ネガティブなフィードバック
前記事とその前の記事で、目標設定と評価業務への向き合い方を述べさせていただきました。これを実践すれば、あなたの部下が正当な評価を獲得できる確率は高まるはずです。しかし、会社の評価というものが常に限られた原資を取り合う構造になっている以上、常に全員が満足する評価を獲得することはできません。そうなった時は、マネージャーからの「ネガティブなフィードバック術」が求められます。
不当な評価の要因分析
決定された評価(評点、グレードなどの定量指標)を伝えるだけで納得するメンバーはいません。常に「自分はなぜこの評価なのか」を説明する責任がラインマネージャーにはあります。それはさらに踏み込んで「今後も継続していくべきアクション、より評価を上げていくために必要なアクションは何なのか」を考える出発点になるからです。今期の評価のフィードバックは来期の部下のパフォーマンスに大きく影響するという意味では、来期の成果は目標設定の前のフィードバックの時点から始まっているといっても過言ではないでしょう。
特にそれがネガティブな内容である場合、あなたは部下のモチベーションを落とすことなく、上手に来期に向かって前向きになれる状態を作ってあげないといけません。そのためにも、不当な評価の要因分析は不可欠なのです。
不当な評価の要因には3つあります。①メンバー当人、②共闘者たるあなた、③時の運、あるいはこれらの複合要因です。
①メンバー当人起因の場合
これに関しては、メンバー自身は評価に不服であっても、マネージャーであるあなたは結果に納得している状況でしょう。よって、改善点もあなたの目から見てクリアになっているので、それを単刀直入に伝える必要があります。改善点に関しては「部下のプライドを傷つけないように」とか「すねられないように」といって婉曲的な表現をしたり、気遣いをすることは必要ありません。単刀直入に言葉で伝えましょう。「全部は言わなくても、ここまで言ったらあとは分かるよね」という相手の理解力に任せた非言語的なコミュニケーションもNGです。課題点を正しく認識できなければ、正しい改善は見込めないからです。
そして多くの場合、この課題点は評価が出る前にメンバー自身も予期できるものです。あなたと部下の評価面談の時点で、設定した目標に対して未達の項目があり、それが評価上重要なポイントであったなら、その時点で期待値のコントロールをしておきましょう。これもネガティブなフィードバックによるショックを緩和することに役立ちます。
メンバーのモチベーション維持、前向き化は他の部分でフォローしましょう。どんなメンバーにだって必死に頑張った点はありますし、それを見つけて評価するのもマネージャーの役目です。
これらを総合すると、フィードバック面談で伝えるべき話は以下のようになるかと思います。
あなたは今期、本当によく頑張ってくれた。特に○○の部分での成果は著しく、これは評価会議でも非常に高い評価に値する。ありがとう。ただ残念ながら、評価面談の時も話していた通り、△△の部分での未達が響いてしまった。私も評価会議で必死に戦ったが、残念ながら△△は非常に重要な項目であり、減点は免れられなかった。これは非常にもったいない。あなたも満足していないことだろう。
ただ、△△の部分を改善できれば、あなたは一つ上のステージに行ける。それは評価を向上させるということだけではなく、あなたのキャリアを~~の方向に拡張させる意味を持つ。だから来期はこの点もしっかり意識して頑張ってほしい。
②あなた起因の場合
あなたは評価者ではなく、部下とともに正当な評価を勝ち取るための共闘者である以上、あなたが起因となって不当な評価が発生してしまう可能性もあることを認識しておきましょう。
例えば、そもそもの目標設定に問題があった場合。メンバーが期中を通じて努力を続けて達成した目標でも、他部署の同グレードのメンバーと比べて量的に不足していたら、メンバーの自己評価と乖離した結果が返ってきてしまいます。他部署のメンバーが全体的に想定以上に頑張っていたのであればその事実を正しく伝える必要がありますし、あってはならないことですがもし目標設定の見誤りがあったのであれば、それはきちんと認めて謝罪しなければなりません。もちろんそうなる前に、期中からきちんと自身のメンバーの目標達成状況を他組織との相対評価の中で把握しておき、必要あれば目標の修正も行うことが必要でしょう。
