション高く働ける組織が増えていけば、その集団が生み出す価値も高まりますし、それが巡り巡って私を含む全人類の生活を豊かにしてくれると確信しています。
まず本記事では、このnoteを執筆するに至った思考の過程と、全編を通して僕がお伝えしたいキーメッセージをまとめることにします。
そして各詳細記事で、テーマに沿った個別具体的なマネジメント術についての話をしていますので、既に具体的な悩みや気になるテーマがある人は、下部の目次から詳細記事に飛んでいただくのがと良いかと思います。
前書きにかえて
広告代理店に入社して約6年半、私は決して優秀な社員ではありませんでした。今でもさほど…だとは思いますが、当時はクライアントや会社が自分に求めていることもよく理解できておらず、自分としての強い意志もなく、とりあえず来た仕事を淡々とこなす毎日でした。決して劣等生というわけではなかったとは思います。でも、秀逸な事例を作ったり、賞を取ったり、プロジェクトを立ち上げたりするようなタイプでもありませんでした。
最悪なのは、入社してからずっとそのような状態だったので、社会人とはそういうものだという自己暗示を掛け、果たしてこのままでいいのか?という疑問すら湧かずに、ただただ疲弊するだけの日々を過ごしてしまったこと。そんな中でメンタルを潰されずに生き抜くために、「たかだか仕事」と割り切って一線を引いてしまったことだと思います。当時の環境が悪かったとは思いません。むしろ優秀な方々に囲まれて仕事ができていたと思います。だからこそ、そうやってイマイチ仕事にモチベーションが上げられないのは、自分自身の何かが足りないからだと、本気で思っていました。
転機は、今のデジタルを扱うグループ会社への出向でした。ここは本社に比べると創立して間もなく、社員の平均年齢も極端に低い会社でした。とりわけ一番の違いは、マネジメントレイヤーとの距離の近さです。当時のマネージャーは本社の管理職に比べたら圧倒的に若かったのですが、私の意思を尊重してくれ、業務に必要なリソースを調達し、適切なアサインを掛けてくれました。爆発的に増えるデジタル広告案件の中で、ある程度放任しなければ人員が足りなかった…という背景もあったとは思いますが、これが私にはとても良く作用しました。仕事の裁量権をいただけたことで、自分の仕事に責任が芽生え、それと同じだけ成果に対する喜びも増えました。自分で考えて実行し反省するから成長スピードも上がるし、スキルもどんどん身についてくる。マネージャーがいつも相談相手になってくれるから常にリスクも共有できていて、仮に失敗しても一緒に先方に謝ってもらえるので、心理的安全性も確保される。そうすると新しいチャレンジにもどんどん足を踏み出せる。それまで仕事をしていて楽しいと思う”瞬間”は過去にもありましたが、「常に楽しい」と感じられて、自分の居場所だと思える組織は初めてでした。
また、デジタルビジネスの創成期で組織運営のノウハウも確立されていない時期だったので、否が応にも上司のマネジメント業務を眼の前で見、肌で感じ、時には自分からも意見をし、「組織を作っていく」ということができた会社でもありました。自分が作った組織であれば当然、働きやすくもなるものです。もし働きにくいところがあれば、自分でより良く改善していけばいい。そうして出来上がった組織は仕組みがよく分かるので、自分が今何をなすべきかが明確になり、先回りして動くこともできるようになるので、評価も上がりやすくなる。
このようにして自分の中で何年掛けても答えの出なかった「仕事への向き合い方」という課題がマネジメントによってあっさり解決されたことは、本当に目から鱗な経験でした。
そして自分がマネージャーに昇格したとき、あの時の自分と同じように仕事に対する閉塞感を抱いているメンバーに対して、その能力を開花させ、評価を最大化させてあげられる上司になりたいと思いました。
自分の中の哲学として「上から受けた恩は下に返せ」があるのですが、これまで私に仕事の楽しさを教えてくれた上司たちには返そうと思っても返せる量の恩ではないので、ひたすら部下に返し続けてきた3年間。それも終わって帰任になると返せる相手もいなくなってしまうので、今度はこれを言語化・体系化して広く発信し、読んでいただいた方に実践していただくことで、私の中での借金完済とさせていただければと思います。
たったの3年と少しでマネジメントの全てが体得できたわけではないですし、課題のない組織は存在しないのと同義で完璧なマネジメントも存在しないので、偉そうに語るつもりは全くありませんが、ほんの少しの考え方の変化、ほんの少しのアクションで組織は劇的に改善されていきます。中間管理職は単なる組織の中の板挟みポジションではなく、組織を劇的に変えていく力があるポジションだと私は確信しています。
本noteがみなさんにとって、そんな気づきの一助になれば幸いです。
お読みいただくにあたっての注意点
これは私が所属するデジタル広告代理店における話です。
私が所属していた会社の中での最小単位の組織のマネジメント(ラインマネジメント)を想定して書きました。それでも人数規模は10~15名のグループだったので、もっと少数の組織のマネジメントとは少し話が違ってくるかもしれません。
また、業種は「デジタル広告代理店」で、私の部署はフロント組織でした。なので、「クライアントありきの案件進行」「無形商材」「業界の動きが早い、売り物がよく変わる」「成長市場だけど周囲の期待も高い」「人の入れ替わりが激しい」etc…といった特徴があります。こういった条件が変わると効果的なマネジメント術も一部変わってくるかと思いますので、その点も含みおきいただければと思います。
組織構造の各名称について
組織構造とそれぞれの名称も企業によって異なるかと思いますので、本noteでは以下の定義に従って表記させていただければと思います。一般的な日本の大企業の構造・名称とは異なるかもしれませんが、お許しください。
私はこの中でグループマネージャーとして従事しており、本noteもここの最下層の管理職におけるマネジメント術について記載したものとなります。
記事執筆に当たって、個人情報に留意しています。
私は3年3ヶ月のキャリアの中で、兼務者や出向者も含めて合計24名の部下と接してきました。ここに書かれているのは、そのメンバーたちから学んだこと、そして一緒に実践してきたことのエッセンスですので、そのノウハウをお伝えするためには、時に具体的な情報の提示や状況説明にまで踏み込んでいかなければなりません。マネジメントとは常にメンバー一人ひとりを見る仕事であるがゆえです。
一方で個人情報の特定は避けたいので、本noteではすべてフィクションを前提として執筆させていただきます。複数メンバーの要素の掛け合わせや他部署のメンバーの話、誇張、切り取り、あるいは私の想像を付加して作った話なども盛り込ませていただければと思いますので、予めご承知おきいただけますと幸いです。
目次
第1部:戦略的組織設計
マネジメントの本質
ビジョン
チームビルディング
組織運営
メンバー育成
目標設定、評価、フィードバック
第2部:戦略的組織マネジメント
※随時執筆中です。細々と更新していきます。内容は変更になる場合がございます。
プロジェクト
プロジェクト立案はマネージャーの本分
マネージャーこそクリエイティブであれ
プロジェクトがもたらす副次作用
メンバーとの関わり方
○○なメンバー
△△なメンバー
□□なメンバー
☆☆なメンバー
社内各所との関わり方
並列部署との共存戦略
異なる機能を持った部署との関係構築
上位マネジメント職との関わり方
上司は使うためにいる
リソースを自部署に投下してもらうために
成果アピールは「伝え方」が9割
トラブルシューティング
事故対応はマネージャーがリードする
再発防止策を昇華させる
マネージャーとしてのマインドセット