
リーダー制のメリット
自組織のチームビルディングを推進していくにあたり、自身のグループをどう構造化するか?(あるいは構造化しないのか?)を考えてみましょう。
結論から言うと、グループ(部下の人数)が一定の規模を超えたらリーダー制を導入すべきです。リーダー制とは、メンバーの中でもスキルや経験値の高いメンバーをリーダーとして据え、他のメンバーからポジション上の差異を設けて異なるミッションを与えることを意味します。職務規定上の肩書きとは必ずしも連動している必要はありませんが、あなたからメンバー全員に「この人がリーダーである」と宣言し、メンバー全員がその人をリーダーと認め、ある程度の裁量権を与える必要があります。
リーダーのミッション
リーダーのミッションは、マネージャーでは行き届かない現場の管理と、管理職-現場の橋渡し役です。前者についてはメンバーの実業務の詳細な品質管理や育成業務、後者は現場の意見の吸い上げや管理職への提言などになります。前者はあえてリーダー制を施行しなくても、自覚を持ったメンバーであれば自然に実行してくれることもありますが、ここで特に述べたいのは後者についてです。リーダーは一般的にはマネージャーの、つまり管理職業務のサポート役と捉えられることが多いのですが、決して同質化してはいけません。マネージャーであるあなたはあくまで管理職=会社側、リーダーは現場メンバーの立場と、異なる観点からから意見をすり合わせ、最適解を見つけて組織運営に昇華させていくことがリーダーというポジションを作る最大の意義となります。あなたは最も現場に近い管理職、リーダーは管理職に最も近い現場メンバーということで、それぞれ会社と現場の代表という自覚を忘れてはいけないのです。
その意味で、リーダーは単に業務スキルや経験に長けているだけではなく、若手メンバーを見渡してグループの状況を把握し、個人的な意見だけではなくメンバーの総意を代弁できる必要があるので、そのような素養を持ったメンバーを選定することが重要です。
リーダー制を導入すべきグループ規模
リーダーの下には少なくとも2名の若手/中堅メンバーを配置し、リーダーを含めて3名以上のチームとなります。配下に1名しかいなければ、それは単純にトレーナー・トレーニーとしての関係で十分です。リーダーには複数名の現場作業の監督・状況把握が求められます。
そしてあなたの配下には2名以上のリーダーを選定するのが理想的です。1名のリーダーで事足りるのであれば、そもそもそれはあなたがやるべき仕事でしょう。また、マネジメントのスタイルが様々であるように、リーダーとしての在り方も個人差があります。リーダー同士が協業し、時に切磋琢磨し、あなたとリーダーで構成されるリーダーミーティングで様々な観点からの議論を展開するためにも、リーダーは複数人いた方が組織は効率的に運営できます。
つまり、2名以上のリーダー×3名以上のチーム=6名の部下を超えたとき、リーダー制を施行することを私は推奨します。
リーダー制のメリット
リーダー制を導入するメリットは大きく分けて3つあります。
1.情報伝達経路の整備
まず前提として、グループマネージャーはすべてのメンバーと1on1などの定期的な接点を持って情報収集に努めなければなりません。それでも頻度に限界はあるため、常に最新のメンバー状況・業務状況を正確に把握し続けることは困難です。こちらから違和感に気付いてヒアリングの時間を設けられば良いのですが、悪い事態はたいてい水面下で進行してマネージャーが感知できる状態になった時には打てる打開策は限られたものになっていますし、業務を拡大できるようなビジネスチャンスはメンバー本人が気づかないうちに機を逸していることもしばしばです。そのような事態を避けるためには、常に実業務上でメンバーと日常的に接しているリーダーにアンテナを張ってもらい、情報を吸い上げてもらうのが最も確実で効率的です。
また、メンバーから評価者であるあなたに対して直接的に言えないこともあるでしょう。特に自身の弱みや失敗など、評価の低下につながりそうな話題です。ただそういった情報を感知できず、具体的なフォロー策を講じられない状況は組織として大きなリスクになります。そのようなメンバーからの代弁機能、そして心理的安全性の担保役としてもリーダーの存在が必要になってくるのです。
メンバーに関する情報だけではなく、
2.若手人材のフォロー
詳細は「メンバー育成」の項目で触れますが、あなたが直接新入社員や中途入社社員の育成・指導に当たることは組織として最も効率が悪いことの一つです。「トレーナーのリソースが捻出できないからとりあえず管理職付けで基礎業務の習得を…」という判断もよく見受けられますが、管理職はマネジメント業務のプロであって、現場作業のプロからは多少なりとも引退した存在です。自グループ内を組織化し、現場の育成は現場に任せる。それが最も若手メンバーの自走化を早め、戦力化してリソースとしての「ヒト」を最大化できるポイントになります。
また、ここで言うフォローとは業務スキルの伝授にとどまらず、若手メンバーの育成計画の立案、進捗確認、必要な環境の整備も含みます。ですので、現場作業の具体的なトレーニングについてはほかの中堅社員のトレーナーをつける、という構造もおすすめです。(これも「メンバー育成」の項目で解説します)。いずれにしても、リーダーは中長期的な視野をもって、現場の立場から「チームビルディング」に寄与してもらう必要があります。
3.マネジメント人材の育成
リーダー制の最大のメリットはこれです。どんな企業でも優秀なマネジメント人材の育成に頭を悩ませていることと思いますが、中間管理職の必要条件が「現場スキルに長けていること」である以上、優秀な中間管理職は基本的には自組織の中からしか生まれてきません。ではその育成のために最も効果的な方法は何か?答えは単純で、「現場メンバー時代からマネージャーになりえるトレーニングを積んでおくこと」です。リーダーというポジションは若手メンバーをマネジメントし、あなたを通して管理職の業務を疑似体験することができるので、次期マネージャー候補としてのトレーニングを積むのに最も適した環境であるといえます。
あなたがグループ運営について相談すればするだけ、リーダーは組織運営について自ら情報収集をするようなり、自らの頭で考えて返答をしてくれるようになるでしょう。その過程で鍛えられる行動力と思考力は、いつか彼・彼女が管理職になった時に大きなアドバンテージとなることは確実です。
ですので、リーダー当人にはこの視点をもってアサインを受けてもらう必要があります。つまりあなたがリーダーを任命する際に、ゆくゆくは管理職を目指してほしいという期待を明確に伝えなければなりません。もちろんリーダーは複数人存在するので、必ずしも管理職になれる保証はできません。しかし管理職を目指しているメンバーにとってはこれほどモチベートされることはありませんし、管理職を意識したことがないメンバーにおいては自身でその素質を見極め、新たなキャリアに向かってチャレンジしていくための大きなチャンスになります。
リーダー制を施行すること、そしてリーダーを選定することは、以上のことを見据えて進行する必要があり、あなたにも任命される当人にも、相当な覚悟が必要です。しかしこれがうまく機能すれば、あなたの組織も企業も「ヒト」のリソース最大化というこの上ないメリットを享受できることになるでしょう。
【目次】
マネジメントの本質
ビジョン
チームビルディング
組織運営
メンバー育成
目標設定、評価、フィードバック