
個人成績はトラッキングして公表せよ
オフィスを舞台にしたドラマや漫画で、個人の成績が壁に張り出されて成績の悪い主人公が上司から怒られる…という光景はベタ中のベタなシーンだと思いますが、そうやって競争原理を働かせて社員の奮起に期待するマネジメント手法はいかにも前時代的な印象を受けます。しかし、私はこれを別の目的で実行していました。それはやはり、組織マネジメントの「個人競技の団体戦」という特性を加味したうえで、ある確信に基づいて行っていたものです。

メンバーは自身の成果に疎い
まずはこの認識から正しく持ちましょう。自身がメンバーだったころを思い出してみてください。あなたは自身の出している成果が、期初に立てた目標に対してどれくらいの進捗なのか、どれくらいの頻度で自主的にトラッキングしていたでしょうか?私はというと全くしておらず、いつも成果面談の直前に自身の成果を棚卸してアピールポイントを捻出し、どうにか評価面談を乗り切っていました。多くのメンバーもそのような感じだと思いますが、それでは直前になってアクションを忘れていた項目や不足している内容があると、それは目標の未達成ということで減点対象になっていました。評価面談は評価を決める場ではなく、すでに決まりつつある評価に対しての根拠を並べて確定させる場、ということすら理解しておらず、評価が管理職の中で事前にある程度定まっていることにさえ想像が及んでいなかったのです。
では受験の時はどうだったでしょうか。志望校に合格した経験のある方であればきっとご理解いただけると思いますが、定期的に模擬試験を受けて自分の実力を客観的に把握し、志望校の求める水準に対して実力が達しているのか、そうではなのであればどこに弱点があって補強する必要があるのか、を振り返っていたはずです。
この模擬試験のような現状の可視化に基づくPDCAを促す機能は、メンバー個人の中にはありません。それは自身の業務に集中していると客観評価できないこと、そしてそんな時間があるなら業務に集中して成果を最大化させた方が組織の価値が上がること、という事実に起因します。ですので、メンバーに自身の成果の進捗を認識させ、到達ラインに達していないのであればアクションプランを改善して実行に移させることは、マネジメントの重要な仕事の一つになります。
努力次第で達成できる項目は絶対に達成させる
私のマネージャーとしての評価指標の一つに、「メンバーの個人目標の達成」がありました。ですので、メンバーには個人で立てた目標を達成してもらわないと私が困る状況です。そうではなくとも、あなたの組織の評価はメンバー個人の評価の総和なので、ここを最大化することに心血を注ぐべきでしょう。
ここで自分が評価を獲得するために考えたこととして、扱い金額の増加や利益などはクライアントのビジネス状況も大きく影響するので、個人がどんなに努力しても達成できない部分はありましたが、そうではないリレーション構築、組織貢献、生産性向上などの自身の努力次第で達成できる評価指標は絶対に取りこぼさない、というのがまず私の中で立てた戦略でした。たとえアンコントローラブルな評価指標を達成できた年でも、コントロール可能な指標が未達だったことによって評価が下がってしまうことほどもったいないことはありません。それは個人の成果の進捗を正しく認識させて到達まで導けなかった管理職側のミスであり、「来期はこの指標も頑張りましょうね」とメンバーに責任転嫁して済まされる落ち度ではないのです。逆にコントローラブルな指標を完璧に、理想的には"大幅に"達成しておけば、アンコントローラブルな指標が達成できなかったとしても、評価会議において情状酌量をもらえる余地は高まるのではないでしょうか。
なので私は、特にこのコントローラブルな評価指標について、月次で個人成績をトラッキングし、チームメンバー全員に公表することに決めたのです。
なぜ個人成績を公表するのか
個人成績をトラッキングするのはマネジメントの仕事だというのはご理解いただけたとして、ではなぜそれを個人に1対1で伝えるのではなく、メンバー全員に公表する必要があるのでしょうか。それはやはり組織運営が「個人競技の団体戦」だからです。
自組織のメンバーは仲間であり敵ではないので、ここに競争原理を働かせるのは違うと私は考えました。なので出し抜いたり足を引っ張ったりするようなメンバーはいないという性善説が前提ですが、それでも未達ペースのメンバーを貶めるような空気ができてしまっては最悪です。ですので私は月一回のグループ会で個人成績を公表するとき、必ず「未到達ラインのメンバーの到達手段をチームで考えましょう」というメッセージを添えて伝えていました。個人の未達をチームでカバーするのです。
そもそも目標が未達のメンバーというのは、目標を忘れているか到達の方法が分からないかのどちらかで、意思をもって「自分は目標を到達しないんだ」と決めているメンバーはいません。なので前者はトラッキングしている限りありえないとすると、到達の方法さえわかってしまえば、コントロール可能な評価指標は必ず達成できるのです。
私の部署では例えば知見の共有数や新規事例の創出数、他部署との連携数などがそういった評価指標だったのですが、この個人成績のトラッキングと公表を始めてから「あなたがやっている案件のあの部分はみんなが参考になる知見だから共有した方がいい」「今度の案件で新しいソリューションとしてこれを提案してみては」「この与件だったらあの部署が専門スキルを持っているから相談してみては」などといった、具体的なアドバイスが飛び交うようになったのです。
これをマネージャー一人ですべて実行するのには限界がありますし、現場で直接一緒に仕事をしているメンバーの方が即時的かつ効果的なアドバイスができるのも事実です。そしてこの状況こそが「ヒト」というリソースが「ヒト」というリソースを拡大していく理想的な構図に他ならないのです。
以上、メンバーの個人成果の達成手段についてお話ししました。次の記事では、メンバーの活動をモチベートする「アワード」について考えてみたいと思います。
【目次】
マネジメントの本質
ビジョン
チームビルディング
組織運営
メンバー育成
目標設定、評価、フィードバック