活動計画に全力を注げ
ラインマネージャーに就任したらまず最初に何から取り掛かるべきか?…ということを考える間もなく、前任者からの引き継ぎや上司からの指示、あいさつ回り、管理職としてやらなければならない庶務の把握、クライアント対応、メンバー対応、etc…に追われることになると思いますが、絶対に後回しにしてはいけないものがあります。それは「この組織は何を目的に置き、何をやっていくのか」の明文化とチームへの発信です。それは「活動計画」でも「ミッション、ビジョン、バリュー」でも、名前は何でも良いでしょう。とにかく自グループが「あるアクションをやるか、やらないか、どれくらいやるか」の判断に迫られた時の判断基準になり、1年が終わった時の評価の基準になるものであり、メンバーのモチベーションを上げるような、「自組織内の共通認識」を作り上げることが重要です。
活動計画の意義
メンバーは常に「今の自分の組織はどういう状況なのか」「自分のやっている仕事はこのままでいいのか」「自分の仕事は全体の中でどういう位置づけで何に貢献できているのか」などという不安を抱えながら業務に当たっています。他の労働環境が全く同じだったとしても、不安を抱えながら働く人と確信を持って働く人のアウトプットクオリティには天地の差が生まれます。なのであなたはまず、ここについてメンバーが理解するまで説明し、可能な限り不安を払拭する必要があるのです。
また、もっと実力を発揮してほしいメンバーにネガティブなフィードバックをしなければならない場面もいつか訪れるでしょう。その時にただ「もっと~~をやってくれ」としか言えないのか、「活動計画で言った通り我々は〇〇を目指している。あなたには~~の部分でもっと実力を発揮してもらわないとそれは達成できない」と言えるかで、本人の受け取り方もその後の行動も大きく変わります。
それらの拠り所になるのはすべて、自組織の活動計画になるのです。
活動計画は、マネージャーであるあなたにとっての拠り所にもなります。どれだけ強固な意思を持つ人でも、マネージャーという不確定要素の多い中で意思決定を迫られる立場に立って迷わない人はいません。その時に立ち戻るのはいつも「自分は何を目指していたのか」です。これは自身の中にとどめておくよりも、明文化して公言しておくことでより強い意味を持ちます。あなた自身の決断・行動を周囲に説明するための手助けにもなりますし、あなたの上司にも共有しておけば、上位階層でのリソース調達にも動いてもらえるかもしれません。
期中に自組織が目標に対して達成ペースなのか、改善が必要なのか…改善が必要なのであればアクションプランの実行状況はどうなのか、新たなプランが必要なのか…といった状況分析と軌道修正をするにも、自分たちの出発点とゴールの認識が正確でなければ、現在地が分かっていたとて「次の一歩をどこに踏み出すか」を決めることができません。
活動計画をなぁなぁな状態で始めてしまうと、そうしたマネジメントの本質を掴むまでに時間がかかり、組織の強化も目標の達成も図れないのです。
全社・上位組織の活動計画では不完全
もちろん会社や上位組織としての活動計画は行われることでしょう。しかし、これらをそのまま自組織の活動計画として採用することはできません。なぜならそれはあなた以外の組織の事も含めて考えられた、極めて汎用的で、言ってしまえば解像度の低い内容だからです。その中で述べられているアクションプランについても、あなたの組織の状況によってはやる必要のないものや、もっと優先してやるべきこともあるでしょう。「会社の活動計画ではこういうことが述べられていた。これを実現するために、我々は具体的に〇〇をやっていく」と言った具合に、全社や上位組織の活動計画を、あたなたはマネージャーとして自組織のメンバーに上手に翻訳しながら解像度を上げていくていく必要があるのです。
逆に言えば、部下が「会社の言っていることがよくわからない」「経営陣は全然現場の自分たちのことを分かっていない」などと言っているのであれば、それは100%直属の上司であるあなたの責任となります。もちろんあなたの職権が及ばない範囲の話もあると思いますが、そこも含めて上手に本音と建前を使い分けながら、部下が迷いなく業務に当れる状況を作り出すことが、中間管理職であるあなたの役目なのです。
全社・上位組織の活動計画と自部署の活動計画の接着の仕方として、私がよく活用する翻訳の構文を5パターン上げておきますで、ぜひ参考にしてみてください。
全社活動計画では〇〇が求められているが、これは我々が今までやってきて既に結果を出している領域だ。だから引き続き全社を牽引する気概で取り組むし、他組織への知見の共有も積極的に行っていく。
全社活動計画では〇〇が求められているが、これは我々が今までやってきているものの結果が出ていない領域だ。ここに対してやり方を変えて/強化して□□の方法でやっていく。
全社活動計画では〇〇が求められているが、これは我々が今まで意識してやってこなかった領域だ。なのでまずは意識化して取り組むことから初め、トラッキングとPDCAを遂行して結果を出していこう。
全社活動計画では〇〇が求められているが、これは我々が今までやってこなかった領域だ。ここに対して必要なリソースはこういう風に調達するので、みんなでチャレンジしていこう。
全社活動計画では〇〇が求められているが、これは我々の組織の目的から完全に外れるものだ。だから我々はここにはリソースを投下しないし、ここでチームや個人の評価が決まらないように上層部に根回しをしておくから安心してほしい。
そして同じ構造で、あなたの組織の活動計画が、メンバー個人の行動目標にそのまま落ちることもないでしょう。これは後の章で述べますが、「活動計画」と「個人の行動目標」の間にも翻訳が必要であり、解像度の向上が必要であることを意味しています。
よくある活動計画
前述の通り、どんな中間管理職にも基本的には会社から全体方針が落ちてくることでしょう。私が所属していたフロント組織では一番の成果指標は売上総利益(NSR)でしたので、全社の目標NSR額を事業部、グループごとに細分化した数字が自組織の目標として定められていました。
この数字をメールやチャットツールで共有して終わり、というのは論外ですが、ではこの目標数字をもとに活動計画を作ってくださいと言われたら、あなたはどんなアジェンダを組みますか?
一般的には
前期の成果と振り返り、現状分析
今期の目標数字
目標の達成方法、その課題と達成手段、詳細アクションプラン
といった内容になるのではないでしょうか。
もちろんこれらは必須要素となりますが、これだけではメンバーをモチベートすることは難しいでしょう。なぜなら、ここには「あなたがマネージャーとしてチームをどうしていきたいか」が現れにくいからです。
数字はメールやチャットツールで伝えれば、それ以上の情報はありません。アクションプランについては、中間管理職レイヤーではこれまでの業務をドラスティックに変えるようなものを発案・実行することも難しいでしょう。また、程度の差はあれ現場から離れているあなたが語るアクションプランが、現場メンバーにとっては絵に描いた餅に映ることもあります。
そうではなく、本当に秀逸なアクションプランを組んだとしても…それがメンバーにとって「やってやろう!」という気持ちを引き起こさせないのであれば、残念ながらその活動計画は失敗です。活動計画とは文字通り、メンバーのこれからの活動を喚起し変革させるために行うものだからです。
ではどのような内容を組み、どのようにメンバーに伝えれば良いのか?
次の章ではそのあたりに触れてみたいと思います。
【目次】