私の会社では、グループとしての示達予算をどうやって達成するかはマネージャーの裁量に任されていました。たとえば「クライアントA,B,Cの3社で3億円を稼ぐ」という目標を課されたとき、各クライアントの担当者にそれぞれ1億円の目標を設定するのか、A社担当者は1.5億円、B社担当者は1億円、C社担当者は5,000万円とするか、はマネージャーが決める項目でした。マネージャーにとっては最終的に合算で3億円を超えれば評価されるので大きな問題には映らないのですが、メンバーにとっては自身の目標が5,000万円になるか1.5億円になるかは死活問題です。そして現実に即していない目標を課され、それが未達だったから不当な評価を付けられる…というのはこの上ない字不条理です。ですので目標設定はそれだけの責任をもって行うべきですし、私の場合はそこの納得性も高めるために、目標を決める前にリーダーメンバーを示達予算配分の策定会議を開いて、きちんと合意を得たうえで全メンバーに公示していました。
③時の運による起因
これが最も説明が難しく、メンバーのモチベーションコントロールが困難な要因だと個人的には感じます。若手~中堅クラスでは基本的に起きない事象ですが、マネジメント=限られた枠への昇格以外に評価向上がない、というハトの巣原理が働くリーダークラスにおいては、本人が昇格要件を満たしているかどうかと同時に、ポストが空いているかどうかという外部要因が関わってきます。非ラインマネジメント職というポジションも企業によっては相当高い要件を課していたり枠数を限っていて、簡単に昇格できるものではないでしょう。これは本人の努力が及ばないところで評価が決まってしまうという点で、残念ながら時の運と呼ばざるを得ないと私は解釈しています。
なので、そのような状況に陥ってしまったメンバーに対して言えることは、「あなたは絶対にこれ以上の評価を獲得できるポテンシャルがあると私は確信している。残念ながら会社というものは常に合理的な評価を下す仕組みを持ち合わせていないが、だからこそ私も引き続き戦い続ける。いつか時の運がこちらに向くときにそれを確実に手にすることができるよう、これからも頑張っていこう。」といった内容ぐらいかと思います。
そして、そのような実力を持ったメンバーであれば、会社からの評価以外にもアワードの受賞やより高度な業務へのアサインを通して本人の実力を認めることができると思います。それで満足してもらえるとは思いませんし、やるべきことをやって不当な評価を下されたならそれはきちんと不満として持ち続けて戦うべきだと思いますが、少なくともあなたは評価者として、示せる誠意は最大限に示す必要があるでしょう。
評価と報酬
もう一つ忘れてはならない要素として、「報酬」があります。評価とはいわゆる職位やグレード、報酬とはそれにある程度紐づいて決まる賞与やベース給与です。ただし、報酬が完全かつ厳密に評価と連動している企業はないかと思います。特に賞与は会社の全体業績で決まるため、どんなに高い評価を獲得したメンバーでも、業績が悪くて賞与が下がる、という現象も起こりえます。
ここに対して中間管理職であるあなたができることはほぼないと思いますが、メンバーへの説明責任は負わされます。そしてメンバーのモチベーションが下がる不利益はあなたが直接被ります。ですので、あなたは評価の仕組みと同様に報酬の仕組みについても深く理解し、メンバーに納得のいく説明をしてあげる必要があることも忘れてはなりません。
私の時も、同様の事象が発生しましたが、その時は
あなたは確かに目標を達成して高い評価を獲得した。しかし報酬という側面においては、全社の業績に連動して減少している。これは目標を達成するだけではなく、全社レベルでインパクトを与える仕事をしなければならないことを意味している。会社の賞与原資を直接増やす業務とは、□□だ。個人として最高の評価を獲得するよりも、□□で全社の目標を達成した方が報酬はダイレクトに増える。これは私のグループやあなたに割り当てられた目標数字を達成するだけでなく、他組織の不足分も補うくらいまでけん引していく必要があるということだ。これからは目の前の目標だけにとらわれず、その先を見据えて頑張っていこう。
と言って、ミクロな視点からマクロな視点に切り替えさせるメッセージとして伝えていました。
以上、ネガティブなフィードバックにおける注意点をまとめました。
第一部、「戦略的組織設計」は以上となります。ここまでお読みいただきありがとうございました。これで組織マネジメントの本質と原理、個人競技の団体戦で勝つための基本設計は概ねご説明できたかと思います。
第二部の「戦略的組織マネジメント」では、こうして作り上げた組織をどうやって管理していくか、という点に焦点を当ててお話しできればと思います。組織は設計して終わりではありません。常に管理が必要であり、管理の仕方次第で生み出せる成果は大きく変わります。それこそが管理職が世に存在する理由であり、管理職という職務の醍醐味だと私は思います。
【目次】
マネジメントの本質
ビジョン
チームビルディング
組織運営
メンバー育成
目標設定、評価、フィードバック